Increments株式会社元CEO 海野 弘成さん

エンジニアは、最高に起業に向いている

2020年03月30日

MIRAISE Storyでは気鋭のプログラマー起業家たちとの対談を連載していきます。

第1回目のゲストは、株式会社Increments代表取締役(※)の海野弘成さん。同社が運営する『Qiita』は、プログラミングに特化した情報共有コミュニティとして、日本中のプログラマーから高く支持されています。MIRAISEメンターでもある海野さんに、起業に至る道のりや、プログラマー起業の意義についてお話を伺いました。

(※ 海野さんは2019年12月27日付けでincrements社の代表取締役を退任され、現在はアドバイザーとして同社を支援されています。本インタビューは2019年9月18日に行われたものです)

経営者として、そして投資家としてバトンをつないでいく

岩田:Incrementsの運営するQiitaはちょうど8周年を迎えたところだそうですね。おめでとうございます。

海野:ありがとうございます。7年前に3人で設立したIncrementsは、今では社員約15人となりました。運営するQiitaは、訪問者数700万人を超えています。エンジニアが自分の学びやプログラミングのノウハウを共有できる場があれば、と思って開発したQiitaですが、ここまでプログラマーに広く浸透してくれて、本当にうれしく思っています。

岩田:おそらく、日本のプログラマーは100%使っているんじゃないかと。デファクトスタンダードですよね、すごいことです。ところで、一昨年に株式会社エイチームの傘下となりましたが、何か変化はありましたか?

海野:人の交流があったり、何かと相談に乗ってもらたりという点では心強いですね。事業により集中できる環境になりました。

岩田:海野さんは、経営者として第一線で活躍する一方で、投資家としての活動もしていらっしゃいますね。MIRAISEにもメンターとしてご協力頂いていますが、エンジェル投資家となった理由を聞かせていただけますか?

海野:私たちも、スタートアップ期に当時Open Network Labの前田ヒロさん(現BEENEXTのManaging Partner)や、heyの佐藤裕介さんなどから支援を受けました。そこでさまざまなことを教えてもらったり、人をつないでもらったりなどのサポートが本当に役立ったんですね。こうした支援がなかったら、スタートアップを乗り切れなかったんじゃないかと思っています。ですから自分も、これから事業を立ち上げるエンジニアたちを応援していきたい。資金面ももちろんですが、サービスづくりや経営の経験も伝えていければと。支援先は、自分がその起業家や事業にいかに貢献できるかという観点で選んでいます。興味を持てるか、面白いと感じるかということも大切ですね。現在は3社に出資しています。

岩田:自分がしてもらったことを次の人にも渡していこう、という気持ちはとても素晴らしいです。「pass the baton」ですね!スタートアップのエコシステムは、そうして回っていくものと思っています。以前僕のメンターが「自分が持っているものを人にすべて渡してしまうことで自分を空っぽにする。そのことで自分もまた初心に還って頑張ろうと思える」と言っていて、僕も実践するようにしています。

海野:自分の経験から得た学びやノウハウを伝える側としても、大いに刺激がありますよね。スタートアップの起業家たちは、すごく楽しそうに、そしてものすごく必死になってやっている。そんな姿を見ると、自分もそうした必死さを忘れてはいけないと思いを新たにします。

中学時代に出合ったあのベストセラーが、起業への道を示した

岩田:日本では理系と文系の分断が深くて、理系はひたすらものづくり、ビジネスは文系がするんでしょ、という考え方が今でも根深いと感じます。そんな中で、どうして海野さんは起業という道を選んだのでしょうか?

海野:最初のきっかけは、中学1、2年頃に読んだ『金持ち父さん 貧乏父さん』(ロバート・キヨサキ著)でした。当時、よく行っていた古本屋にたくさん並んでいたんですよね(笑)僕はごく一般的なサラリーマン家庭で育ったので、会社に入って給料もらって、という生き方が当たり前だと思っていたのですが、この本を読んで「会社を作る」っていう道があるんだと初めて知りました。大学を選ぶときは、コンピュータサイエンスか経営学かどちらかにしようと思っていました。結果として、コンピュータサイエンスを選んだわけですが。

岩田:文系の学問は本などで自力で学ぶこともできますが、理系は実験設備が必要だったり、高速の計算機が必要だったりして独学は難しいですよね。そういう意味では、文系分野と理系分野とで進路を迷ったら、理系を選ぶ方が自然な気がします。その後大学に進んでからも、ずっと起業を志していたのですか?

海野:すごく強い思いを持っていたわけではなかったのですが、大学時代に2つの転機がありました。ひとつは、「JTPAシリコンバレー・カンファレンス2008」というイベントで当地を訪問したことです。シリコンバレーで働いている日本人たちの話を聞いたり、スタートアップ企業をツアーで回ったりしました。Dropboxのオフィスにも行ったんですけど、本当に小さなオフィスに十数人しかいなくて、ゲーム部屋とかドラムセットとかがあって(笑)当時、Dropboxのユーザーはすでに数百万人規模でしたが、たった十数人がそんな大きなサービスを手掛けているということに衝撃を受けました。それで、ベンチャーというものにより興味を持つようになったのです。もうひとつの転機は、ビジネスコンテストへの参加でした。そこで、のちに共に起業することになる2人の仲間と出会ったのです。

岩田:その話からすると、海野さんのIncrementsのメンバーが15人と聞いたら、びっくりする学生も多いかも知れませんね。日本のエンジニアを網羅するようなサービスを、こんな少人数で!と。そんなインパクトも、学生が起業を目指すきっかけになりそうですね。僕の場合は、起業の最初って子どもの頃の基地づくりに似ていると思ってました。分からないこと知らないこともたくさんあるし、失敗する可能性もあるけど、自分たちで何かを始めることに本当にワクワクするんですよね。

作る喜び」から「使ってもらう」喜びへ

岩田:現在では、起業ゼミがある大学も多いようですね。一つ余談というか、大学で起業ゼミを実際に展開していた知人に聞いた残念な話を聞いたことがあります。その起業ゼミは評判を集め人気になって喜んでいたときに、そのゼミを選んだ理由を学生に聞いてみたところ「起業ゼミに入ると就職に有利らしいから」と。やる気無くなると言っていました(笑)スタートアップ企業でインターンをする学生も増えているんですけど、やっぱり理由は「インターンすると大企業への就職に有利だから」。楽しそうにインターンをしているように見えるのですが、自分が実際に働くとなったら大手企業を求めてしまうようです。

海野:でも、エンジニアは「新卒チケット」を使わなくても何とか仕事はやっていけますよね。食いっぱぐれることがないというセーフティラインが機能する。僕が起業に踏み切れたのも、最悪、失敗してもなんとかなるなと思っていたのが大きいです。

岩田:エンジニア起業のメリットも一つですね。起業という点において、実はエンジニアは最もリスクが低い人種だと思います。腕一本で食べていけますから。ましてや今は人材不足でみんなエンジニアを欲しがっているので、たとえ起業に失敗したとしても、就職でも受託でもどうとでもやっていける。

海野:あとは、起業すると無理矢理にでもビジネスやお金について学んでいくことになります。マーケティングや営業活動など、ビジネスの全領域が必然的に身についていく。当たり前なんですけど、いいコードを書いたら、いいサービスを作ったらその分もらえるお金が増えるわけじゃない。生み出した価値がどうお金になっていくのかを必死で考えて、トライアンドエラーを繰り返して感覚を掴んでいきました。プログラマーは「ものを作る」のではなく、「価値を生み出す」「課題を解決する」存在だと、マインドが変わりましたね。

岩田:作る喜びから、使ってもらえる喜びへの変化ですね。起業は最高のビジネススクールと言えるのかもしれません。

起業において「ものが作れる」は最大の強み

岩田:海野さんが感じる、エンジニア起業家のメリットはその他にもありますか?

海野:IT領域で、エンジニアリングがまったくわからずに社長をするってすごく怖いことだと思います。例えば、あるサービスを作るのにどれくらい時間がかかるのか、1か月なのか1年なのか、そういった感覚がわからないと、意思決定はとても難しくなってしまう。施策を出して、戻ってきたら何か違うってなって、また戻して…と時間もかかる。でも、エンジニア起業家にとってはそうした判断は難しくない。僕も、ちょっとした施策なら自分でコード書きますし。身についた肌感覚があるというのは大きなメリットだと思います。

岩田:日本の経営で危険だなと思うのは、経営とテクノロジーを分離して考えていることだと思います。今はもう、テクノロジーは経営そのものなんです。ある社会課題を解決するためのプロダクトの作り方はたくさんあるのですが、技術的なバックグラウンドがないと、ソリューションの選択肢が限られてしまうんですよね。海野さんの言う、ちょっとしたものが作れちゃうというのは、これからの起業にとって大きな強みになると思います。人を雇ったり、外注したりする必要がないんですよね。プログラマーはコード書くことが好きですから(笑)、趣味も兼ねていろいろ作って公開してみて、ちょっと手応えがあれば起業する、そんなやり方もできますよね。

海野:企画から実装まで、ひとりで完結できてしまいますからね。個人プロジェクトとしてスタートできる。僕も大学在学中にサービスを作り始めて、卒業後すぐに公開しています。反応がよかったので、半年後に法人登記をしました。ダメなら、その時点で就職でも受託でも考えればいいわけですから。

岩田:ものを作れるということは、起業において非常に有利ですね。自分でどんどん試していけますから。そして、作っている間にスキルもどんどん上がっていく。起業は、エンジニアにとって良い選択肢なのではないかと思います。

海野:起業はすべて自分次第ですよね。すべてが結果責任だから、シンプルでいいなと感じています。

岩田:人は弱いから、すぐ人のせいにしたがる。でも起業なら、それをせずに済むんです。何か失敗しても「俺のバカ!」で終わり。人のせいにして自己嫌悪に陥る必要がない、そのことだけでもQOLが向上すると個人的には思っています。

もっともっと、社会に「変化」を起こしていきたい

岩田:エンジニア起業家としての、海野さんの今後の展望を教えていただけますか?

海野:今後も、新しいサービスを作り続けていきたいと思っています。「自分がやった」世界と、「自分がやらなかった」世界との差分を大きくしていきたいという思いを、指針として常に持っています。パラレルワールド、アナザーワールドのような考え方ですね。アニメ『STEINS;GATE』の「世界線」と言ったら、わかる人もいるでしょうか(笑)例えば、僕たちがQiitaを思いついて世に出して今の世界があるわけですが、もしQiitaがこの世になかったらどうなっていたかなと。そのように、自分がやらなければ起きなかった変化を、ものづくりを通して実現していくというのがすごく楽しいので、それをやり続けたい。

岩田:起業も就職も、それぞれ大変なことがあります。同じ大変なら、自分でコントロールできる方がいいと僕は思っていました。誰にでも起業を焚きつけるつもりはありませんが、起業という選択肢があることを多くの人が知ってほしいと思います。

海野さんのお話を伺って、ますますその思いを強くしました。本日はありがとうございました。

Interviewee Profile:

Shin Iwata

CEO & Partner, MIRASE