「MIRAISE TREND 2022」 フルバージョン

2022年1月21日

MIRAISEはソフトウェアエンジニアが起業した会社へ投資する日本で唯一のベンチャーキャピタルです。日本、US、エストニアなどに拠点を置く、ソフトウェアスタートアップ36社に出資を行っています。(2021年12月時点)

普段より国内外のソフトウェアスタートアップを調査し、テック企業の方と交流し情報交換を行っています。

MIRAISEからスタートアップに関わる方へ向け今年2022年のトレンドを発表したいと思います。是非お役立てください。

また、今年は各コンテンツの音声コンテンツも順次配信しますので、お楽しみください。

目次

  1. クリエイティブ制作のクラウドへのシフトが加速

  2. Webの3D技術がついに日の目を浴びる

  3. オープンソースのマネタイズ手法が多様化

  4. ユニコーン企業のプラットフォーム化が進む

  5. パーソナルサーバー2.0

  6. VRアプリが急増

  7. クラウドサービスの多層化

1. クリエイティブ制作のクラウドへのシフトが加速

Creative production shift to Cloud

これまで、プログラミングやデザイン、動画編集などコンピューターのマシンパワーを必要とする作業はWindowsやMacのデスクトップアプリケーションとして提供されてきました。

単独での作業では不都合はないですが、チームでのコラボレーションでは各人が作業したものをサーバーにアップロードし、他の人がダウンロードして編集して再度アップロードする手間が必要になります。

Google Drive の Document や Presentation など軽量なデータのやりとりはブラウザ上で同時にアクセスして共同で編集することが可能になっていますがクリエイターが使うツールはこれまでほとんどありませんでした。

ここへきて、ブラウザ周辺の技術進歩やリモートワークの普及によりクリエイターが使うツールをブラウザで動くようにするソフトウェアを開発するスタートアップが増えてきています。

累計 90M USD以上を調達している動画制作のコラボレーションツールを開発している 米Frame.io社は 米Adobe社に12億7500万ドルで買収され、エンジニア向けのオンラインコラボレーションツールの 米Repl.it 社は2021年2月に 20M USD、 同年12月に 80M USDを調達しています。

出典: Frame.io(https://www.frame.io/) 米Adobe社が買収したFrame.ioは高度な動画編集をコラボレーションしながら作成することができる。

背景の一つに「個の職人化」もあるでしょう。PC性能の向上や、インターネットの普及に伴いプロの技術やノウハウが広く共有されることで、それまで趣味程度だった個人のクリエイティビティがお互いに刺激を与え合い、爆発的にクオリティが高まっています。クリエイターの裾野が拡大する中、柔軟なコラボレーションを支えらえる方向へツールが向かっていくのは自然な流れです。

歴史的にみるとシンクライアント(Thin Client)とファットクライアント(Fat Client)の中間に位置するリッチクライアント(Rich Client)の隆盛と言って良い状況です。Web技術の進化と、クラウド側の計算力向上(計算のためのコスト低下)が大きく進化したことが大きな要因です。

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2. Webの3D技術がついに日の目を浴びる

Web 3D technology finally sees the light of day

今年は米Epic Games社がメタバースの為に1,000M USDの資金調達を実施し、提供するゲームであるフォートナイト内でのバーチャルライブでトラビス・スコットが2,700万人を動員し20億円以上の売上げを記録し、米Facebook社が社名を Meta に変更したことで一気にメタバースという単語が浸透しました。

注目すべきは今までおもちゃのような扱いを受けてきたウェブ上の3D技術が急速に意味のあるものへと価値を高めていることです。2DのWebサイトに3Dの技術は今まで用途が限定されていましたがメタバースの世界でユーザーは2Dと3Dを行き来するので Webの3D技術に取り組む企業が重要になると予想します。今ほとんどのWebコンテンツは2Dのままでありそのコンテンツと3Dの接点がWebの3D技術になっています。

3D e-コマースの 米VNTANA社 はECサイト上で製品を3Dに見せる技術を持っており、2021年11月にシリーズA で10.5M USDを調達し、投資家の中には米Oculus社 前CEOのBrendan Iribe氏も参加しています。

出典: The World's First 3D CMS Built for 3D and AR at Scale (https://www.vntana.com/products/3d-cms/) VNTANAは画像から3Dコンテンツを作成するCMSを提供している。

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3. オープンソースのマネタイズ手法が多様化

Monetization of OSS diverse

オープンソース(OSS) のマネタイズ手法は古くはサポートに始まり、現在はホスティングが主流になってきています。たとえばデータ解析ツールの Redash はOSS版を自前でサーバーへホスティングする場合は無償で提供し、Redash社のホスティングを使う場合は月額の料金がかかるというビジネスモデルです。

多くのOSSがサーバーへのホスティングをマネタイズ手法にしている中、新しい手法も増えてきました。ワークフローマネジメントツールのOSSを開発している米Prefect社 はホスティングではなく正常に動いているかどうかをモニタリングするサービスでマネタイズしており、日Frame00社はブロックチェーン技術を応用したDeFiを使用し、OSSプロジェクトへユーザーが仮想通貨Devトークンを預けること(ステーキング)で発生するリターンをOSS開発者と支援者双方に還元するような仕組みを提供し、これまで1,600件以上のOSSプロジェクトに3億円以上が預けられています。

出典: Dev Airdrop (https://airdrop.devprotocol.xyz/) DevプロトコルのStakes.socialのAPYは50%近い。

OSS開発はコミュニティがベースとなっているので、同じくコミュニティによる運営がなされているトークンとの親和性は非常に高いです。このようにOSSプロジェクトや、OSSでプロダクトを提供している運営会社はトークンによる資金調達やマネタイズが進んでいくと、法定通貨の時価総額だけではその事業体の価値が測れなくなってきます。特に事業投資を行うベンチャーキャピタルなどは、投資対象の事業体を目利き(評価)する際には、これまでの法定通貨による帳簿、財務諸表だけでなく、より実態を見極めることが大事になります。

米VC、Andreessen HorowitzがOSSへの投資を拡大していることからも分かる通り、今まで「ボランティア」「儲からない」と考えられていたOSSが投資の観点からも目が離せなくなってきました。

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4. ユニコーン企業のプラットフォーム化が進む

Opportunity by platforming unicorn companies

ユニコーン企業は今や800社以上あり(2021年11月時点)、2021年は1営業日に2,3社ユニコーンが誕生しています。特筆すべきはユニコーン企業が提供するデータ(API) を使ったプロダクトを開発する企業群が次のユニコーンになりつつあることです。

デザインデータを自動でコード化するツールをつくっている 米Anima社 はデザイン作成ツールのユニコーン企業、米Figma社の API を使用することでサービスを提供しており今年9月に10M USDを調達しています。

国内でも ノート・ワークスペースサービスを提供する Notion の API を使って簡単に Webページを作成することができる Anotion(現Wraptas) を日ラクスル社傘下のペライチ社が買収しています。

出典: Unicorn Board Leaps To Just Under 1,000 Companies, Reaches $3.4T In Value (https://news.crunchbase.com/news/crunchbase-unicorn-board-1000-companies/) 2021年に入りユニコーン入りする企業が加速。


古今東西、あらゆるプロダクトは普及が進むと、意図的にあるいは強制的にプラットフォーム化していく運命をたどります。ソフトウェアが席巻する今、その傾向はより顕著です。

これまでは歴史と権威のある企業のみが信頼できるインフラを提供しているイメージでしたが、ソフトウェア時代になり、テックを牽引しているスタートアップの持続性と信頼性が増てインフラ化し、その上に更に新たなサービスが生まれています。ユニコーン企業が次のユニコーン企業量産のためのプラットフォームになっているのです。

この文脈で最も重要なのは、上記でも触れられているAPI(Application Programming Interface)とエコシステムの考え方です。囲い込みの時代にはとうの昔に幕が降ろされ、今や「API連携なくして成功なし」と言い切れる状況です。API自体は新しいものではなく、以前から存在していました。何が変わってきたのでしょうか。

過去APIを提供していたのは主にWindowsやMacなどのOSでした。サードパーティはOSのAPIを使って、そのOS上で動作するアプリケーション(画像編集ソフトやブラウザなど)を開発していました。つまりエコシステムがOSごとに存在していたのです。

それがWebアプリケーション全盛時代になると、多数のユーザーを持つWebアプリケーションがAPIを公開するようになります。それによりアプリケーション同士が「横に」繋がり合い、機能が拡張されたり用途が広がるのです。つまり他社とのAPI連携によって自社だけでは実現できないレベルでユーザーの利便性が大きく向上していくということです。自社サービスは、その循環の一部として存在することで、自社のサービスの利用頻度やユーザー数が更に増えるというわけです。

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5. パーソナルサーバー2.0

Personal Server 2.0

今現在、自宅にサーバーがあると聞いてどのような印象を持つでしょうか。きっとマニアックなハッカーやエンジニアなど一部の限られた人種の所業に違いないと思われるでしょう。しかし、10年後には自宅にサーバーがあることが当たり前になっている可能性があります。

ビッグテックなどプライバシーの観点から、プラットフォームへの信用度が落ちる中、データを自分でコントロールしたいユーザーは増えています。残念なことに、現在のところそれに見合ったサービスは出てきていません。一方で、水面下(?)においてその問題に取り組むスタートアップは増えています。

加Functionland社はGoogle PhotosやApple Photosと同様の機能を自宅サーバーでホスティング可能なオープンソースのソフトウェアPhotosを提供し、Umbrel社 はビットコインのライトニングネットワークを自宅で運用できるハードウェアを販売しておりそのハードウェア内にはストアがあり、メールサーバーやチャットサーバーなどをコードを書かずにApp Storeのようにインストールできます。

近い将来誰もがWi-Fiルーターや AppleTVと同じように自宅にサーバーを置く時代が来ることが予想されます。

出典: Umbrel raises $3M in seed round to get a server in every home (https://blog.getumbrel.com/seed-6d09aa08f8ac) 2020年に発行されたライトニングネットワークのノードの90%をUmbrelが動かしている。

これはクラウドのディスラプションでもあります。データのプライバシー強度に応じて、その保管場所がクラウドまたはパーソナルサーバーに自動的に振り分けられるようになるかも知れません。

一方、パーソナルサーバーにデータを保管した場合の懸念はバックアップを自分で取る必要があることです。IPFSなどの分散ストレージを活用することでデータを冗長化する方法も考えられます。さらに自身もパーソナルサーバーのストレージ提供することでFilecoinを対価として得るといったクラウドビジネスの個人化が起きるかも知れません。

もう一つの観点は個人開発者が気軽にオンラインサービスの提供者になり得ることです。自分で作ったサービスをホスティング無しで手軽に公開できるようになるし、何より面白いのは、それをApp Storeで販売することも可能になる点です。クラウド提供事業者はビジネスが競合するためにイノベーションのジレンマが生じます。どのタイミングでどのようにパーソナルサーバーとの差別化をクラウド側に盛り込んでいくのか、舵取りを迫られるかも知れません。

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6. VRアプリが急増

VR apps surge

VR業界の主なマネタイズ手法は、開発したアプリを Steam や Oculus Store で売り切りで提供することが主になっていました。ただこの方法だと、有名なゲームをつくると一時的に収入は上がる一方で安定して収入を得ることは難しいです。

米Meta社 (元Facebook) は今年Oculus Questプラットフォームの開発者向けにサブスクリプションでの課金の仕組みを公開しました。また、VR内への広告サービスを開始することも発表しています。

VRアプリのマネタイズ方法が増えることで開発者も増えることが予想されます。

出典: 2020 AUGMENTED AND VIRTUAL REALITY SURVEY REPORT(https://www.perkinscoie.com/images/content/2/3/231654/2020-AR-VR-Survey-v3.pdf) 2020年まではマネタイズ手法が確立されていない状況が伺える。

VRアプリが増えることはとても楽しみですが、そうなった場合モバイルアプリにおける App Store や Google Play のようにVRプラットフォームが手数料を取るようになっていくのは間違いないでしょう。

各陣営でプラットフォーム競争が起こり、キラーアプリがすべてのプラットフォームで使えるようになり、アプリが強くなるというモバイルアプリと同じ流れがVRアプリにも起きることが予想されます(例:米Epic Games社)。

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7. クラウドサービスの多層化

Overlay cloud service

クラウドサーバーが一般的になった現在、物理サーバーを触る人はほとんどいなくなってきました。今のクラウドサーバーは Microsoft Azure、Google GCP、Amazon AWS の三強体制が続いており大企業から個人開発者までこの3社のクラウドを直接契約しています。

しかし、それも少しずつ変化してきており、三強のクラウドよりも特化し、より使いやすいUIを備えたクラウドを提供するスタートアップも増えています。フロントエンドのホスティングに強い 米Vercel社は今年1月にシリーズCで 102M USD、11月にシリーズDで105M USDの大型調達を立て続けに実施しており、静的サイトのホスティングに強い 米Netlify社もシリーズD で105M USDを調達しています。

開発者はこれらのサービスを使うことで Microsoft や Google、Amazon と契約しない時代に差し掛かっています。

出典: Global Cloud services Market Q1 2021(https://www.canalys.com/newsroom/global-cloud-market-Q121) グローバルのシェアではAWS, Microsoft, Googleがトップ 3の位置にいる。

現在多くの開発者は、使いたいツールの制約によってクラウドを使い分けています。例えばベースはAWSだが、バックエンドにFirebaseを使いたいので部分的にGCPにしているようなケースです。

クラウドサービスの多層化とはAWS、GCP、Azureといったベースクラウド層を隠蔽またはオーバレイする(自動振り分けする)レイヤーを意味します。そもそもツール(アプリ)の要請を受けて低レベルのクラウドを合わせるというのは技術的にはおかしな話です。

今のプログラマがメモリ管理を気にせずコーディング出来るようになっているのと同様、レイヤーを跨ぐような心配事が取り除かれていくことでアプリケーション開発に集中できるようになります。ポインタを知るプログラマが希少種になっているように、近い将来AWSを知らないWeb開発者が増えていくかも知れません。

いずれにせよ、Webアプリケーション開発が複雑化するにつれて、クラウドオーバレイの要望は高まっていくでしょう。巨大なアプリケーションになると、自前でクラウドを持つ流れも起きています。米Dropbox社もAWSから自前のクラウドへ移行したことで売上原価が大幅に改善しIPOに至った事例が代表的です。

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MIRAISEの情報発信

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最後に

お読みいただきありがとうございました。
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