「MIRAISE TREND 2021」 フルバージョン

2021年1月28日

MIRAISEはソフトウェアエンジニアが起業した会社へ投資する日本で唯一のベンチャーキャピタルです。普段から国内外のソフトウェアスタートアップを調査し、テック企業の方と交流し情報交換を行っています。

MIRAISEからスタートアップに関わる方へ向け今年2021年のトレンドを発表したいと思います。是非お役立てください。

目次

  1. Deviceless VR

  2. De-Fi

  3. Serverless

  4. Contents for next smartphone

  5. Nocode for Engineer

  6. Virtual HQ

1. Deviceless VR

昨年 Oculus Quest2 が発売され、VRヘッドセットを持つ人が増えてはいますが一般家庭に普及するのにはもう少しかかると思います。

一方VRの会社でも国内ではクラスター社などVRヘッドセットを使用せずにブラウザやアプリからバーチャル体験が可能になるプロダクトがユーザーを増やしています。Tomorrowland という世界規模の音楽フェスもコロナ禍でオンライン上にバーチャルステージをつくりDJを合成してリアルさながらのオンライン開催をしています。

ガートナージャパンが毎年公開しているテクノロジーのハイプ・サイクルによると2020年の時点で複合現実(MR)は過度な期待のピーク期にあり、拡張現実(AR)は幻滅期に来ているとしています。幻滅期とは実用レベルでの評価が始まったということであり、今後様々な分野での適用が模索されていく中で細分化と他のテクノロジーとの組み合わせによるソリューション構築が進むと思われます。デバイスを使ったVRはエンタメを中心に夢のような世界の到来を予見させましたが、Tomorrowland の例も現実に行われているかのような熱狂やステージのセットアップを仮想的に実現するという意味において、デバイスを必要としないVRの分化の一つと考えています。

「日本における未来志向型インフラ・テクノロジーのハイプサイクル:2020年」出典:ガートナー ジャパン

2020年にこのような現象が起きたのは、コロナウィルスの感染拡大によるバーチャル空間へのニーズの高まりが圧力となったとも言えるでしょう。新たなコンテンツ消費体験・仮想化の観点で見たとき「VRは必ずしもデバイスを必要とするわけではない」という事例として面白く、今後 Deviceless VR を含めた xR 技術の進化に注目です。

2. De-Fi

De-Fiは Decentralized Finance 略で、ブロックチェーン上に構築される金融アプリケーションで主にイーサリウム上で動きます。2020年はじめにDe-Fiにロックされた6億9千万のUSドルは11月には117億3千万にまで伸びています。

代表的な「Compound」というアプリは暗号資産を貸し付けることで利子を稼げる仕組みになっています。2021年は様々なDe-Fiのアプリが引き続き出てくるでしょう。

「DeFi Is Growing at Warp Speed, But Regulatory Status and Compliance Requirements Remain Unclear」出典: Chainalysis

いっときのアービトラージを主目的とした暗号通貨の過熱感は一段落しています。その一方で、ブロックチェーン自体はますます面白くなってきています。

一つの大きな転機はDAIに代表されるような Stable Coin の登場でした。不確定要素の源泉であった法定通貨と暗号通貨の間の価格変動を排除したことにより、本来ブロックチェーンが持つ価値が鮮明になったのです。浮き彫りになるメリットの一つが、スマートコントラクトでコインを「プログラマブルにできる」ことです。Stable Coin を前提とした De-Fi アプリケーション、いわば「暗号通貨の金融商品」が今後続々と生まれてくるでしょう。

一方で、懸念されるのはリテラシ格差です。もともと平均的な日本人は資産運用に関する知識が欧米と比較して非常に低いと言われていました。それゆえ、リスク許容度を設定するだけで深い資産運用知識無しでポートフォリオを自動的にAIが組み替えてくれるサービスが生まれてユーザーを拡大しています。かつての預金一辺倒だった頃から比べれば、フィンテックの盛り上がりと共に改善してきていますが、暗号通貨でまた同じことが起きるのではないかとの懸念もあります。知識の有無によって、人々の資産額に大きな差が生まれるとしたら不公平であり De-Fi にとっても広いユーザー層を得るためには良くないことです。

今後は De-Fi アプリケーションの提供者はエバンジェリズムに力を入れたり、直感的なUI/UXなど、プロダクト側での工夫も必要になってくるでしょう。

3. Serverless

AWSのre:Inventの基調講演でCEOのJassy氏は2020年にAWSで開発されたアプリケーションの半数以上でサーバーレスの Lambda が利用されていると発表しました。

今までの常時起動のサーバーと違って都度実行されるアーキテクチャが2014年のリリースから6年経ちエンジニアの間で定着してきました。

「AWSのCEOがre:Inventで発表した約30の新サービス一覧」出典: ZDNet Japan

今日のSaaSの隆盛ぶりを見ると、かつて「外部サーバーに社内データを置きたくない」という企業側の抵抗が非常に強かった時代は想像するのも難しいです。それは、わずか10年ほど前の話で、当時はASP(Application Service Provider)などと呼ばれていました。その ASP 〜 SaaSへと進化し続ける中で、それを支えるクラウドコンピューティング技術も当然ながら利用方法や利用量、そしてエンジニア側の要請によってトレンドが変化します。

この変化とはざっくり言うと「エンジニアがより効率よく、より簡単に、よりメンテナンスしやすく、より他サービスとの連携がしやすく、より既存プラットフォームとの連携がしやすい」方向へ向かって行きます。サーバレス技術は広く使われるようになり、今後はサーバレスをより便利に、またはサーバレス特有の問題を解決するようなスタートアップが出てくるでしょう。

しかし大事なことはユーザーのニーズ、開発者のニーズ、他の分野からの(接続)ニーズなどによって、トレンドは常に変化するということです。たとえば、前述したクラウドコンピューティングの進化が超短期間で起きたのは技術の進歩だけでなく、企業側が「社外にデータを置いても良い」というマインドセットあるいは社内規定の変更が起きたからからでもあります。

投資やスタートアップの観点からすると、単に技術そのものだけを考えるのではなく社会的、ビジネス的なニーズの変化、人々の感情的な、あるいは制度的な許容度変化などにも留意していく必要があるでしょう。


4. Contents for next smartphone

2007年の初代 iPhone 発表から13年経ち、デバイスも次のステージへの移行がはじまっています。Samsung はすでに折りたたみのスマホの2世代目を出し初代から改善しより身近になっています。

Apple も折り畳みの特許を取得していたりと2021年は折り畳みスマホならではのアプリやゲームコンテンツが出てくることを期待しています。

出典: SAMSUNG Galaxy Z Fold2 5G

デバイスやプラットフォームの変更はスタートアップにとって大きなチャンス、もっと大胆に述べるならばメガベンチャーに打ち勝つ唯一のチャンスだと考えています。もちろん自分たちで新しいプラットフォームを構築するのがベストですが。

一方でアプリケーションレイヤーまたはコンテンツで勝負するのであれば、新しいデバイスやプラットフォームの特性をいち早く吟味し、ユーザーの使われ方にどのような変化があるのかを丹念に調べて想定し、仮設を立てていくこと、そしてその新機軸に沿ったプロダクトを一点張りでリリースしていく覚悟が必要です。少し前の例で言うと、PCのブラウザ向けに作ったものをスマホになんとか対応させたサービスと、これから間違いなく伸びるであろうスマホに集中して「スマホファースト」で作られたサービスとでは、後者の方がスマホユーザーの体験が圧倒的に良いのです。

過去の事例から学べるように、ゲームチェンジが起きたときに「すでにそこにいる」状態であるべきで、そのような姿勢のスタートアップに勝機があると思います。

5. Nocode for Engineer

ノーコード・ローコードは2020年ビジネスサイドからもエンジニアサイドからも大変良く話題に上がりました。

MIRAISE ではエンジニア向けのノーコードツール市場に興味を持っています。ソフトウェア開発はプログラミングからインフラ構築まで様々な工程がありますが、その一部をコードを書かずに再現していくプロダクトがUSを中心に増えてきています。USのFylamynt社は複雑なインフラをドラッグ&ドロップで構築できるシステムを開発し Googleも出資しています。

出典: Fylamynt

この分野はMIRAISEチームも大変恩恵を受けています。ノーコード・ローコードの登場のおかげで、日常SQLを書くことはほぼゼロになり、スクリプトを書く量も大幅に減りました。エンジニアにとっては「誰かが代わりに書いてくれている」という印象で、本来時間を割くべき機能開発により多くの時間を割り当てることができます。またエンジニアにとっては、ちょっとした変更をノンエンジニアに依頼できるようにもなります。ノーコードと言ってもノンエンジニアにとっては難しいものなので、ノンエンジニアの人はゼロから構築するよりエンジニアがノーコードで作ったものを活用する、あるいは改良するのが現時点では現実的です。ノーコードの最大の利点はエンジニアとノンエンジニアをつなぐ点にあると思っています。この考え方は非常に重要で、そのような視点に基づいたプロダクトの登場に大きな期待を持っています。

6. Virtual HQ

世界中で一斉に働き方の変革が始まりました。内閣府が2020年12月に行ったテレワーク導入調査では、全国では前年比2倍、東京23区内ではさらに高い前年比2.4倍の42.8%の企業がテレワークを導入。その流れは現在も加速しています。

しかし、従来のテレワークツールは雑談などのカジュアルなコミュニケーションが難しい側面があり、社員の孤独や孤立を生むことが課題になっています。今後は、バーチャルオフィスに現実の空間での会話体験を取り入れることや、ポストコロナに起こりうるオンラインとオフライン勤務のコミュニケーションの円滑化が求めれらていくでしょう。

2020年は一部の業態を除き多くの企業が社内規定改訂を含めてオフィスのバーチャル化、オンライン化の施策を大胆に推し進めることになりました。これはコロナウィルス感染拡大の防止策としての強制力によるものですが、同時に多くの気づきももたらしました。オンラインでも出来ること、オフラインでなければ難しいこと。通勤をしなくても良いメリット、家族がいる環境で仕事がしづらいなどのデメリットは分かり易い例です。

しかし約10ヶ月の運用を経て明らかになった課題は「オンラインとオフラインの中間」部分への対処だと考えています。各社が提供するバーチャルオフィスサービスやオンライン会議のサービスは機能強化が進み、機能的には申し分ないが、オンラインでも出来るがオフラインのほうが良い気がする、何故だろう、という疑問です。そこで、やっぱりオフラインだ、とばかりに元に戻す圧力があることは承知していますが、大事なのはゼロかイチで考えるのではなく、常にどんなときでもイノベーションを起こす姿勢です。

それは念入りな観察やユーザーヒアリングを通して得ることが出来ます。実はオフィス内のキッチンでの雑談で無意識に多くの情報を得ていた、あるいは同僚とのつながりや絆を感じていた、他には、出社することで会社へのロイヤリティが上がっていた、通勤時間や社外ミーティングへの移動時間が気分転換になっていた、などです。これらは単にオフラインのものをオンライン化するだけでは解決できないのです。フィジカルな部分だけではなく、メンタル、さらにはエモーショナルな部分を社員の立場で考える。

そのような進化版サービスが2021年には多く生まれてくるでしょう。

oVice を使用したMIRAISEのバーチャルオフィス

MIRAISEの情報発信

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最後に

お読みいただきありがとうございました。
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