SUSHI TOP MARKETING株式会社 代表取締役 徳永 大輔さん

SUSHI TOP MARKETING- 次世代の企業と顧客の新たな関係づくりを提案 NFTマーケティングの文化創造を目指す

2023年12月22日

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MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。
● スピーカー|SUSHI TOP MARKETING株式会社 代表取締役 徳永 大輔
● MC|MIRAISE Partner & CEO 岩田 真一 / Comm 蓑口 恵美
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近年話題になっているNFT。その一方でNFT身近に感じている消費者はまだそれほど多くはありません。そんな中、セブン銀行は「NFT募金キャンペーン」を2023年7月より開始。スマホさえあればアカウントがなくてもNFTを受け取ることができる設計にしたことが功を奏し、募金額が通常時の10倍になり話題になりました。

今回は、次世代のマーケティング手法としてNFTマーケティングを提唱するSUSHI TOP MARKETING株式会社代表取締役の徳永大輔(とくなが・だいすけ)氏に登場いただきました。創業から2年目を迎えた今、日本でのNFTの浸透や先述のセブン銀行のNFT募金の導入事例、そしてこれからの挑戦について語っていただきました。

「トークングラフ」で倫理的・フェアなマーケティングへ

――まず、SUSHI TOP MARKETINGが手がけている事業について教えてください

徳永:当社はNFTマーケティング企画・システムを提供するマーケティング支援会社です。ブロックチェーン上の所有情報によって顧客を理解しコミュニケーションしていく「トークングラフマーケティング」事業を行っています。

ーートークングラフマーケティングとは、どのようなものでしょうか?

徳永:現在、顧客理解の主流は検索履歴やWebページの閲覧履歴に基づく「インタレストグラフ」と、SNS上での繋がりに基づく「ソーシャルグラフ」の2つで、これらの情報をもとにマーケティングが行われています。しかし2016年、トランプ大統領が当選した米大統領選やイギリスの「ブレグジット(EU離脱)」において、マーケティング企業がソーシャルグラフを悪用して世論をコントロールする世界的な大事件が発覚しました。そうした出来事を経て、企業や個人の間で、従来とは異なる新たなコミュニケーション方法や、倫理的なマーケティング手法が求められるようになってきました。そのような世の中のニーズの高まりに対し、我々は、個人が所有するデジタルデータによって顧客理解を行う「トークングラフ」という概念やサービスを提案しています。

ブロックチェーンには透過性という特徴があります。NFTウォレットは、誰がどんなNFTを持っているかは見えますが、個人情報はわかりません。ガラス張りのウォレットを通じてバスケのNFTカードをたくさん持っている人なら「バスケが好きなんだな」、あるTV番組が配布したNFTを持っていれば「この番組見ているんだな」ということがわかるのです。

ーーなるほど!少し話題を変えますが、社名に「SUSHI」と入っているのはなぜですか?

徳永:当社のスタートが、「銀座渡利(ぎんざわたり)」(現在は「桜坂渡利」)というお寿司屋さんで「お寿司を仮想通貨で食べる」というイベント企画だったことに由来しています。コロナ禍でしたが多くの方に集まっていただき、その記念としてNFTの配布を行いました。

ーーそのNFTを持っていることで、第三者からも「この日に渡利に来た」「ここのお寿司が好き」ということがわかるわけですね。

徳永:はい。私自身、この経験を通じてNFTを活用した新たなコミュニケーションがデザインできないかなと考え始めたんです。2024年からサードパーティーCookieが規制され、従来獲得できていた消費者のデータを得ることはできなくなります。その対応として、ほとんどのマーケティング企業は「ファーストパーティーデータ」という自社の顧客リストをしっかり作ろうという提案をしています。その一方で、我々は個人情報を侵害しない倫理的なマーケティング手法としてブロックチェーンデータを活用し「トークングラフを使って顧客理解をしていきましょう」と提案します。

岩田:Cookieが使えなくなることで、困る企業や担当者が多く出てきますよね。一方で、Cookieによって得られた情報はビッグテックが占有しているという状況があります。ユーザーがSNSなど各種無料サービスを日々利用している間に、すごい量の情報を吸い上げられているのが現状です。徳永さんのいうトークングラフマーケティングは、利用する情報がビッグテックのものではないというところがポイントだと思いますね。

徳永:僕たちは、自分のブラウザにどんなCookieが入ってるかということは知りません。この状態は、企業と消費者にとってフェアな関係ではないと思っています。我々一般ユーザーは一方的にマーケティング利用されている。ですがトークングラフでは、ユーザー一人ひとりが能動的にNFTを所有します。マーケティングする側とされる側がイーブンな関係になれるため、倫理的なマーケティングができます。その結果、「このお寿司屋さんに来る人は、テレビではこういう番組を見て、この新聞を読んでいる」みたいなことがわかるようになると、また違ったコミュニケーションができるようになってくるのではと考えています。

QRコードや自販機、流れる音から簡単にNFTを入手

岩田:SUSHI TOP MARKETINGはNFTの配布にすごく強みがある会社なんですよね。その配布方法について、いくつか事例を教えていただけますか?

徳永:メインでやってきたのはQRコードで配布するという方法です。一般的に、NFTを受け取るにはウォレットというソフトウェアをユーザーがインストールしなければいけないんですけど、それがけっこう高いハードルになってしまうんですね。QRコードなら、ウォレットのアカウントやメールアドレスなんかも一切なしで受け取れます。他に変わったところでは、音声でNFTを送ることができたりもします。例えば、とあるイベントで特定の音を流して、それをブラウザに聞かせればNFTが取得できるというような。

ーーアプリ「Shazam」のように音を拾う感じでしょうか。コンビニATMやQRコード、カプセルトイの自販機を使うなど、最先端で一般の人々の生活からは遠いイメージのあるNFTとの出会いの機会を、私たちの身近な暮らしの中に置いてくれているという感じがありますね。

出てきたカプセルトイのQRコードを読み込んで、NFTをゲット

徳永:弊社は、NFT配布をパイオニアとしてやってきた自負があります。最近では「SAI by IZUMO」のプロジェクトで、50万個ぐらいのNFTを配布しました。グローバルでの配布ということもあって難しい面もありましたが、配布についてはかなりの実績が積み上がってきたと感じています。

ーーさまざまな企業のトークングラフマーケティングの実例がHPに掲載されていますが、創業2年目にして多くの大手企業と仕事ができるのはすごいことですね。この2年を振り返ってみて、いかがでしょうか。

徳永:今でこそさまざまなWeb3のマーケティング関連のスタートアップも出てきていますが、創業した2年前は、NFTでマーケティングをしようなんていう会社はありませんでした。我々はプロダクトアウト的な感じで、悪く言えばマーケットをまったく見ずに「僕たちはこう思うんだ!」と突っ走ったわけです。でも、その世界観に多くの企業が共感してくださり一度ではなくで何度も事業をご一緒させていただいています。それは、我々の提唱するトークングラフマーケティングが、企業が抱える問題をきちんと解決しているからだと思います。市場を見ずに考えたことが、結果的にお客さんの課題解決に寄与できたということです。

ーー企業としては顧客理解のためにいろんなデータを集めたいけれど、それが難しくなっている中で、トークングラフマーケティングがひとつの光となったわけですね。

徳永:データを集めたとしても、企業にとっては個人情報の管理は負荷になることが多いです。ブロックチェーンを使えば、個人情報をなるべく取らずにユーザーと倫理的なコミュニケーションが可能になりますから、企業のニーズにも合致しています。2年前、NFTがひたすら儲けるための売買の対象にしかなっていなかったような頃から積み上げてきた実績が、今になって活きていると感じています。

ーーすばらしいですよね。岩田さんもNFTのトレンドをずっとウォッチしてきて、ここ数年の変化の速さを実感していると思うのですが、その中でSUSHI TOP MARKETINGの動きについてどう思いますか?

岩田:よく言うのですが、技術は使ってなんぼで、何らかの解決策に活用されない限りはただのオモチャなんです。それを踏まえると、ここまで顧客のニーズをちゃんと汲み取って、今使える技術を限界まで使ってみたらこんな風に解決できると示せることはすごいと思います。「営業が強くてニーズを吸い上げるのは得意だけど、技術を知らない」「技術はすごいけど、ソリューションに興味がない」このどちらかになってしまう人が多い中で、徳永さんは、世の中のニーズを汲み上げることも、技術を使ってそれを解決することもどちらも非常に高いクオリティでできる人だと思います。日本の起業家にはまだなかなかいない、顧客のことも技術のことも抜群によくわかっているというタイプですね。

NFTが、今まで出会えなかった顧客を振り向かせる

ーー実際に、企業とのコラボ事例をいくつか教えていただけますか?

徳永:先日、期間限定でセブン銀行さんのATMで募金をすると出てくるレシートにQRコードをつけて、そこからランダムで4種類のNFTのの中からひとつがもらえるというキャンペーンを行いました。すると、募金額がなんと10倍になったんです。セブン銀行のATM募金は実は以前からあったのですが、僕自身も週1くらいセブン銀行を利用していますが知りませんでした。それくらい低かった認知を、NFTを使って大きく高めることができたのではないかと思います。

セブン銀行のATMから募金をすると、1回につき上記4種のうち1種のNFTアートが手に入る

徳永:今回の取り組みによってロイヤリティマーケティングの可能性が見えてきたと感じています。セブン銀行にとって最もロイヤリティの高いお客様は誰か?を判別するのは、実は意外と難しいんです。メルマガ、SNS、銀行口座、ATMの利用頻度…など、ユーザーとの接点が多元的になりすぎているから、そうしたさまざまな媒体ごとのアクティビティにどう横串を通すのかという難題があるんですね。そこでNFTを使うと、それらがウォレットに紐付いていきます。例えば、このお客さんはATM募金、ニュースレター、SNSで配布したNFT3つ全部持っているから、全部の媒体を見てくれているロイヤルカスタマーだ、というように。

ーーすばらしいですね。

徳永:さらに、ATMのレシートからNFTを取得したユーザに、後日「これだけ募金が集まりました!」というようなNFTを送るといったコミュニケーションも可能です。例えば、何かのポイント100円分がもらえるとしても、人はなかなかメールやLINEの登録まではしてくれません。面倒だから。でも、推しのクリアファイルがもらえるなら電車を乗り継いででも来たりしますよね。今はニーズが細分化しているので、汎用的、経済的なインセンティブでは動かない人も、尖ったIPを提示すれば手を伸ばしてくれる。そして、NFTを入手する際にはメールアドレスやLINEを登録する必要はありません。配布する側としてはNFTを手にした人が誰かは特定できないのですが、一度配布したら、その後もNFTを送ることによってコミュニケーションを取ることができるのです。我々はこのことを「リード獲得前のアクイジション」と呼んでいます。

広告などを100人が目にしたら、10人くらいがメール登録をしてくれて、さらにその中の1人が購入してくれる…というのが一般的なマーケティングのセオリーです。ということは、企業がコミュニケーションを取れるのはメール登録してくれた10%だけです。ですが、NFTを使えば、メール登録以前のお客さんとコミュニケーションできる可能性が高まります。これはけっこうすごいことだと思っています。例えば、拳銃の射程が3倍になったらすごく強くなりますよね。

ーー東急電鉄さんとのプロジェクトもとてもユニークですよね。

徳永:東急新横浜線開業を記念して、鉄道の3Dモデルなど4種類のNFTを配布したプロジェクトです。さらに特設サイトを開設して、その日の車掌アナウンスなど、NFTを持っている人だけが楽しめるコンテンツも用意しました。実際に、2万人弱の方が体験してくださいました。

ーーこれらの事例も踏まえて、NFTマーケティングの強みとは何でしょうか?

徳永:大きく2つの強みが挙げられます。1つは、タッチポイントの創出です。100円のポイントでは動かない人も、自分が好きなコンテンツがあれば動いてくれます。セブン銀行の事例はまさにこれで、これまでATM募金の存在すら知らなかった人が、イラストレーターのNFTをきっかけに募金をしてくれる。これまでリーチできなかった、新しいお客さんを呼び込めるということです。

もう1つは、ロイヤリティの可視化です。企業やブランドとユーザーの接点が多元化していて、誰が最も良い顧客なのか見極めが難しくなっているという話をしましたが、NFTマーケティングはそこを見通す「横串」となれる大きな可能性があります。現在のサードパーティデータの代替になりうるのではないかと思います。

さらに、我々は「ダイナミックコンバージョンNFT」というちょっと面白い知財を持っています。例えば最初に街中の看板からタマゴのNFTが配られて、それをお店に持っていくと10%引きになります。するとお店から、来てくれた証明としてお花のNFTがもらえます。タマゴがお花と一緒にウォレットにいると、タマゴはヒヨコに進化しますーーそうすると、配布した側にはタマゴ分のヒヨコ(ヒヨコ/卵)の数字がわかります。これまで測定できなかった、看板広告のコンバージョン率や実数が判明するということです。

岩田:非デジタル広告の効果が数字で出せるということですね。それは絶対測れないと言われているものですから、それがわかるのはすごい。

ーーそれに、進化させたいからついお店に来ちゃう、という人も出てきそうですね。

徳永:そうです。今のWeb2では難しいと言われていることも、NFTを使えばわりと簡単にできてしまうんです。

誰もが当たり前のように使えるWeb3の世界をつくる

ーー最後に、今後の目標やビジョンについて聞かせていただけますか?

徳永:第一に、トークングラフマーケティングの文化を創造し、社会に定着させていきたいと考えています。そのひとつの施策として、「unWallet」というNFT用のウォレットを提供しているSIVIRA社との提携が決まっています。現在、新たにアカウントを作ることなく、Gmailなどの既存のIDをそのまま仮想通貨のウォレットにできるような「アカウントアブストラクション」という技術の導入が進んでいます。SIVIRAは、その元祖ともいえる会社です。ところで蓑口さんは、MetaMaskなどの仮想通貨のウォレットってお持ちですか?

ーー持ってはいるのですが、全然ログインしてないです…。

徳永:そういう方は多いですよね。なぜなら、とても長い「秘密鍵」という情報を自分で管理しないといけないから。ですが、unWalletのようなアカウントアブストラクション系のコントラクトウォレットなら、GmailのIDさえわかっていれば大丈夫なんです。まもなく我々がSIVIRAと提携することによって、GoogleかAppleのIDさえあれば誰もが簡単にウォレットを持つことができる世界線がやってきます。Web3の世界自体が拡大していくことは既定路線だと思いますが、我々は誰もが使いやすい、「ブロックチェーン使ってるんだ、これ」と気づかれないくらいのWeb3体験を創っていけたらと思っています。

ーーNFTと聞くと、難しそうでなかなか手が出ないという方もいらっしゃると思います。でも、QRコードで受け取れたり、ウォレットレスでも大丈夫だったりするなら体験してみようかな?と思っていただけたのではないでしょうか。ぜひ、SUSHI TOP MARKETINGのホームページやSNSを見て、NFTの受け取りを体験したり、さまざまな事例を覗いたりしてみてください。徳永さん、ありがとうございました!

◆SUSHI TOP MARKETING株式会社


Interviewee Profile:

Shin Iwata

CEO & Partner, MIRAISE