カルクル株式会社 共同創業者兼CEO バーテック・コーラチ さん

カルクル- 音・映像・場の体験を自由にミックス!新しい空間メディアを誰もが楽しめる世界へ

2022年4月8日

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MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー|カルクル株式会社 共同創業者兼CEO Bartek Kolacz(バーテック・コーラチ)氏
● MC|MIRAISE Partner & CTO 布田 隆介 / Head of Comm 蓑口 恵美
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普段何気なく歩いている街には、さまざまな音との出会いがあります。その場所だからこそ聴こえる鳥のさえずりや、風の音。それだけでなく、アーティストがその景色を見て歌詞を書いた曲などもその場で聴くことができれば、多くの人にとってより記憶に残る深い体験になるのではないでしょうか。

カルクル社が提供するのは、新しい空間メディアを通じた体験です。音や映像、そして場所情報すべてを自由にミックスして人々に届けることができる複合現実の世界を生み出そうとする起業家の想いに、ぜひ耳を傾けてみてください。

空間オーディオとホログラムで複合現実を楽しむアプリ「AURA」

――カルクルが提供しているサービスについて教えていただけますか?

バーテック:私たちが提供しているのは、空間オーディオのiOSアプリ「AURA(オーラ)」です。ゲームの「ポケモンGO」のようなARのプラットフォームで、複合現実の世界を体験することができます。例えば、街を歩きながらAURAを使うと、街の風景の中に、その街の音と空間、そしてホログラムの映像を統合して見ることができます。Webベースのクリエイターツールもあり、自分で空間メディアのコンテンツを作成することも可能です。

布田:ポケモンGOは、ポケモンをゲットするためには実際にその場に行かなければならないので、人が街に出ていきますよね。AURAはポケモンのように、音源を様々な場所に仕掛けておくことができます。アプリをインストールしている人が近くに来ると、その音源を再生できる。さらに、ユーザーは音だけじゃなく、映像(ホログラム)も一緒に見て楽しむことができるというプラットフォームです。これまでに、音楽アーティストのプロモーションの一環として導入された実績もあります。

ーー複合現実を作り出すアプリということですね。それにより、ユーザーはどんな楽しみ方ができるようになるのでしょうか?

バーテック:昨年、渋谷を拠点に開催された音楽とデジタルアートの一大イベント「MUTEK.JP」に参画しました。渋谷各所のライブ会場とは別に、出演アーティストのボーナスコンテンツを渋谷の街中で楽しめるようにしたのです。

布田:AURAアプリを起動すると、地図上にコンテンツがある場所が表示されます。その交差点なり公園なりに着くと、参加者は出演アーティストの特別コンテンツを楽しむことができる仕掛けになっていました。

バーテック:MUTEKでは渋谷の街中でしたが、実際は全国どこでも、このような体験を提供できるんです。例えば、アーティストが作成したひとつのコンテンツを北海道から沖縄まで、日本中のいろんな場所で、同時に様々なコンテンツを楽しんでもらうこともできます。

布田:映画「スター・ウォーズ」ではホログラムで会議していたりしますが、あれと同じですね。アーティストの体はひとつなので、今までは同時にいろんな場所でパフォーマンスをするということは不可能でした。しかし、AURAを使えばホログラムを分身として、さまざまな場所で同時にパフォーマンスができる。これまでにない表現ができるようになるということですね。

ーーそれは面白いですね!例えば、全国各地の桜の下で、桜の曲を歌うアーティストが歌う姿が見られる…そんなこともできるようになるんですね。

バーテック:そして、そのホログラムと一緒にビデオや写真を撮ることもできます。さらに今後は、2分ほどのライブパフォーマンスをホログラムにして、グループ限定で見られるサービスを予定しています。

ーーあるアーティストとのコラボもプレスリリースで発表されていましたね。

バーテック:ニューアルバムのリリースに合わせて、巨大ホログラムを渋谷の街に設置するというものです。音楽から始まった私たちのコンテンツですが、今後はさまざまなジャンルへと展開していく予定です。プロ野球の日本ハムファイターズとのコラボでは、ファン向けのボーナスコンテンツとして選手のホログラムがスタジアムに登場します。他にも、ポケモンGOのように楽しめる子ども向けのコンテンツなども考案中です。

瞬間消費が溢れる時代に、 "没入感のある体験"を取り戻す

ーー続いて、バーテックさんの起業のきっかけについてお聞かせいただけますか?

バーテック:私は、ARのイヤホンが作りたくて、2016年に起業しました。私の趣味のひとつは自転車なのですが、自分の好きな音楽を聴きながらサイクリングしたいと思ったのがきっかけです。普通のイヤホンでは車の音などを遮ってしまうので、危ないですから。

ーー確かに。周りの車の音などが聞こえないですね。

バーテック:自分の好きなオーディオを楽しみながら、外の音も聞ける。そんな、安全と楽しさが両立したコンテンツを作りたいと思ったのです。最初はイヤホンとアプリケーションをセットで作りましたが、のちにアプリに一本化しました。アプリ名の「AURA」は、「見えない音の世界」という意味があります。

布田:今はSpotifyで使えるのですが、例えば左の耳から入る音を大きくしたり、後ろから前に聞こえるようにしたりとか、AURAのアプリでそういうことができるんですよね。

バーテック:今の時代、メディアのほとんどはスクリーンベースです。スマホも、電車の中も、街中も、すべてが2D。YouTubeやInstagram、TikTokにはコンテンツが溢れていますが、私たちがそれらを集中して見るのはたった8秒ほどだといわれています。メディアが増えすぎて、人が集中できる時間はどんどん短くなってしまっているんですね。それに対して、空間オーディオは非常に没入感のあるメディアです。何かに心から没入できる、そんな体験を取り戻したいとの思いが、AURA開発の背景にあります。

ーー確かに、今はコンテンツをゆっくり楽しんだり、じっくり味わったりする体験は減ってきていますね。瞬間的な消費、楽しみ方になってきている。

布田:そうですね。今はライトなコンテンツが多くて、人はそれらをどんどん消費するけれど、ほとんど覚えていない。それに対して、AURAは没入感を取り戻し、コンテンツを心から楽しもうというアプリです。その方向性はアーティストとの相性が良く、音から始まって今ではビデオやホログラムも合わせたコンテンツを作れる形になっています。

新たなコミュニケーションを生む「空間メディアのプラットフォーム」へ

ーーバーテックさんの起業背景には、サイクリングを楽しんでいた時の経験があったのですね。その場でしか聞けない鳥の声や波の音に合うような音楽を重ねて、目で見える風景と、立体的な音体験を一緒に楽しむという。

バーテック:自転車に乗って海の音+AURAの空間オーディオを楽しむ。さらに今後は、ある場所に着くとインフォーメーションが出るような機能も考えています。「麻布十番です」「もうすぐ富士山が見えます」とか。AURA×ツーリズムですね。実際にあるホテルとも話を進めています。チェックイン後に部屋の中でQRコードをスキャンして、ツアーを案内する…といったアイデアを実現できればいいなと思っています。イヤホンをしてスマホを手に街を歩くと、特別なツアーコンテンツを楽しむことができるという。

ーー素敵ですね。日本ってすごくサイネージが多くて、とにかく看板でいろんな情報を伝えようとするから、街がごちゃごちゃしてしまう。でも、AURAがあれば、街も美しくなりそうですね。必要な時に必要な情報が入るから、旅行者にも景観にも優しいツールになるのではないでしょうか。

バーテック:音楽においてはアーティストがコンテンツホルダーです。でも、旅行関連のコンテンツでは、レストランのシェフや建築家など、その土地に関わる人が主役となります。

ーー街へのパッションや愛のある人たちが、コンテンツクリエイターになるのですね。最後に、さらなる将来のカルクルのビジョンについてお聞かせいただけますか?

バーテック:現在は、GoogleやFacebook、Apple、Snapchatなど、さまざまなチャネルやプラットフォームがあります。カルクルは、世界で最も面白い空間メディアのプラットフォームを目指しています。著名人や有名企業による大きなプロダクトも、一般の人たちが作ったコンテンツも自分の好きなように楽しめる、空間メディアにおけるYouTubeのような存在ですね。今後、Google Glassのようなメガネ型やゴーグル型のARデバイスがどんどん登場してくるでしょう。そうした新しいハードウェアにも対応し、新しい複合現実の世界を作り出していきたいと考えています。

ーーそうなると、マーケットは日本だけではありませんね。

布田:そうですね。今は音楽アーティストなど、エンターテイメントのプロがコンテンツを展開する形がメインですが、今後スマホやWiFiの回線速度が速くなり、利用できるデータ量が増えていくと、一般の人にもどんどん使いやすくなっていくでしょう。その先に、AURA上で誰でも自分の分身が持てて、さまざまな出会いが生まれる世界があります。日本だけではなく世界中で、新しいコミュニケーションのツールになっていく可能性はあると思いますね。

ーーすごく面白い世界になっていきそうですね!今後のカルクルの展開に、さらに注目していきたいと思います。本日はありがとうございました。


カルクル株式会社
『AURA』

Interviewee Profile:

Ryusuke Fuda

Venture Partner & CTO, MIRAISE