株式会社トドオナダ 代表 松本 泰行さん

トドオナダ- PR効果をリアルタイムで可視化 大手にも中小にも新たなPR文化を

2022年2月17日

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MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー|株式会社トドオナダ 代表 松本 泰行
● MC|MIRAISE Partner & CEO 岩田 真一 / PR 蓑口 恵美
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情報過多と言われる現代、企業にとって自社が必要としている情報だけを抽出したり、競合と比較したりすることが年々難しくなってきています。個人の発信を含むソーシャルメディアの情報を分析することは、もはや人力では不可能と言えます。

今回のゲストは、テクノロジーを使ってPRの効果を明確化し、リアルタイムで分析できるプロダクトを開発提供しているトドオナダ株式会社代表の松本泰行(まつもと・やすゆき)さん。溢れる情報の波に流されず、それらを適切に把握してPR、マーケティングに活かしていく独自のサービス「Qlipper(クリッパー)」についてお話を伺いました。

クリッピングを自動化するリアルタイム メディアモニタリングサービス「Qlipper」

――トドオナダが提供しているサービスについて教えていただけますか?

松本:当社は2020年1月20日に創業し、翌月2月20日から「Qlipper(クリッパー)」というメディアモニタリングサービスを提供しています。企業などの広報部門の方々にとって、自社が取り上げられた記事をGoogleやSNSなどの各メディアなどで検索して集めるのは日々の重要な仕事のひとつです。しかし、この仕事は非常に手間のかかる作業であり、外部委託するにしてもコストがかかるなど多くの問題があります。そこで、この「クリッピング」と呼ばれる作業を自動化できないかと考え、開発したのがQlipperです。現在、3000を超えるメディアを定点モニタリングする仕組みを提供しています。

ーーMIRAISEにとっては、PRソリューションへの投資はトドオナダが第1号となりますね。

岩田:投資させていただいたのは1年半ほど前でしょうか。まさに「ありそうでなかった」サービスだと感じました。僕もSkypeなどの外資系企業のスポークスパーソンとして、取材対応や記者会見の経験があります。その中で実感したのは、PRというのは効果を測るのがとても難しいものだということです。定性的なNPS(Net Promoter Score、顧客ロイヤリティを測る指標)が、1回のPR活動の前後でどれくらい変わったのかを見たり、調査会社に顧客インタビューを依頼したり、広告費に換算してみたりなどといった効果測定の方法がありますが、どれをとっても効果ははっきりと見えづらいんですよね。

ーー私はかれこれ十数年PRの仕事をしていますが、Webモニタリングってとても難しいし、膨大な情報の中から自社の情報を探し出すのはすごく大変な作業なんですね。ですから、PR界隈の人々にとってQlipperは本当に待ち望まれていたソリューションではないかと思います。

岩田:例えば競合他社との比較など、もっと直接的にPRの効果測定ができて、さらにそれをグラフィカルに見ることができるのがQlipperの画期的な特徴ですよね。記事が何クリックされたかというその先まで測れて、その結果から次のPR戦略に繋げていくことができます。SkypeやAtomicoでPRチームの人と一緒に働いていた時にこうしたツールがあれば、もっと効果的なPRができただろうなと思います。

ーーかつてPRエージェンシーで働いていた頃、始発で出社してクリッピングをしていたことがありました。大きなイベント後や炎上案件があった時などは、先輩たちやクライアントが出社する前にまとめておく必要があって…。本当に大変な業務でした。

松本:その点、私も非常に強い問題意識を持っています。業者にクリッピングを依頼すると、納品はだいたい10時〜12時です。ですが、経営会議など重要な会議はその前の8時〜9時頃に行われることが多く、肝心のPR効果についてのデータは間に合わない。ですから、クリッピングや効果測定を自動化し、リアルタイムでモニタリングできるのは当社の大きな強みとなっています。Qlipperなら、朝出社してすぐに分析結果を取り出せて、朝イチの大事な会議に載せることができますから。

岩田:ところで、あらゆるPR活動はターゲットを明確にする必要がありますよね。それは発信後の効果測定でも同じで、ターゲットでない人のオーディエンスを測ってもあまり意味がありません。以前Qlipperのデモを見せていただいた時、ある会社を例として競合比較してみたとき、競合相手として選んだ企業の数字があまりに桁がかけ離れていて、比較しても意味がないとわかりました。その時点では、最も気にすべき競合相手は別に存在したことがわかったのです。これもリアルタイムメディアモニタリングの強みで、比較対象を柔軟に変えられるのはすごく便利だなと感じました。

松本:例えば、子どもに「漢字テストで40点だった」と言われても、平均点がわからなければその点数が良いのか悪いのかわからない。それと同じで、日本のPR効果測定において、そうした評価基準がKPIに盛り込まれていないのはすごく問題だと思っています。競合や市場におけるシェアなどが実はよくわかっていないから、自分たちの活動が十分なのか、そうでないのかを判断することができないのです。

ーー現在、Qlipperはどのような企業に使われているのでしょうか?

松本:さまざまな業種のお客様がいらっしゃいますが、3つの特徴的な事例があります。1つ目は、ESGに取り組んでいるお客様です。ESGに関しては、競合と比較した発信力が非常に重要となるため、競合分析としても活用いただいています。

2つ目は大学です。大学のPRは現在大きな岐路に立っていて、困っているお客様も多くいます。業界界隈では「大学もSNSを活用を!」とよく言われていたりはするのですが、実際に活用が進んでいるのはプレスリリース配信サービスだと感じています。大学として、そのサービスを利用してどうPRをしていくか、他校の分析もしつつ戦略を立てていくためにQlipperを使っていただいている事例があります。

3つ目は、プレスリリース配信サービスの活用が進んでいるゲーム業界です。自社のゲームアプリのイベントなどの際には配信サービスで一気に告知するというのがすでにひとつの文化として根付いているので、その効果測定などに使っていただいていますね。

岩田:ESGもそうですが、企業としてメッセージ発信を重要視する機運が高まってきていますね。アメリカでは特に顕著で、例えばブラック・ライブズ・マターに関する出来事が起こったような時に、自分の会社がどんなメッセージを出すかというのを社員がかなり気にしていたりします。自分の会社に誇りを持てるかどうかは、とても大事なことなんですね。ですから米国企業では、率先してメッセージを発信し、社会に対する自社のスタンスや取り組みをどんどんPRしていく動きがかなり進んでいます。おそらく、日本もそのようになっていくでしょう。

効果的なPRに必要なのは、競合分析と長期戦略

ーー次に、松本さんの起業のきっかけについて教えていただけますか?

松本:これまで、クローリングや検索エンジンなどを専門に手がけるエンジニアとして20年ほど働いてきました。起業前に勤務していたのはクリッピングサービスを提供している会社でした。そこではPRの効果測定指標とは掲載数のことで、1つの発信に対してどれだけ記事として取り上げられたかを計測することを意味していました。PRの効果測定には課題がたくさんありますが、中でも重要なのは、効果測定のための調査が割高だということです。従量課金が主流であり、掲載された記事の数がわかってから金額が決まるという仕組みのため、予算が非常に決めにくいという問題があります。

そうした経験と問題意識を背景に、クリッピングと効果測定について、固定料金のサービスを提供できないかと開発したのがQlipperです。Qlipperでは、調査したい競合の数によって料金が決まる仕組みになっています。当社では、競合を設定しない効果測定には意味がないと考えています。そのため、毎回の記事掲載数で料金が変わる従量課金ではなく、設定する競合数に応じた料金設定としています。これなら予算も決めやすいし、設定する競合の増減や変更も柔軟にできるため、常に最適な条件で効果測定を行い、自社の発信力を客観的に把握することができます。

岩田:仕事柄、起業家の方々とはよくお会いするのですが、松本さんのように業界知識と技術力の両方を持っている起業家は強いですね。業界知識だけでテックソリューションを作るのは難しいですし、エンジニアとして優れた技術を持っていても、業界知識がなければ刺さるソリューションを思いつくことはできませんから。松本さんは、エンジニアでありながら、業務に対する非常に強い課題感をお持ちでしたね。

松本:従来の効果測定方法、つまりプレスリリース1本に対する記事掲載数を調べるという行為自体にはほとんど意味がないのではないかと、毎日疑問に思っていました。先ほど漢字テストの例を挙げましたが、平均値があるから良いか悪いかが判断できます。何かと比べてこそ、数字は活きると思うのです。

また、プレスリリースの「一球入魂」主義も問題だと感じています。文面を何週間も考えて練りに練って、渾身のプレスリリースを1本出す。そして、その結果に一喜一憂する…そんなパターンがよく見られるのですが、リリース等の発信は、コンスタントに行ってこそ認知が上がるものだと思います。私はPRにおいて心理学がけっこう重要だと考えているのですが、同じものに接する回数が増えるほど好印象を持つようになるという「ザイオンス効果」を活かさない手はないと思うのです。そのためには、競合はどれくらいのペースで発信を行っているのか、自社はその時間軸でちゃんと動けているのかを知る必要があります。それを測るために、Qlipperの分析画面では横軸を時間軸としているのです。

岩田:MIRAISEでは、蓑口さんが投資先の皆さんと一緒にコミュニケーション設計図や中長期的PRプランの策定を行っていますね。松本さんがおっしゃるように、PRは「一球入魂」ではなく長期的なコミュニケーションだと私も考えています。お話を伺って、Qlipperは長期的な戦略に適したモニタリングサービスだと感じますし、その理念にも大いに共感できました。

企業の本質は、PRである

岩田:これも蓑口さんとよく話していることですが、広報とPR(パブリック・リレーションズ)というのは大きく違うと思っています。広報は発信する、知らせるという意味ですが、PRはコミュニケーションとも言われるように、世の中の人々とどのように関係を作っていくのかという取り組みです。よくプレスリリースにある「新しい製品を開発しました」「〇〇社と提携します」という告知ももちろん必要ですが、これらはあくまで「発表」です。PRというのはさらに一歩進んで、自社の普段の取り組みや、その活動の背景にある思いを世の中に伝えていくことです。そしてリアクションを測って、頻度や内容をコントロールしていく、それがPRの本質だと思います。

松本:そうですね。そういう意味では、PRはまだ日本に根づいていないと思います。私は企業の本質はPRだと考えていて、そうすると、営業も広告出稿もすべてがPRです。アメリカではすでにその考えは定着していて、企業活動はまるごとPRであるとして市場形成がなされています。日本でも、最近ではマーケティングと広報との間はある程度縮まってきているように思いますが、未だ広報・PR部門はブロードキャストする役割だけを担っていて、効果測定の部分はあまり問われていないのが現状です。するとどうなるかというと、広報・PR部門は発信するネタを待つ受け身の存在となります。競合が4本プレスリリースを出しているからうちも4本出そうと思っても、ネタがないと言われたら出せないのです。

そこで当社のサービスを使っていただき、ファクトとして競合のPR状況が見られれば、全社的にPR戦略を考えていこうという気運が生まれるかもしれません。例えば「キャンペーンをあと○本増やしましょう」「そのために取引先とこういう交渉をしてみましょう」というように、私たちがもっとPR視点でビジネスを動かしていく文化を日本に根づかせるための存在となれたらいいなと考えています。

岩田:PRドリブンの経営ですね。「PRが企業の本質である」との言葉から、松本さんの強い信念が感じられます。MIRAISEでも「この時期にプレスリリースを出したいから、そのためにこの活動を前倒しでやろう」とか、「こういうストーリー付けをすると、この時勢ならリリースとして出せるよね」など、コミュニケーション設計の中に各種の活動を位置づけていくような取り組みをしています。

中小企業や街のお店にこそ、PR文化を根付かせたい

「Qlipper」のモニタリング画面。さまざまな指標からPR効果を検証できる

ーー企業全体としての発信や代表者の発信が大事なのはもちろんのこと、今後は従業員やお客様といった個人の発信もどんどん増えていくかも知れませんね。それをモニタリングして、適切なタイミングで適切なメッセージを発信していくことは、すべてのビジネスにおいてとても大事になっていくと思います。

松本:その通りです。SNSやブログ、口コミなどを分析するソーシャルリスニングは、すでに盛んになされているのですが、クリッピング等のメディアモニタリングとはかなり乖離しているというのが現状です。ですが、そこにはちゃんと関連性があります。「文春砲が飛ぶとSNSで炎上する」という現象はよく知られていますが、実は文春砲が打たれる前にすでにちょっと炎上しているんですね。文春はそれをうまくとらえて記事にしているのです。

そうしたSNS等の情報とメディアとの関係性を見る上でも、やはり同じ時間軸でソーシャルリスニングも既存メディアのモニタリングもきちんとしていかなければなりません。SNSだけを見ていれば今のビジネスはうまくいくという考え方もありますが、文春砲の例のように、SNSとメディアの関係性にもしっかり目を配っておかなければ、ビジネスはうまくいかないと私は考えています。

ーーそのためには、わざわざ手作業で逐一調べて報告書を作っている時間はありませんね(笑)。リアルモニタリングをしながら、その日の経営会議で随時情報を連携していくくらいのスピード感と連動性がないと、これからのビジネスは回っていかない。

岩田:Qlipperを使えばそれらが全部できるというのは素晴らしいですね。こうしたリアルモニタリングがあれば、経営層に対する広報からの提案も、数字を持った根拠あるものとして受け入れられるようになるのではと思います。そうすると、ビジネスをPR部門が引っ張っていくという、アメリカの形に近くなっていくのではないでしょうか。

ーー最後に、トドオナダが目指す世界について聞かせてください。

松本:現在、PRは以前より手軽になってきています。昔は、広報部門の人は全国紙の記者さんとどれだけお友達になれるかがカギ、みたいな感じだったと思うんですね。メディアリストというものが非常に重要だと考えられていて、PR会社はそれを高い費用で提供していました。しかし、誰でも気軽にプレスリリースを出せる配信サービスが登場し、PRの垣根はずいぶん下がりました。そしてそのことにより、中小企業や街の飲食店などの個人事業主もPRを行っていかなければいけない時代になってきていると感じます。中小企業や商店主の方々にもPR文化を浸透させるべく、我々はそうした方々に伴走していきたいと考えています。そして、日本を代表する大手企業から中小企業・個人事業主まですべてのビジネスパーソンが、PRをビジネスとして捉える社会にしていきたいと思います。

ーー間違いなくそうした社会に向かっていますよね。PR文化を根付かせるためのトドオナダの挑戦に、今後も注目していきたいと思います。本日はありがとうございました!




株式会社トドオナダ

『Qipper』


Interviewee Profile:

Shin Iwata

CEO & Partner, MIRAISE