一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事 関 治之さん

技術は人を幸せにするのか?- Code for Japan 関治之氏×MIRAISE 岩田真一

2021年10月21日

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MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー|一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事 関 治之 / MIRAISE Partner & CEO 岩田 真一
● MC|MIRAISE PR 蓑口 恵美
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「オープンコミュニティでよりよい社会を作る」をミッションに、住民と行政、企業が手を携えてより良い社会を共に作っていく「シビックテック」推進の第一人者として精力的に活動している、一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事の関治之(せき・はるゆき)さん。

今回は、MIRAISEが今年8月に開催するイベント「未来図会議」にゲストとして登壇いただく関さんと、MIRAISE代表・岩田が、オープンソース、そしてオープンコミュニティが拓く新たな世界について語ります。

本イベントは2021年8月に開催しました

楽しみながら課題解決に貢献できるオープンコミュニティ

一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事 関 治之さん

――関さんは、コロナ前はもとよりコロナ禍においても数々のメディア出演をこなし、デジタル庁開設に向けた情報発信を行うなど、以前から精力的に活動されていますね。改めて、関さんの取り組まれていることについて教えていただけますか?

関:「オープンコミュニティでよりよい社会を作る」というミッションで活動しています。僕自身は25、6年前からエンジニアをしていて、オープンソースなどのコミュニティで長く活動してきました。その中で、組織の垣根を超えた人々の繋がりに非常に価値を感じていまして、こうしたオープンカルチャーを活用して世の中の課題解決ができるのではないかと思い、コード・フォー・ジャパンを2013年に立ち上げました。

ほかにも、オープンソースのGIS(地理情報システム)を使ってシステム開発を行い、地域課題を解決するソフトウェアを企業と一緒に作っています。また、チームビルディングやプロジェクト進行などのサポートを通じて企業のオープンイノベーションを推進する、株式会社HackCampの代表も務めています。

岩田:オープンコミュニティやオープンソースのカルチャーを社会実装に持っていくというパワーが、関さんのすごさだと思います。リアルなコミュニティでも人を巻き込み、実行に移していく、そうして行動で示しているところが本当にかっこいい。そんな関さんのベースとなっている、オープンソースカルチャー、オープンコミュニティについて詳しくお聞かせいただけますか?

関:僕が社会人になったのは1990年代後半でしたが、ちょうど2000年くらいにオープンソースが一気に普及し始めました。サーバーを中心にさまざまなソフトウェアにおいて、オープンソースの方が品質が高いと言われるようになった時代でした。

――関さんも、オープンソースに関わっていらっしゃったんですよね。

関:はい。オープンソースコミュニティに参加するようになって、会社とは別のコミュニティの中でいろんな活動をすることができました。業務でやっていることをオープンソースの改善に活かすなど、会社の仕事をコミュニティに還元するといったことですね。タダで使える分、みんながフィードバック、コントリビューションする。その関係が素晴らしいと感じていました。お金をもらわなくても、みんな楽しいからやるという世界が広がっていたのです。

――その経験が、コード・フォー・ジャパンにも活きているということでしょうか。

関:エンジニアはもともと課題解決が好きな人種です。その力をいい方向に活かし、楽しみながら課題解決ができる社会を作ることを、コード・フォー・ジャパンでもすごく大切にしています。アメリカの大学の研究室からどんどん発展していったオープンソースコミュニティは、すでにひとつの思想でもあり、今では本当にいろんなものがオープンソースになっています。こうしたオープンソースのように、みんなが自然と良い世界に貢献できるような、そんな新たな仕組みを作りたいというのが、僕の個人的な野望でもあります。

オープンソースカルチャー浸透に向けて

オープンソースコミュニティを活かし、より良い社会を目指す

――エンジニアの方にはオープンソースの考え方は身近なものだと思うのですが、エンジニア以外の人、例えば行政の方々などに対して、関さんはオープンソースの概念をどのように伝えているのですか?

関:例えば行政の方には「作ったものは公共財として公開しましょう」という考え方ですよ、とお伝えしています。そうすればみんなが使えるものになって、そこからさらに派生してさまざまなことが生まれる可能性がありますよ、と。タダで図書館を建てられるようなものだと説明することもありますね。

――「公開」というと、「いや個人情報が…」と懸念を示す方もいらっしゃると思うのですが、そうした点はどのようにクリアされているのですか?

関:まず、ソフトウェアの仕組み自体に個人情報は含まれません。作ったソース、ソフトウェアの作り方を公開しているだけなので、プライバシーの漏洩のようなことはほとんどないはずです。セキュリティ面での脆弱性には気をつけなければいけませんが、基本的に個人情報が漏れてしまうということはないのです。

岩田:いい質問ですね。エンジニアでない人の中には、ソフトウェアとデータの違いがよくわかっていない人もいますから、「データ」の方を公開されるんじゃないかと思ってしまう。例えると、Excelというソフトウェアの作り方を公開するけど、Excelに入力した数値なんかが漏れてしまうことはない、ということですね。

――仕組みだったり場所というものが公共財、公共の財産であって、そこに入れるものは個人のもので、個人のプライバシーがある形として管理されないといけないということですね。

岩田:そうですね。データは中身です。その入れ物、操作する部分がソフトウェアです。だから、データの部分はオープンソースであろうがなかろうが、データの持ち主が管理しなければいけない。ただ、オープンソースのデータ版、コンテンツ版である「クリエイティブ・コモンズ」というのもありますね。考え方は同じで、タダでデータやコンテンツを使っていいけど、必ず「クリエイティブ・コモンズ」のマークを付けて公開しましょうというものです。

関:「オープンデータ」と呼ばれる、行政の集めたデータを公開しようという話も出てきています。もちろん行政の持つ個人情報ではなくて、避難所の情報などを公開していこうという動きです。

岩田:そうすると、それを元によりよい見た目のサービスを誰でも作れるようになったり、自分たちまちに合った使いやすいものにしたりとか、データを集めてくるところから自分でやらなくてもいいよね、と。世の中がこうした流れになっていくと、データとソフトウェア、パブリックとプライベートの違いを理解し、判断できるリテラシーはますます必要になりますね。

関:その点は、まだまだきちんと丁寧に説明しないといけない部分ですね。「オープン」と聞いて、全部一緒くたにして「ダメだ!」と言われてしまうと、話が進まなくなってしまいますから…。

――現在、「DX人材が必要」「企業のDX推進を」と盛んに叫ばれていますが、経営者・社員ともにリテラシーがなければ、議論も設計もできないですね。世の中一般の人々の認知も、どんどん変わっていかなければいけない時代だと感じました。

関:そうですね。例えば行政の場合、関わる部門すべてが理解しているとすごく進めやすいですね。これは利用する側も同じで、市民側から「セキュリティはどうするんだ!」「個人情報が漏れるのでは」というような批判が来てしまうと、行政としてはプロジェクトを止めざるを得ない結果にもなりかねません。ですから、広く理解してもらうための努力は本当に大切なことです。

1週間で立ち上げた東京都「新型コロナウイルス感染症対策サイト」

岩田:最近ではGovTechに注目が集まっていますが、例えばシンガポールはGovTech先進国で、コロナ陽性者の追跡アプリもいち早く開発・導入していました。シンガポールがGovTechで作っているものは、基本的にすべてオープンソースとして公開しているんですよね。

関:アメリカでも、オバマ大統領時代に「Federal Source Code」ポリシーというものが出され、税金で作ったソフトウェアは可能な限り公開するという方針になりました。政府内に「18F」という組織があって、シンガポールのGovTechチームのように、作ったものはどんどんオープンソースで公開しています。

岩田:コード・フォー・ジャパンが手がけたGovTechとして、東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」がありますね。シンプルでとても見やすく、グッドデザイン賞も受賞しました。こちらもオープンソースで、北海道など他の自治体でも使われているんですよね。

関:全国80地域ほどで使っていただいています。

岩田:同じようなものを他の自治体が一から作ろうとすると、東京都のものと同じような機能を作るために同じようなことをやらなければならず、その分の税金も無駄になってしまいます。それがオープンソースとして公開されていることで、瞬時にいろんな自治体で立ち上げることができたということですね。

――このプロジェクトの背景は?

関:昨年2月くらいに、東京都の宮坂副知事からお問い合わせいただき、コンペで選んでいただきました。よくある行政のサイトというのは、かなり見づらいものも多いですよね。PDFが開いたりとか、ひたすら文字が並んでいたりとか…。宮坂さんがおっしゃっていたのは、データをわかりやすく見せたいということでした。外国人も多くアクセスするから、ひと目でどういう状況なのかが直感的にわかるサイトを作りたいと。

――オープンソースで作られたんですよね。

関:はい。オープンソースにすることで、他の地域でも使えるようになるし、いろんな人のフィードバックにより改善していけますよ、と提案し、採用していただきました。最初はもう、1週間かからないくらいで突貫でがーっと作って公開しました。その後GitHubにも公開すると、本当にたくさんの人たちから「ここはこう直した方がいいよ」「ここが壊れてるよ」などのフィードバックをいただき、一緒に改善しながら直していったというプロジェクトです。

――海外からも含め、300名くらいのエンジニアの方が関わったそうですね。1週間で立ち上げとは、すごいスピード感です。

関:我々はそういうハッカソンライクな、緊急立ち上げみたいなのは慣れていますから…。災害などの際にも、そうした活動はかなりやってきました。だから「こういう問題だったらこの人が詳しそう」とすぐ声をかけてやってもらえるという繋がりがあり、それらが今回も活きましたね。

――3.11が、関さんがコード・フォー・ジャパンの活動を初めたきっかけになったと以前伺ったことがありました。当時と比べて、今回の課題に対してエンジニアができることや、動くスピード感は、この10年で大きく変わったと感じますか?

関:大きく変わりましたね。東日本大震災の時は、まだ一部の人たちだけが一生懸命、よくわからないまま動いているような感じでした。行政との繋がりもなく、「知る人ぞ知る」活動で、やることだけで精一杯という。でも今回は、東京都と一緒にやったということもあったし、これまでの繋がりの蓄積もあったので、別の地域に転用されるのも早く、何か合った時に「すぐこれやってください」というやりとりがスムーズにできました。3.11の頃と比べると、活動に力強さがありましたし、その広がりや深さも段違いにだったと思います。コード・フォー・ジャパンのチームだけじゃなくて、各地でいろんな活動が生まれたこともすごく良かった。

岩田:今回は、日本全体、もっと言えば世界全体で共通の問題が起きたというのがそれを後押ししましたね。自治体はそれぞれIT化が進んでいる所もあれば、FAXしかないような所もある中で、すべての自治体が横連携しながらある意味強制的に動かなければならなかった。さらに、デジタル庁という旗振り役もできました。そこに、これまでしっかり実績を積み上げてきた関さんのような方がいて、活動にコミットできたのは本当に良かったなと思っています。

自ら関わり、自ら手を動かすことが「幸せ」のカギ

ソフトウェア開発者が集う日本最大級のカンファレンス「Developers Summit」で登壇する関さん

――今後は、非エンジニアである私たちも含めて、デジタル前提の社会で自分は何ができるかを考え、民間企業や自治体が一緒に課題解決に向けて動けるようになる必要があると思います。その中で、コード・フォー・ジャパンは「make our city」という言葉を掲げて活動されていますね。その言葉に込めた想いとは?

関:現在、コード・フォー・ジャパンでは「make our cityプロジェクト」を進めています。現在、スマートシティやスーパーシティという言葉が取り上げられ、一部で盛り上がっています。ドローンがモノを運んでくれるとか、自動運転とか、ITを使って便利なまちをつくるという世界観で、日本でも「Society 5.0」というのを掲げていますね。今だと、企業や自治体が勝手に便利なサービスを作ってくれるという他人事みたいな感じですが、「make our cityプロジェクト」は、それをもっと市民中心でやろうというプロジェクトです。

――「Society 5.0」の紹介サイトには素敵な動画がいろいろありますが、それを見ると、ただ待っていたら「Society 5.0」が来るのかな、という感じがしますよね。確かに…。

関:そんな感覚の人が多いと思うんですけど、それで地域や人々が豊かになるかというと、実はそんなことはないと、ITをよく知っている我々だからこそ思います。消費者的な関わりだと、便利になったと思っても、豊かになったとは思わない。ですからコード・フォー・ジャパンでは、自分たちが関わることを大切にしたいと思っています。スマートシティというキラキラしたものに単に使われるのではなく、自分たちのまちをどうしたいか、持続可能性なども含めて地域の中でしっかり議論をして、手を動かして小さな改善からIT・デジタルを使っていく。その先に豊かな地域があると思うのです。そのためにいろんなツールやワークショップの型を作り、実際に地域の人たちと一緒に実践しているところです。静岡県浜松市など、いくつかの地域との協働が始まっています。

――例えば体育館のような公共施設は、行政が建ててくれて、市民はその恩恵を受けるというものですよね。それが市民と行政の関係性だと思いこんでいる方も、まだまだ多いと思います。そうではなく、自ら関わり、未来はこういうまちにしたい、こういうまちに住みたいと議論をして、自ら作る側に立つ。それは、すごいマインドの転換ですね。

岩田:それはすべて、オープンソースカルチャーですね。根っこがそこにある。誰かが作ったものを買って使うことから、自分たちで作っていく世界へ。1人じゃできないから、いろんな人の力を借りて、自分たちが欲しいものを作っていく世界観ですね。

関:すでにあって、限定された用途にしか使えないものを使うのではなく、自分たちで作って、用途に応じて柔軟に変えられるDIY的なものからクリエイティビティが生まれます。クリエイティビティは、幸せにすごく影響するんですよね。

岩田:関さんの言葉の端々からその思想を感じます。

――一流料理店のカレーライスもおいしいけど、自分の作ったカレーも自分に合っていておいしい、ということですね。

岩田:そうなんですよね。作っている最中が楽しかったとか、儲かるとか安いとかを超えたところにある豊かさというのは、そういうことなんだろうなと思います。

関:この流れがさらに大きくなるには、まだまだ時間はかかると思います。しかし最近、コード・フォー・ジャパンでは10代後半や20代前半の方がすごく積極的に活動してくれています。次の世代にはそれが当たり前という形になっていくと、コード・フォー・ジャパンが存在する価値があったと実感できると思います。

岩田:ソフトウェアだからこそ、その場に行かなくても世界中に貢献できるんですよね。

関:それもまた面白いところですよね。僕らは台湾のコミュニティとすごく仲がいいのですが、彼らのプロジェクトを手伝ったり、逆に手伝ってもらったりしながら、気軽に国境を超えたコラボレーションができています。

岩田:「手間返し」という古い言葉があります。お金で払うんじゃなくて、実際に手伝ってあげることで返す。その方が豊かな世界ができますね。お金で解決するとある意味毎回毎回清算されてしまいますが、「手間返し」は繋がっていく世界です。

関:その繋がりを通して、信頼関係が本当にいろんなところに生まれていく。そんな世界の実現を目指して、今後も活動を続けていきます。

――ありがとうございました!オープンソースカルチャーの豊かさと深さを感じたお二人の対談でした。後日開催しますMIRAISE「未来図会議」も楽しみにしています!

コード・フォー・ジャパン
MIRAISE「未来図会議07」の開催報告

Interviewee Profile:

Shin Iwata

CEO & Partner, MIRAISE