株式会社OutNow 代表取締役 濱本 至さん

theLetter - ニュースレターで書き手と読者の新しい関係性を築く

2021年10月20日

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MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー|株式会社OutNow 代表取締役 濱本 至
● MC|MIRAISE Venture Partner & CTO 布田 隆介 / PR 蓑口 恵美
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海外では、ジャーナリストや各界の専門家、ブロガーなどあらゆる人々が続々と配信し、大流行の様相を見せているニュースレター。最近では、日本でも注目を集め始めています。

今回は、日本発のニュースレター配信サービス「theLetter」を展開している株式会社OutNow代表取締役の濱本至(はまもと・いたる)さんにお話を伺いました。近年伸びている動画コンテンツやTwitterなどとの違いとは。そして、読み手と書き手の新しい関係性とは――。情報が溢れる世界の中で、彼らが目指していく未来についてお聞きしていきます。

書き手と読者が直接つながるニュースレター配信サービス『theLetter』

ニュースレター配信サービス「theLetter」

――海外では今、ニュースレターが非常に注目されていますね。濱本さんは、日本でニュースレター配信サービス「theLetter」を展開されています。まずはこちらのサービスについてお聞かせいただけますか?

濱本:「theLetter」は、Web記事とニュースレターを同時配信できるサービスです。各々の書き手が直接課金のニュースレターを配信し、マネタイズすることができます。現在はウェイティングリスト形式で会員登録していただいていますが、今年中にオープン化することを目指しています。まだクローズドのサービスではありますが、すでにライターやジャーナリスト、研究者、YouTuber、投資家など、さまざまな方に使っていただいています。

――ニュースレターの強みとは?

濱本:現状のSNSは、コミュニティの垣根を超えて発信が届いていくので、誤解や炎上の危険性が常につきまといます。ニュースレターは、自分を選んでくれた人に向けて発信を続けて関係性を作っていくものなので、SNSのようなリスクはかなり少ない。その点が大きな強みであると思います。

――「theLetter」は、書き手のコミュニティもあるそうですね。

濱本:はい。そのコミュニティで質問できたり、収益化や集客アイディアを得られたりするほか、成功事例のデータから導き出されたノウハウも提供しています。書き手向けの手厚い支援も、「theLetter」の特徴のひとつですね。

布田:ニュースレターのサービスを作ろうと思ったきっかけは?

濱本:3つあります。1つ目は、個人を可視化するサービスを作ることが、僕と共同創業者の荻田との起業テーマだったことです。僕も荻田も「クリエイターエコノミー」という言葉が知られる以前から、シェフや漫画家などのクリエイター個人がダイレクトに自分のファンとつながり、収益を得られるというサービスの構築に関わってきました。その中で気づいたのが、書き手が生み出す記事の単価が、約20年間ほとんど変化がないということでした。だからこそ今の時代に合わせ、ライターやジャーナリストといった「書き手」を支援するサービスを立ち上げようと考えました。インターネット上での直接課金には、書き手が単価をスケールできる機会がまだまだあると考えています。

2つ目は、新型コロナウイルスの影響です。コロナが流行し始めた頃は、とにかく正確な情報が欲しいと思っていました。今までならTwitterで情報収集していましたが、コロナに関しては、著名人が間違った情報を発信していて、それを普通に受け取れてしまうという状況がありました。有象無象の情報が流れてくるSNSではなく、専門家や現場を知るジャーナリストなど、そうした人たちから直接情報を得たいと強く願ったという原体験があります。

3つ目は、もともとニュースレターの良さを実感していたことです。昔から、僕はシリコンバレーの起業家たちのストーリーを読むのが大好きでした。自分が欲しい海外の情報はニュースレターになっていることが多く、自然とたくさんのニュースレターを取っていたんですね。ですから、良質な情報が向こうから届くというニュースレターの良さを、肌感として知っていたのです。この3つの要素が掛け合わされて「theLetter」は生まれました。

――個人の情報発信としては、コロナ禍でYouTubeなどの動画や音声がすごく伸びている印象があります。「theLetter」はテキストの配信プラットフォームですが、この時代にあえてテキストを選んだ理由は何でしょうか?

濱本:テキストの良さは「ディスカバリー」にあると思います。動画や音声は、視聴・聴取しようとする際にはちょっとした心構えが必要ですが、テキストは完全に自分のペースで読めるので、ちょっと見てやめる、ということもできます。「発見する」「発見される」ハードルが音声や動画より低いのではないかと思うのです。

動画や音声はディスカバリーが弱いので、レコメンドエンジンなどプラットフォーム側のアルゴリズムにすごく依存してしまう。届けたい人に思ったように届かないという現象が起こりがちなのです。しかし、テキストはさまざまなメディアに転載されたり、「はてなブックマーク」にブックマークされたり、「NewsPicks」でピックされたりということが起こります。ただ1本のブログ記事がいろんなところに拡散するので、ディスカバリーの機会が増えるという良さがあるのではと感じています。

ニュースレターは「線」のメディア

「theLetter」公式ニュースレターのサマリ。読者とのつながりの積み重ねが窺える

布田:「theLetter」はニュースレターが直接メールボックスに届くというものですが、例えば、ブログを書いてTwitterなどのSNSでシェアして読んでもらうといったこともありますね。その違いを教えていただけますか?

濱本:ひとことで言うと、点と線の違いだと思います。ブログポストは、Webという海に自分のブログ記事を投げ込むようなイメージです。ですから、記事の内容は別として、読む側、記事を見つける側にとっては一つひとつの記事にあまり連続性がなく存在しており、1本記事をを読んだ人が必ずしも2本目を読むとは限りません。

一方のニュースレターは、1記事読んで「こういう記事が届くならぜひ受け取りたい」という人のリストが溜まっていくのが特徴です。「theLetter」の平均開封率は65%ほどですが、これは、1本目の記事を読んだ人の6割以上が2本目を読んでくれたということです。Webメディアを運営しているとわかるのですが、これはすごい数字です。1か所で読者と繋がり続けられるツールというのは、メール以外だとほとんどないんじゃないかなと思っています。

布田:書き手と読者とのエンゲージメントということですね。確かに、直接届き続けることで書き手のファンになったり、次の配信を楽しみに待ったりと、どんどんハマっていく要素はありますよね。

――SNSでは、もともと探していた情報にたどり着くまでに、目的のもの以外の情報がどんどん入ってきてしまって、それがけっこう辛いと感じることがあります。「theLetter」では、自分が選んだ書き手のニュースレターが直接届くから、欲しい情報までのルートがすごくすっきりしていますよね。

濱本:僕も100を超えるニュースレターを取っているのですが、10本を超えてくると、自分のオリジナルの新聞を作っているような感覚になります。この分野はこの人、あのトピックはあの人と、自分の大好きな人たちで構成される新聞という感じですね。

書き手と読者のコミュニティができていく

「theLetter」のニュースレター作成画面

布田:現在、「theLetter」の書き手の方々からはどんな反応をいただいていますか?

濱本:「これまでとはまったく違う執筆体験がある」とよく伺います。例えばブログだと、誰が読みに来るのかわからないので、読んでもいいし読まなくてもいいよ、という感じでポストします。しかし、ニュースレターには明確なリストがある。「この人たちに送る」という意識がすごく強くなると、皆さん共通でおっしゃっています。自然と執筆にも力が入り、記事のクオリティを高めようという意識になるようです。

――誰かわからない1,000人よりも、自分を選んでくれた100人への思いが生まれるんですね。書き手と読み手とのコミュニティがどんどんできていく感じなのでしょうか?

濱本:「LINEオープンチャット」など、さまざまなサービスと紐付けてコミュニティを作ろうとする方もいらっしゃいます。あと、「theLetter」にはメール返信機能があり、書き手が送ったニュースレターに読者が返信することができます。見ていると、その返信メールが1,000文字を超えるような長文の返信ばかりで…。Web記事のコメント欄だと「面白かったです!」のひとことだけだったりすることも多いですが、ニュースレターは書き手と読者の関係が親密になる分、熱心な読者が多いということだと思います。

書き手のビジネスモデルを転換、個人が主役を担うメディアへ

「theLetter」でメディアの新たな可能性を追求する、濱本さん(左)と共同創業者の荻田さん

布田:今後は、どのような展望を描いていますか?

濱本:ニュースレターを日本でも根付かせるには、個人発信のレターで大きな成功事例を作るのが最も良いのではと思っています。というのも、書き手の方々からは「どういうレターがうまくいっていますか?」「他の人はどうやっているんですか?」ということをすごくよく聞かれるからです。成功事例はあるのか、自分も成功できるのかをすごく気にされている。ですから、現在は事例づくりに注力しています。2、3か月後にはかなり大きな成功事例となりそうなレターがいくつもあるので、それらの事例を胸を張って発表できるタイミングと、サービスをオープンにして誰でも登録できるようにする時期を重ねようと考えていて。おそらく、今年中にはできるんじゃないかと思っています。
※編集者追記:theLetterは2021年10月18日に正式ローンチしました(プレスリリース

――「theLetter」において、具体的にどういう状態が成功といえるのでしょうか?

濱本:これまで各種媒体で書いてきた人たちは、1本3〜5万円ほどといわれる原稿料を収入の柱にしています。現状、メディア業界は成長している市場ではないので、実は記事1本あたりの単価は20年前からほとんど変わっていません。つまり、収入を上げたいなら、ちょっとコンサル的なことをするとか、テレビに出てみるとか、執筆以外のことを頑張らなければならない状況なのです。執筆だけで収入を上げるには納品数を増やすしかないという、労働集約型のビジネスモデルになっているんですね。

――「theLetter」が、そのビジネスモデルを変えるということでしょうか。

濱本:ニュースレターの有料課金率はだいたい5〜20%ですが、「theLetter」では、有料読者が増えるほど1本あたりの単価がスケールするというモデルになっています。ですから、書き手の方々にとっては、「theLetter」でのニュースレター配信が、これまでメインとしてきた既存媒体での執筆活動に加えた収入源として大きな柱になる可能性があります。喜んでお金を払ってくれる読者が何人もいて、今までよりもずっとたくさん稼げている…という書き手を生み出すことが、僕らで言う成功事例だと思っています。

――書き手は自分の生み出すコンテンツでサステナブルに収益が得られて、読み手はそのコンテンツを毎回楽しみに受け取る…そこから交流が生まれて、フィードバックし合えるコミュニティとなっていくのは、すごくいい世界観ですね。

濱本:このビジネスモデルが回ると本当に面白くなると思っています。既存メディアがなくなることはないと思いますが、これからはやはり、個人やスモールチームが作るメディアが主流となっていくでしょう。「theLetter」はこの新たなメディアを支え、良くしていくツールでありたいなと思います。

――海外では、例えば新聞記者が新聞に載せきれない裏話や個人の意見をニュースレターとして発信するといった事例がかなりあるそうですね。日本でも、そうした動きが今後出てくるかもしれませんね。

濱本:取材したものが10だとすると、既存メディアに載せられるのは0.5や1くらいなんですよね。残りの9以上は、書き手の取材メモに眠っているわけです。それをニュースレターで配信したら、きっと面白いと思ってくれる人がたくさんいると思います。そうした事例は、「theLetter」でもすでに出始めています。

――ニュースレターによって、眠っているものがちゃんと世の中に届いて、欲しい人に届けられるというのは面白いですね。

濱本:大手メディアでは1記事に対し数万PVが求められますが、個人のニュースレターでは、有料読者が1,000人もいれば普通のサラリーマンよりずっと稼ぐことができます。ですから、かなりニッチなテーマでも成功できる書き手はたくさんいるんじゃないかと思っています。

――書き手さんそれぞれのストーリーがどんどん出てくると、面白い世界になっていきそうですね。「theLetter」の今後の展開を楽しみにしています!


◆『theLetter
濱本さんのニュースレター
◆掲載記事(引用:DIAMOND SIGNAL)
メルマガとはどう違う? 海外で人気を博す“ニュースレター”サービスの正体
日本にニュースレターは普及するか? “日本版Substack”目指す「theLetter」が正式公開

Interviewee Profile:

Ryusuke Fuda

Venture Partner & CTO, MIRAISE