MIRAISE CEO 岩田 真一 / PR 蓑口 恵美

シード期の起業家だからこそ!身につけておくべきPR感覚

2021年9月7日

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MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー|MIRAISE Partner & CEO 岩田 真一 / MIRAISE PR 蓑口 恵美
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どんなにステキなソリューションやプロダクトを生み出しても「認知」されていなければ、それらは人々の役に立つことはできません。

MIRAISEでは、シード期から起業家自身が自らのサービスを周りに伝えること、つまりPRが大切だと考えています。広告とは違い、世の中のニーズに紐づけて情報発信していくPR。起業家たちが押さえておくべきポイントについて語ります。

PRはスタートアップの「強力な武器」

蓑口:今回のテーマは「スタートアップとPR」ということで、MIRAISE代表の岩田さんと、MIRAISEのPRを担当している私、蓑口(みのぐち)がお話ししていきます。

岩田:PR(パブリック・リレーションズ)は、日本では広報部門が担っている仕事だと認識している人が多いと思います。しかし、日本で言うところの「広報」と、欧米企業が行っている「PR」は別物だと私は感じています。日本企業の広報は受動的ですが、欧米のPRは自らプレスリリースやメディアを通じてどんどん発信していきます。海外のPRチームは社長に近く、社内でも中心的な存在ですね。

蓑口:岩田さんはSkype在籍時、スポークスパーソン(取材対応責任者)を務めていらっしゃったんですよね。

岩田:はい。Skypeでは、スポークスパーソンとしてメディアトレーニングというものを受けました。例えば、模擬インタビューを受けてそれをビデオに撮り、「顔を触るクセがありますね」「こういう質問だと急に饒舌になってしまいますね」など、指導を受けたりするものです。

蓑口:模擬インタビューでは、意地悪な質問もされるとか。

岩田:「この前、Skype止まっちゃいましたよね」という質問があったりとか…。つい腕組みしてしまったりすると、「それはオフェンシブ、攻撃的な心理の表れですよ」と言われてしまう。そういう質問が飛んできた時に、いかにポジティブに返すかが大切ということですよね。

蓑口:メディアトレーニングという言葉は日本では馴染みがありませんが、海外では一般的ですよね。

岩田:特にアメリカでは、書店にメディアトレーニング関連本を集めたコーナーがあるほどです。しかし、日本ではメディアトレーニングはまだまだ浸透していないですね。ですから、政治家や経営者の失言が多いのはある意味仕方がない気もします。Skypeでは、取材を受ける際にはPRチームが分厚い台本を作ってきましたね。失言する隙もありません(笑)。

蓑口:何を聞かれても回答できるように、事前に回答案も用意しますよね。

岩田:「ファストファクト」といって、覚えておかなければいけない数字が細かく挙げられていたりしました。実際に取材を受ける身としてはちょっと不自由に感じることもありましたが、どんな情報をどこまで出すのかを完璧にPRチームがコントロールできているということですよね。SkypeはPRに非常に力を入れていました。マーケティングには大変なお金がかかりますが、PRは、メディアなどに取材を通して自社やプロダクトの良さを伝えてもらうための施策なので、それほどお金がかかりませんから。

蓑口:確かに、経済的コストの差は大きいですよね。

岩田:あと、みんな広告を信じなくなってきていますよね。そんな時代において、PRの重要性はさらに増していくと思います。特に、ブランド力も認知度もお金もないシード期のスタートアップにとっては、PRは強力な武器となります。ですから、PRの手法や知識はぜひ身につけていただきたいですね。

VCだからこそできるPRサポートを

蓑口:海外のPR事情に詳しく、ご自身もそのノウハウを身につけられた岩田さんだからこそ、MIRAISE立ち上げの際からPR支援体制を作ろうとしていたのですね。

岩田:僕がアドバイザーとして所属している(※)atomicoというロンドンのベンチャーキャピタル(VC)で、投資先企業のPRに積極的に取り組んでいるのを見てきました。atomicoのトップはSkype創業者のニクラス・ゼンストロムですが、彼のSkypeでのPR重視の姿勢がそのままatomicoにも引き継がれています。「Head of Comms」、今の蓑口さんのMIRAISEでの肩書と同じですが、そういう人をVCとして抱えているのです。
※2021年6月でアドバイザー退任。2017年までは同VCのパートナー。

蓑口:atomicoのHead of Commsの方は、具体的にどのようなことをしているのでしょうか?

岩田:PRに関する投資先サポートのほか、「Tech Crunch Disrupt」や「Web Summit」といったテック界での大イベントでの登壇機会を獲ってくる、ということもしていました。多種多様な投資先企業すべてのビジネスモデルやカテゴリーを完全に理解していて、それぞれの投資先に合ったイベントにコンタクトし、「こんな面白い話できますよ」とか、パネルディスカッションのマッチングの提案をするといったことですね。

蓑口:事前に情報収集するということが大事なんですよね。

岩田:そうですね。だから、atomicoのPR担当は常に誰かと電話していた印象です。ジャーナリストやイベント関係者などと絶えずコンタクトを取って、投資先のためのチャンスをいち早く掴もうとしていたんですね。そのように、VCがPR担当を通じて投資先を支援するのを見てきて、MIRAISEにもぜひ取り入れたいと思い、外資のPR会社でのキャリアを持つ蓑口さんに参画していただきました。蓑口さんのご経歴について、ここで少しお聞かせいただけますか?

蓑口:大学卒業後、外資系のPRエージェンシーで海外プロダクトのPR業務に従事しました。5年ほど働いた後、スタートアップのPRチームに参画。その後は自治体や国のPRやコミュニケーションを経験し、岩田さんにお声がけいただいてMIRAISEのPRを担当することになりました。シード期の起業家のPRをサポートするというのは初めての挑戦であり、日々ワクワクしながら取り組んでいます。

シード期のうちからPR経験を積んでおく

蓑口:岩田さんは、シード期から起業家自身がPRを使いこなせるようになることが重要とおっしゃいますが、どのような理由からですか?

岩田:まず、社長は自動的にスポークスパーソンとなりますから、自社や自分たちのプロダクトについて、いつでも簡潔に話せるようにしておかなければなりません。MIRAISEの投資先は皆エンジニア起業家で、人前で話すことがあまり得意でない人も多いので、早い段階で練習しておくのが大切だと思います。

蓑口:そうですね。シード期のうちに自分でPRをこなす機会はとても重要だと思いますし、それができていた起業家ほど、企業規模が大きくなっても、ぶれずに話せているなという印象があります。

岩田:PRの重要性を本人が理解していないと、PRチームが持ってきたインタビューなんかに対して「ジャマくさい仕事が来たな」などと思ってしまったりするわけです。でも、自分自身で経験してきてその大切さを実感していると、機会を作ってくれたPR担当に感謝の気持ちが湧くと思うのです。海外では、PRと社長は二人三脚という印象がありますが、そのように、ともに考え、作っていこうという気持ちのある経営者は、本当に力強いメッセージを発することができるようになりますよね。

蓑口:総じてスタートアップはマスメディアには取り上げられにくいのですが、試行錯誤しながらPRの経験値を積み上げてきた起業家は、記者が何を書きたいのか、今なぜこの取材の場にいるのかを想像できる。すると、記者の心を動かして、記事にしてもらえるということが起こるようになります。

岩田:小手先の話し方のテクニックなんかを身につけようとするのではなく、自分の考えを簡潔に語れるようになることが大切です。僕もそういうところあるんですけど、エンジニアは言いたいことを全部言おうとしてだらだら喋りがちで(笑)。

蓑口:エンジニア起業家にとってプロダクトは我が子のようなものですから、ついつい熱く語り続けてしまうんですよね。

岩田:それはまあ、コロナが明けたら焼き鳥屋さんででもやってもらって(笑)。記事を読む人々が最も知りたいのは、自分たちの日々の暮らしを良くしてくれるかどうかということ。記者の先にいる読者を意識して、わかりやすく話すことが大事ですね。

長期的なPR戦略立案、コミュニケーション設計も一緒に

PRも、MIRAISEチームが全力でサポートします!(左からMIRAISE PR 蓑口、CEO岩田、CTO布田)

岩田:蓑口さんがMIRAISEのPR担当として行っている、起業家のサポート内容について教えていただけますか?

蓑口:大きく分けて3つですね。1つ目は、1on1でのサポートです。各社、ステージごと、プロダクトごとに伝えたい内容やタイミングが違いますから、個別にいつでも相談をお受けしています。2つ目は、プレスリリースの添削。3つ目は、PR活動をするにあたって活用していただける資料の作成です。シード期のエンジニア起業家が陥りがちなPRに関する悩みについて、サポート内容をまとめて皆さんにお渡ししたりしています。今後は、プレスリリースのタイプ別テンプレートなど、起業家の負担を軽くできるようなツールも作っていきたいと思っています。

岩田:至れり尽くせりですね。

蓑口:投資先の起業家たちには、プロダクト開発に時間を割いてほしいので、伝えたいことをより楽に伝えられるようなサポートをしていきたいと思っています。あと、どんなに伝えたいことがあっても、世の中の流れに合わないと記者は記事にしてくれないので、「時流に合わせた発信」によりフォーカスしてサポートしていきたいなと考えています。

岩田:「時流に合わせる」発信について、何か事例はありますか?

蓑口:ある起業家さんとの1on1で私が記者役をして「コロナによって、貴社のサービスにはどんな影響がありましたか?」という質問をしたことがありました。するとその起業家からは「何も影響がありません」という答えが返ってきたんですね…。

コロナ前からビジョンを持ってユーザーの課題解決に挑んでいる起業家さんなので、その思いを反映したコメントではあったのですが…。記者の側としては、世の中の人々が皆コロナの影響を受けているので、そこに紐付けて書きたいと思っているわけです。そこで「何も影響がない」と言われると、記者としては記事にしにくくなってしまう。起業家側の思いは変えずに、記者側の意図を汲み取って時流に合わせてどう自社の情報を伝えるか、それはとても重要なことですね。

岩田:起業家は、日頃から新聞を読んだりニュースを見たりして世の中の流れを把握し、その時々での自分たちの存在価値やプロダクトの意義を考えていなければいけませんね。

蓑口:そうですね。最初の方で岩田さんがおっしゃっていたメディアトレーニングのようなことを、私が投資先の皆さんに対してしていけたらいいなと思っています。

岩田:プレスリリースについてはいかがですか?

蓑口:皆さん、プロダクトの詳細についての文章が長くなりがちですね。その思いの強さは日頃1on1などを通してたくさん受け取っていますし、とても大事なことなのですが…リリースとしては数十秒で要点が分かる簡潔さが必要です。文章を短くしつつ、どう思いや特徴を効果的に伝えるか。毎回すごく頭を悩ませています。

岩田:エンジニア起業家がオーディエンス、読者として想定してしまうのは、自分と同じようなエンジニアなんですよね。読んだ時に突っ込まれるのが怖いみたいです。「あいつエンジニアなのにこんな適当なこと書いてるぞ」みたいなことを思われるのが。でも、リリースを書くにあたっては、そこは気にする必要はないですよね。

蓑口:詳しく知りたい人はHPに飛んで読みますからね。

岩田:あと、プレスリリースをとにかく出したがる人もいます。イケてるスタートアップのリリースなんかを見て「リリース出したら一人前!」と思っていたり、出したらユーザーが増えるかも、という幻想を持っていたり…。添削だけではなく、プレスリリースを出すタイミングについてのアドバイスも必要ですよね。

蓑口:まだプロダクトもない段階で出そうとする人もいますし、まだ準備が整っていない段階、例えばターゲットがまだ定まりきっていない状態で書いてしまう人もいますね。

岩田:プレスリリースを出すのは基本タダだし、出しておいて損はないんじゃないかと言われることもありますが…あるんですよね、マイナスの効果って。例えば、リリース出してLP(ランディングページ)やサービス紹介ページに誘導しても、たどり着いたそれらのページが簡素すぎたり分かりづらかったりすると、信用を失ってしまいます。

蓑口:そうすると、人は二度と戻ってこないんですよね…。シリコンバレーなんかでは、サイレントローンチやコミュニティローンチなど、プレスリリース前段階のPR手法がいろいろとあるのですが、日本はまだスタートアップを支援するコミュニティが育っていないので、一気にプレスリリースにジャンプしてしまうところはあります。

岩田:プレスリリースを出す前に、コアユーザー10人でも集めて話をしたり、アンケートを取ったりすることは今でもできますよね。その反応を見た後でリリースを出すアクションに進むのが、考えてみれば当たり前だと思うんですよ。海外の実践的な手法を自分なりに取り入れて、試していくことが大切だと思います。

蓑口:ユーザーの声をちゃんと聞いている起業家ほど、プレスリリースの質や精度が高いですね。「こういうターゲットにこうなってほしい、だからこの機能を作った」と、理想的なコミュニケーションの設計図ができますから。

岩田:その成功パターンを身につけられると、今後の展開もスムーズにいきますよね。蓑口さんが先ほど触れたように、単発のPRアクションだけでなく、MIRAISEでは長期的なコミュニケーション設計やPR戦略もサポートしていますので、投資先の皆さんにもぜひ活用していただきたいと思います。

蓑口:MIRAISEのPRサポートは、これからもどんどん進化させていきます。興味を持たれたエンジニア起業家の方は、ぜひMIRAISEにコンタクトしてみてくださいね!

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