MIRAISE CEO 岩田 真一 / CTO 布田 隆介

エンジニア起業家コミュニティの根底にある「ピア・ラーニング」とは?

2021年8月23日

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MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー|MIRAISE Partner & CEO 岩田 真一 / Venture Partner & CTO 布田 隆介
● MC|MIRAISE PR 蓑口 恵美
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「ネットで検索しても答えはない」

起業すると、ネットの検索ではそうそう簡単に出てこないような問題に直面し、悩み、奮闘する日々が始まります。そんな起業家たちの成長と成功のために、MIRAISEは一方通行的にアドバイスするだけではなく、起業家同士がサポートし合う「ピア・ラーニング」の環境が大切であると考えています。

一人でもくもくと作業することが多い初期ステージのエンジニア起業家。MIRAISEでは、彼らが気軽に相談できる場をどのように提供しようとしているのでしょうか。ピア・ラーニングの取り組みについて、MIRAISEパートナーの岩田・布田に聞きました。

オープンに学び合い、教え合う姿勢が成長スピードを速める

――まず最初に「ピア・ラーニング」とは何か、お話しいただけますか?

岩田:「ピア(peer)」は同格・同等の者、同僚、仲間という意味を持つ言葉です。片方が教えるだけ、もう片方は聞くだけというのではなく、お互いに学び合うことを「ピア・ラーニング」と言います。例えば学校なら、生徒同士で教え合うような形のことですね。

――それを、MIRAISE投資先の起業家同士で行っているということですね。

岩田:起業家たちは日々課題にぶつかっていますが、それらは個々に事情が異なり、Googleで検索して出てくるようなものではありません。MIRAISEではコミュニティに資するあらゆるものを実装し、私たちと起業家の皆さんとで使っていますが、それらはすべてピア・ラーニングを実現するために生まれたものです。それぞれ起業経験を持つMIRAISEスタッフと起業家たちが集まって、それこそ「文殊の知恵」のような感じで高め合っていくのが最もいいだろうと考えたのです。

――なぜ、ピア・ラーニングをMIRAISEに取り入れようと思ったのでしょうか?

岩田:シリコンバレーなど、いわゆるテックハブとして歴史のある地域では、ずっとピア・ラーニングが行われていました。あちこちで勉強会が開かれ、カフェなんかでそれぞれ別の企業に属するエンジニアが相談し合う風景は、このエリアでは以前からよく見られるものです。本当に皆オープンで、何かを聞けばとても親切に教えてくれます。「情けは人の為ならず」じゃないですが、そうすることによって回り回って自分たち皆が良くなるということを、共通意識として持っているのがシリコンバレーやベイエリアなのです。(補足:もうひとつの視点として、当時からベンチャービジネスや、そのエコシステムを産業として認知してもらうために、起業家同士、投資家、弁護士などもオープンに情報交換してお互いに高め合うことにより、全体としての産業拡大を目指す意識が共有されているということも大きいです)

――その文化を、日本でも根付かせたいと。

岩田:現在MIRAISEの投資先は32社です。まずはこの32社の起業家から「ピア・ラーニング」の文化を醸成すべく、コミュニティを作り、オンラインの勉強会などを積極的に開催しています。

――なぜ皆さんはそれだけオープンに、ノウハウを教えよう、他者に貢献しようと思えるのでしょうか?

岩田:もちろん、ノウハウの持ち出しにはデメリットもあると思いますが、オープンに出していくメリットの方が大きいということなんでしょうね。情報を出し合うことで自分が知らなかった観点を得られたり、思いがけないアドバイスをもらえたりする。そうした経験が積み重なり、隠すよりもオープンでいる方が目指す地点に早くたどり着ける、と皆気づいたのだと思います。

布田:日本でも、そういう意識を持っているエンジニアは実は多いと思います。言語ごとにコミュニティがあって、例えばRubyを使う人たちが毎週のようにとあるコワーキングスペースに集まっていたり。言語は、皆が使えば使うほどエコシステムが大きくなる。関わる人が増えるほど良くなっていくんですね。意識的にせよ無意識的にせよ、エンジニアにはそういう認識をベースに持っている。ですから、初心者にもどんどんRubyに触れてもらいたくて、コミュニティに来てくれれば誰にでも、それこそプログラミングの心得がない人にでも教えてあげる。自分もそうして教わったから、同じように還元していくのです。

起業家ならではの悩みを相談できるコミュニティ

月1回開催される勉強会。現在はオンラインで行っている

ーーMIRAISEのコミュニティでは、実際にどういった学び合いが行われているのでしょうか?

岩田:コミュニティ内では、起業家がぶつかる課題や悩みについて、日々やり取りが交わされています。例えば「外部調査会社からの問い合わせには回答した方がいいの?」という質問。なかなか難しいですよね。無視していいのか悪いのか、対応するとして、財務情報なんかはどこまで出していいのか…。すると、「うちも最近対応しました」「こんな感じで出してみたら?」といった回答が次々と返ってくるわけです。

――それは確かに、なかなか他の場所では聞けないことですね。Webで検索しても出てこなさそうですし…。

岩田:最近では「オフショア開発ってどうですか?やった方いますか?」という質問に対して、経験者たちが「この国はこういう特徴がある」「あの国のエンジニアはアプリに強い」など、いろいろと教えてくれていましたね。

――質問はあるけど、コミュニティ内での発言をためらうシャイな方も中にはいらっしゃいますよね。

岩田:そうですね。そういう方は僕や布田さんに個別に質問してくるのですが、メンバーの参考になりそうだと感じたら、コミュニティのパブリックチャンネルで質問するように促しています。さらに、その質問に答えてくれそうな人をメンションしたりもしますね。コミュニティ内にQ&Aが蓄積されていくということが、とても大事だと考えていますから。このコミュニティにいてよかったと思ってもらえるよう、日々工夫しています。

――起業家たちとMIRAISEスタッフは、どのような形で繋がっているのでしょうか?

岩田:まずひとつは、オンラインコミュニティ「4C」です。投資先の起業家全員に入っていただくことになっています。この「4C」と対を成すのが、月1回の勉強会です。もともとは対面、今はオンライン開催ですが、リアルタイムのコミュニケーションを図る場となっています。この勉強会をマイルストーンにして、その間を「4C」でカバーしていくという感じです。

――コミュニティのエネルギー量というのはなかなか数値で見づらい面があると思いますが、アクティブユーザーやポスト数など、お二人がアクティブ率を数値として見える化しているのがすごいなと思っていました。

岩田:私たちは、ただコミュニティを作りたいのではなく、ピア・ラーニングが起きる場を作りたいと思っています。ですから、その目的のためにコミュニティがうまく機能しているかどうかは、きちんとデータを見て測らなければいけない。幸い、今のところはうまくいっていて、継続している状態ですね。

――現在、「4C」のメンバーはどれくらいいるのでしょうか?

岩田:「4C」に入っていただくのは主に投資先の社長さんとCOOの方で、だいたい1社あたり1〜3人がメンバーとなります。現在、Statsを見ると60人がアクティブユーザーですね。

コミュニティのアクティブ率は8割を超える

――「4C」には、メンターとなる方々も参加されているんですよね。

岩田:そうですね。投資先の方々と我々MIRAISEスタッフ、そしてメンター陣が「4C」に参加しています。面白いことに、起業家たちだけではなくメンターの方から質問が投げかけられ、起業家が答えることもあります。知っていること・知らないことは一人ひとり違いますから、どんな形であれあらゆる質問が上がり、それに対する答えがつくのは、とてもいいことだなと思っています。

――実際にMIRAISEでピア・ラーニングを継続してきて、具体的にどのような成果がありましたか?

布田:まず、知りたいことに対して迅速な回答が得られることですね。「これをやったことある人いますか?」「こんな時どうしますか?」という質問に対して、メンバーの中の経験者がすぐに答えてくれる。シンプルなことではありますが、起業は情報戦でもありますから、いち早く知りたい情報を得られることは成長の速さに繋がっていると感じます。

――投資先同士のシナジーもありますよね。

布田:メンバーはコミュニティ内でゆるく繋がっていますが、僕らは全投資先・全メンバーを知っているので、投資先同士を引き合わせたりすることもありますね。例えば、メンバーの起業家から「資金調達を始めるのですが、僕たちに合いそうな投資家はいますか?」という相談があったとします。すると、コミュニティ内でその起業家と近いサービスを展開している投資先を紹介し、僕らも入って話す機会を作る。すると、「この投資家合いそうだよ」「ここは話してみたけどダメだった」など、リアルな情報が得られます。それによって、スムーズに資金調達ができたという事例もありますね。そんな感じで、コミュニティ全体としての活動と併せて、僕らを通して起業家同士を繋ぐことにも力を入れています。

バーチャルオフィスを開放「MIRAISE Virtual Co-working Day」

7月からスタートした「MIRAISE Virtual Co-working Day」

――「起業家は孤独だ」とよく言われますが、そうして一緒に切磋琢磨できる仲間がいるというのはとても心強いですね!このピア・ラーニング、今後さらに良くしていきたい点はありますか?

布田:もっと気軽に、何でも聞けるような雰囲気にしていきたいなと思っています。MIRAISEの投資先でない起業家が何か知りたい時は、自分で頑張って知っていそうな人を探して、ミーティングを設定して…という感じになると思いますが、MIRAISEのコミュニティ「4C」にいれば、すぐに聞くことができます。欲しい情報にたどり着くまでのスピードの差は、起業家にとって4Cはかなり重要です。たった半日の遅れによって、不利になることもありますから。人に何か聞きたい時に毎回日程調整するのはもったいない。ただチャットで質問するだけでいい「4C」の場をどんどん活用してもらって、情報獲得までの時間を節約し、成功確率を上げていってほしいと思います。

岩田:「4C」内でベータ版を試してもらって感想をもらう、ということはもう実際に行われていますね。「もっと気軽に」というサイコロジカル・セーフティをより高めるためには、もっと人数が増えてきたら、全員が参加できる場はキープしつつ、プレシード、シード、シリーズA …と、ステージごとにグループを分けるのもいいかなと思っています。あと、蓑口さんがやっている、投資先限定のニュースレター「MIRAISE Picks!」もありますよね。

――「Picks!」は、コミュニティ内での学び合いのログをまとめて、週1でお送りしているニュースレターです。真面目な学びのノウハウだけではなく、MIRAISEチームの「今週の出来事」みたいなことも載せています。それぞれの人間関係や人となりも見えて、親しみを持ってほしいなと思って。そんなゆるい呟きを「楽しみに読んでいます!」と言ってくれる起業家たちもいて、本当に嬉しく思っています。

岩田:コミュニティを通して我々が伝えたいことは、「僕たちスタッフは必ずここにいますよ」ということなんですね。何かあった時に聞くなら、「4C」がいちばん早いし、我々スタッフは必ず反応しますから。

――常に見なきゃいけないものではなく、使いたい時に気軽に使ってもらえるコミュニティを目指しているんですね。

岩田:どうしても忙しくて「4C」をあまりチェックできない人でも、週1配信の「Picks!」さえ見ればポイントを押さえることができますしね。「Picks!」には「4C」コミュニティのリンクが付いているので、興味を持ったら元の記事や投稿を参照することができます。

ーーオンラインコミュニティに、勉強会、ニュースレターと、ピア・ラーニングのためにさまざまな取り組みを行っていますよね。さらに「MIRAISE Virtual Co-working Day」というものが始まったそうですが、どんな内容なのでしょうか?

布田:MIRAISEチームがいつも使っている「oVice」というバーチャルオフィスツールがあるのですが、そこを週1回半日ほど開放しようという試みです。「MIRAISE Virtual Co-working Day」では、投資先の起業家たちはいつでも来て、仕事してもいいし、誰かとちょっと話して帰るのもいい。外部とのミーティングに使ってもOK。そんなことを始めました。

――日本中、そして海外の投資先32社が、バーチャル上の同じ空間に来て、スタッフや投資先同士で気軽に会話できる…そんな時間になっているんですね。

布田:特に目的がなくても、ふらっと来て誰かと話すと何か思いついたりすることってありますからね。他の人と一緒にアイディア出しする場にも使ってもらえますし。

岩田:我々は「oVice」内でいつも通り外部の方とミーティングしたりもするのですが、「MIRAISE Virtual Co-working Day」でたまたまそこにいた投資先の起業家をご紹介するようなことも起こるかもしれませんね。起業家たちも外部の人を呼んでミーティングしてもかまわないし、起業家同士で「これ聞いてみよう」とあらかじめ一緒に練った質問を我々にぶつけに来てもいいし。毎週行う予定ですが、どんなセレンディピティがあるのか、我々も楽しみにしています。

――そうですね、私も楽しみです!今回は、MIRAISEが大切にしているピア・ラーニングについて伺ってきました。MIRAISEの取り組みやコミュニティに興味を持たれた方は、ぜひ私たちスタッフにコンタクトしてみてくださいね。

MIRAISE Webサイト
◆「MIRAISE Virtual Co-working Day

Interviewee Profile:

Megumi Minoguchi

PR, MIRAISE