ウゴトル 西川 玲さん/ヨクト 河野 敬文さん

起業家の孤独に寄り添うBOOSTER - 第二弾の成果と次なる挑戦

2021年5月21日

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MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー|株式会社ウゴトル 代表取締役 西川 玲 / ヨクト株式会社 代表取締役社長 河野 敬文

● MC|MIRAISE Venture Partner & CTO 布田 隆介 / PR 蓑口 恵美
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今回は、MIRAISEが行っている投資先サポートプログラム『BOOSTER』(ブースター)第二弾の成果報告をお届けします。

第二弾に参加いただいた起業家は、株式会社ウゴトル代表取締役・西川玲(にしかわ・あきら)さん、ヨクト株式会社代表取締役社長・河野敬文(かわの・たかふみ)さんのお二人です。

ビジョンを語り仲間を巻き込み進んでいく起業家が、どのように事業のフォーカスを絞っていくか、また苦手な分野に挑戦していくか。それぞれの100日間の変化についてお話しいただきました。

スポーツ関連事業を展開する2社が臨んだ100日間

――今回は、MIRAISEが行っている起業家サポートプログラム『BOOSTER』についてお届けします。ちょうど第二弾を終えたばかりのお二人の起業家に、Boosterでの経験や変化について伺っていきます。まずは布田さん、簡単にBOOSTERの説明をお願いします。

布田:『BOOSTER』は、MIRAISEが支援先企業向けに提供しているアクセラレータープログラムのようなものです。100日間、2週間に1回のメンタリングやディスカッションを行いながら、次の資金調達の成功を目指すプログラムです。具体的には、ピッチの改善、資金調達成功に向けた数字の改善、成長を目指して取り組んでいくものです。

――今回のゲストは、キッズスイミングスクール向けの動画添削配信システム『ウゴトル for Lesson』を展開している株式会社ウゴトルの西川さん、次世代ヨガマット『yoctoMat』を開発中のヨクト株式会社の河野さんです。どちらもスポーツに関わるサービスを展開されており、共通点を感じながらBOOSTERを受けられたのではないかと思います。まずウゴトルの西川さん、展開中のサービスについてお聞かせいただけますか?

株式会社ウゴトル代表取締役 西川 玲さん

西川:当社では、キッズスイミングの売上アップに貢献するプラットフォーム『ウゴトルfor Lesson』を提供しています。既存のグループレッスンの中で、個別撮影した動画の添削・配信を簡単に行えるようにし、生徒一人ひとりの課題の見える化と指導を実現し、結果的にアップセルにつなげるというサービスとなっています。

――スイミングのレッスンは、基本的にグループレッスンですよね。個別指導してもらえれば、より上達が早そうです。

西川:『ウゴトル for Lesson』は、アプリで誰でも簡単に異なる視点からの動画を合成できます。例えば、水上と水中からの二つの映像を組み合わせるなどですね。さらに、講師のコメント用テンプレートが用意されており、その中から選ぶだけで映像にコメントがつけられ、直線や円などの手描き入力も簡単にできます。映像+コメント・手描き入力により、簡単・短時間で質の高い個別指導を実現しています。
このプラットフォームによって、スクール側の売上アップはもちろんのこと、生徒側も大きなメリットを得られます。これまでの対面グループレッスンでは、毎回口頭でポイントを指摘することになりますが、それではどこをどう直せばいいのかよくわからないまま進んでしまうことも多くなります。『ウゴトル for Lesson』で、そうした状況を改善できるんじゃないかと期待しています。

――西川さんのご経験も活かされているそうですね。

西川:僕は北海道生まれで全然泳げなかったのですが、小学生の頃に埼玉に引っ越したら、周りが全員泳げるという状況で(笑)。すごい危機感を覚えてスイミングスクールに通い始めたものの、進級テストに落ちまくったという記憶があります。かなり頑張っていたのですが、毎回「前は何言われたっけ?」って忘れてしまっていた、ということがあって...。今回の『ウゴトル for Lesson』は、まさにその頃の自分にプレゼントしたかったと思えるものになっています。

布田:もともと『ウゴトル』は、動画をコマ送りで再生したり反転させたり、重ねたりして、スポーツやダンスなどの動きを覚えるためのアプリとして一般ユーザー向けに出されていたもので、何十万とダウンロードされているアプリです。今回BOOSTERに参加されたのは、MIRAISEから出資を受けて企業向けに『ウゴトル』を展開していこうと思われたからなんですよね。

「動き」を覚えるためのアプリ『ウゴトル』

――次はヨクトの河野さん、開発中のプロダクトについてお聞かせいただけますか?

河野:僕らは、ヨガスタジオのレッスンをサポートできるようなヨガマットとサービスの開発を行っています。僕自身が数年前にヨガスタジオを経営していたのですが、ヨガは個人の感覚に頼る面がとても強い業界です。それはそれでいい面もあるのですが、弊害としてケガをする人が非常に多いのです。それをスタジオ運営に携わっている頃から実感しており、状況を改善したいという思いが積もり積もって作っているのが、現在のプロダクト『yoctoMat』(ヨクトマット)です。

ヨクト株式会社代表取締役社長 河野 敬文さん

――具体的に、どのようなヨガマットを開発されているのですか?

河野:ケガが多いのは生徒側の勘違いや間違いもあるのですが、教える側のスキル不足も原因です。その課題をまずは解決したいと思い、ヨガのポーズや流れにおける手や足の位置や、体重のかけ方がわかるようなセンサーを入れたヨガマットと、それと繋がるWebサービスを主に開発しています。生徒さんが今まで何をどれくらいやってきたのかや、体のクセなどがわかり、それによって一段上のヨガ体験やレッスンを提供できるような、スタジオのレッスンをサポートするツール・サービスとしていきたいと思っています。

――ヨガをする方にケガが多いという事実は知りませんでした。

河野:実際に僕らがヨガスタジオを経営していた時も、他のスタジオでケガをした、体に痛みがあるという方はけっこういらっしゃいました。実際にNHKの調査でも、ヨガをする人の3割ほどにケガの経験があるという結果が出ています。

布田:人間じゃないみたいなポーズとか(笑)、確かにケガしてしまいそうなイメージはありますね。あと、先生が「手を上げてください」と言う場合、手を上げることによって体のどこかを伸ばすなど、本当に「こうしてほしい」ということが別にあるんですよね。でも、生徒側はただ手を上げているだけで、どこにも効いていないという…。
ヨクトのヨガマットにはセンサーが入っているので、重心の位置や体重のかけ方がわかり、生徒側もちゃんと体に効いている感じを得られるし、先生も客観的なデータから指導方法を改善していくことができます。ちょうど、先生と生徒の間をつなぐようなプロダクトですね。

――私もヨガのレッスンを受けてみて「これどこに効いてるのかな…?」という瞬間、たくさんありました。でも、静かな環境で皆さん取り組んでいるから、わかりませんって言えなくて。

河野:本来なら、先生がそれに気づいてレッスン中に指導できるといいのですが…。当社のサービスを使っていただくと、それが伝えやすくなるようなイメージですね。

ヨガをする人をサポートするマット『yoctoMat』

「火の玉ストレート」で鍛え上げられたピッチ

――では、お二人がBOOSTER前後でどんな変化を感じられたのか、どういった目標を追いかけてきたかについて伺っていきます。まず、西川さんいかがですか?

西川:最も大きな変化は、狙うマーケットを一気に絞り込めたことです。もともと『ウゴトル』は、動作を覚えるためならだいたい何でも使えますよ、というふわっとしたコンセプトでした。そんな、誰にもピンとこないし誰にも売れない…という状態から、BOOSTERの回が進むごとにどんどんフォーカスできていきました。誰にとって明確に利益になるのか、お金を払ってくれる人はどこにいるのか、ちゃんと考えて進んでいけたのは大きかったですね。

――それでキッズスイミングスクールにたどり着いたと。

西川:絶対売れるところは?と聞かれたら「キッズスイミングです」とすぐ言えるようになりました。「キッズスイミングはこういう市場でこんな課題がある」と、今では即答できます。
あと、外部の投資家の方々を招いた実戦形式でのピッチ練習ができたことも、本当によかったです。皆さん優しく聞いてくださるのですが、フィードバックタイムとなるともう、火の玉ストレートがボンボン飛んできて(笑)。痛みは伴いましたが毎回すごく学びが多くて、資料がどんどん良くなっていきました。

布田:BOOSTER前半は、参加者のお二人と私、岩田さんの4人で進めていくのですが、後半は外部の投資家の方や、少し先に進んでいる起業家の方々をお呼びしてピッチ練習をしていきます。本番のピッチでは、「ここが良くなかったよ」と言ってくれることはありません。投資が受けられなかったという事実は残るのですが、どこを改善したらいいのかはわからない。ですから、BOOSTERでピッチを聞いてくださる方々には、「ここがわからない」「こう言った方がいい」「こういう資料がほしい」など、どんどん言ってくださいとお伝えしています。本番で困ることがないよう、改善点はすべて挙げてもらうのです。

――河野さんはいかがでしょうか?

河野:僕らはまだ、いただいた「火の玉ストレート」を咀嚼している段階です。BOOSTER前は、コロナ禍の時流を見ながら、ハードウェア開発をしつつ、企業向けオンラインレッスンサービスも展開し…と、並行して事業を進めようとしていました。それを、今回のBOOSTERで「君たちヨガマットだったよね」と叩き直され、軌道修正していただいた感じです。これまではB to Cのヨガマットとサービスと言っていたのを、B to Bで振り切って進めていこうと決めることができました。
ただ、これまで「オンラインレッスンをやるぞ!」と言っていたチームの中で、ヨガマットをメインにすると決めたことで、最初はチーム組成の面で問題が出てしまいました。岩田さんや布田さんに相談する中で、精神的な面でも鍛え直されましたね。数値目標としては2万枚売ることを目標にしていましたが、100社200社と営業をかけた中で、1社と話を進めることができました。BOOSTERが終わった今も、100日間で得たものを日々活かしながら、事業展開を進めています。

隣で頑張る姿に奮起。苦手な営業も「やるしかない」

布田:西川さんも河野さんも、まず「営業どうしよう?」というところからスタートしました。飛び込みしたり、電話やメールをしたりと頑張っていましたね。エンジニアは基本的に営業は得意ではないし、そもそも営業経験がないという人も多いのですが、BOOSTERの限られた100日の中では、イヤイヤながらもやらざるを得ない。でも、続けていくうちにお客さんの悩みやお困りごとが見えてきたりと、営業がすごく嫌なものではないという感じになっていきます。必要なプロセスですよね。

西川:10社の契約を取るというゴールを定め、KPIツリーというのを作って進捗を毎週報告していました。「河野さん、もうこんなに営業回ってる!」と、一緒に取り組んでいる人がすごく頑張っている姿を見ると、僕もやらなきゃという気持ちになりましたね。

河野:僕もまったく一緒でした。西川さんの資料のきれいさや進捗具合を見ると、ひたすら焦って…。営業も、無料で通話できる楽天モバイルを契約して、最初は震えながら電話をかけていました(笑)。やらない言い訳が心の中にいろいろと出てくるんですけど、隣の西川さんが頑張っているから、やるしかない。すごくいい環境でした。

100日間で得た成果を糧に、さらなる成長へ

――今後はそれぞれ自社のチームで目標を追っていくフェーズになりますが、お二人のこれからの目標を聞かせてください。

西川:BOOSTERでの目標は法人契約10社でしたが、実際に取れたのは1社、東急スイミングスクールでした。実証実験を経て無事採用となり、5月くらいにリリース予定で現在鋭意開発中です。まずは1店舗からのスタートですが、他の店舗でも採用していただけるよう進めていきたいです。あとは、他の大手スイミングスクールや、スクール事業を持つフィットネスクラブに展開していけたらと思っています。

布田:東急さんに採用されたのはすごいですよね。『ウゴトル』はまさに西川さんの技術力があってのプロダクトですが、何者でもなかったアプリが徐々に大手のツールとして導入されていくというのは、スタートアップの醍醐味ですね。それを使った子どもたちがどんどん成長していくというのも、本当に楽しみです。

西川:はい。嬉しいことに、現場の反応も上々です。スイミングスクールは1クラスいくらという相場観がガチガチに固まっている世界で、完全に横並びでなかなかアップセルできないんです。しかし『ウゴトル for Lesson』を使えば、月に1回撮影・動画添削をしたらいくら、2回ならいくら…とメニューを増やすことができるので、コーチの方々にすごく喜んでいただいています。
また、トップレベルの選手として活躍していたようなコーチでも、自分の泳ぐ姿を映像で見るのが初めてという方が多くいました。「これならうまくなるよ!」と喜んでいただいたり、さまざまな意見もいただけたりと、一緒にやっていてこちらも楽しいです。

――続いて、河野さんの今後の目標についてお聞かせください。

河野:僕たちは名古屋での実証実験を終えたところです。実際にモニターさんに使っていただいて「自分のクセがわかるのがすごくいい」など、ご好評をいただきました。次は都内での実証実験が決まっているので、それに向けて開発を進めています。当社も大手さんと繋がりができたので、導入していただけるように話を進めていこうと思っています。

布田:『yoctoMat』は、みんなが待ち望んでいたものですよね。きっと、さまざまな所で使いたいという声が上がると思います。ハードウェアを作る難易度はソフトの比ではないですし、別の難しさもありますよね。

河野:そうですね。でも「西川さんが頑張ってるから俺もやらなきゃ」と、めちゃめちゃ進めたBOOSTERの100日間でした。その頑張りがあったからこそ、今もスピード感を持って進めることができています。

――それぞれのプロダクトやサービスで、スポーツをより楽しめる人が増える未来が見えてきますね。本日はありがとうございました!

株式会社ウゴトル
ヨクト株式会社



Interviewee Profile:

Ryusuke Fuda

Venture Partner & CTO, MIRAISE