oVice株式会社 代表取締役 ジョン・セーヒョンさん

oVice - オンラインでも、現実世界にいるような気軽なコミュニケーションを

2021年2月27日


MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー|oVice株式会社 代表取締役 ジョン・セーヒョン
● MC|MIRAISE CTO 布田 隆介 / PR 蓑口 恵美

リモートワークでも、もっと気軽に雑談できたらいいのに――。

オンライン化が急激に進んだ昨今、企業や地域などさまざまな場所で、新しいコミュニケーションの方法が求められています。

そんな人々の思いに応えるために生まれたのが、自由に動いて、自由に話しかけられるバーチャル空間「oVice(オヴィス)」です。

今回は、oVice株式会社代表取締役ジョン・セーヒョンさんに、リモートワーク化でのコミュニケーション不足に悩む人々の課題をどう解決しているのか、そして今後の展望について伺いました。

「今いい?」テレワークで失った雑談を取り戻す

――「oVice」とは、どんなサービスなのでしょうか?

ジョン:「oVice」は、リアルのオフィスにいる時のように「今ちょっといい?」というような気軽な会話ができるバーチャル空間を提供しているサービスです。テレワークが広がり、軽い雑談や偶発的な会話の機会は格段に減ってしまいました。しかし「oVice」を使うことにより、コミュニケーション不足の問題を改善することができます。また、交流会のようなイベントでもよく使われるようになってきています。

――実はMIRAISEチームでも使わせていただいているのですが、本当にコミュニケーションがとりやすくなったと感じています。

布田:こうして文字だけで「oVice」を伝えるのは難しいのですが…自分のアイコンをマウスで動かして、近くにいるアイコンの人と話すというサービスです。「アメーバピグ」の進化版みたいな感じ、というと伝わるでしょうか。Zoomなどとはまったく別物で、一般的なテレワークのツールというよりは、”空間”の概念があるのが特徴的ですね。ジョンさんは、いつもどのように説明しているのですか?

ジョン:説明するより「まずデモを見てください!」と言っていますね。見たらわかります、と(笑)。コミュニケーション不足を感じているなら、ぜひデモを見に来てほしいと思っています。

――現在、「oVice」はどのような企業で導入されているのでしょうか?

ジョン:現在は約1,500件で、数万人規模の上場企業もあれば、任意の団体・チームやコミュニティ、友人同士など個人で利用してくださっている方も多く、ユーザーの幅は広がっています。リリース当初は大手企業が多かったのですが、今回の緊急事態宣言後は特に、個人ユーザーが増えていると感じています。

布田:バーチャルオフィスとして家から「oVice」に繋いで仕事をする形というのがメインだと思いますが、最近のプレスリリースを見ると、成人式などのイベントにも使われているようですね。こういった、ワンタイムのイベントでの利用も増えているのでしょうか?

ジョン:最初はやはりオフィスとしての利用が多かったのですが、学会では以前からよく使われていました。学会は、同時にいくつかのセッションが行われる場合が多いですし、大切な交流の場でもあるので、フィットしたのだと思います。さらにこの年末年始、リアルで会えない代わりに「oVice」で忘年会や新年会を開くという動きがありました。その後急激にこうした使い方が広がり、今では3割くらいがイベント利用となっています。数千人規模の展示会や、入社式、社内レクリエーションでも使っていただいています。

写真:oVice プレスリリースより(「東東京会場の東京タワーに集合ね!」の図。自分のアバターの近くでダブルクリックするとアイコンが表示され、ビデオ通話が可能となる)

――確かにこうしたイベントは、ちょっと横の人と喋ってみるとか、そういうカジュアルな会話をしたい場ですよね。

ジョン:「oVice」はみんなで同じ場所にいるという感覚があるので、誰かメインで話している人の話を聞きながらも、チャットで会話したり、隅っこに寄って話したり、イベントが終わった後も残って喋ったりと、リアルの会場と同じような形で交流できます。例えばZoomのように一方的に誰かが話して終わりではなく、みんなで交流したい、自由に会話したいといった場面でよく使われています。

――実際に、MIRAISEファミリーの忘年会も「oVice」でやらせていただいたのですが、みんな隅っこで喋っていましたね(笑)。少人数で盛り上がっているところにみんなが集まっていく動きもあれば、何人かがすっと離れて別の話を始めたり。そんなふうに、ずっと緩やかに盛り上がり続けていたのが印象的でした。

ロックダウン下のチュニジアで開発をスタート

布田:僕は昨年9月頃に、とあるイベントで「oVice」を知ったのですが、そのイベント自体よりも、この「oVice」というツールがすごいなと印象に残りました。その後コンタクトを取って投資に至っているのですが、「oVice」を作るきっかけの話も面白かったので、ぜひここでもお話しいただけますか?

ジョン:昨年1月、私は北アフリカのチュニジアに滞在していたのですが、コロナ第1波が急激に広がってロックダウンとなりました。そこでやむなくテレワークを始めたのですが、どんなツールを使ってもしっくり来ませんでした。私はもともとオフィスが好きで、物理的な空間にいる時の「気軽に話せる」「座っているだけで周りの声が耳に入る」といった感覚がないテレワークの働きづらさを感じ、それなら”空間”を作ろうと開発を始めたのが「oVice」だったのです。
最初はその概念を実証するために簡単なプロトタイプを作ったのですが、やってみるとなかなか良かったので、3月末くらいに商品化しようと決めました。その後、6月にクローズド、8月末にオープンβ版で提供を開始しました。

布田:プロトタイプの時はどんな感じのものだったんですか?

ジョン:ファーストプロトタイプはHTMLでテーブルを作り、テーブルの1マス2マスという距離で調整していました。そこから1ヶ月ほどかけて空間的な概念をさらに進めて、自由に動ける形にしたのがセカンドプロトタイプです。

――昨年1月に作り始めて、今では1,500件。すごいスピード感ですね。

ジョン:オープンβ版提供当時はそれほどでもなかったのですが、年末に向かってどんどんユーザーが増え始めました。年明けに緊急事態宣言が出てからは1日に50件以上増えているので、急速に利用が広がっているのを感じています。

布田:今は無料での提供もしているんですよね。

ジョン:「oVice」で面白いのは、末端の社員が勝手に使い出して、それを見た経営者が導入を決めるというケースがほとんどということです。その場合、有料サービスだと「使ってみたい!」と思った人が自腹を切るか、使う前に決裁権を持つ人に相談して予算をもらわなければならず、そのために1週間や2週間はかかってしまいます。そこで、今回の緊急事態宣言発令に合わせて、「oVice」のオフィス利用を無料で開放することにしました。

布田:さらに今は、イベント利用でも無料にしているんですよね。

ジョン:はい。緊急事態宣言の対象地域が広がった時に、開催予定のイベントについてTwitterでアンケートを取りました。やはり中止にしたという回答が多かったので、少しでも役立ててもらえればと思い、緊急事態宣言中に開催されるイベントには「oVice」を無料で提供することにしました。ですから、現在はオフィス利用でも、イベント利用でも無料で使えるようになっています。

ポストコロナを見据え、本当に「どこにいても働ける」世界を目指す

――先ほど「oVice」を作り始めた時にはチュニジアにいらっしゃったと伺いましたが、ジョンさんのグローバルなバックグラウンドについてもお聞かせいただけますか?

ジョン:もともと私は韓国出身で、オーストラリアの高校を卒業後、日本の大学に留学したという経緯があります。大学在学中に何度か起業したのですが、チュニジアに関わるきっかけとなったのが海外採用プラットフォームの開発です。海外採用を促進するサービスを提供しているのだから、自分たちも海外採用をしようと思って採用したのが、チュニジアの方だったのです。それを機にチュニジアに子会社を作り、もう5年以上チュニジアでもビジネスを続けています。子会社を立ち上げた際は1年のうち半分以上はチュニジアにいましたし、その後も月に一度は行っていました。

――2017年には、立ち上げた会社を東証一部上場企業に売却したというご経験もお持ちですが、oViceは何社目になるのでしょうか?

ジョン:資金調達などもして本気でやってきた会社としては3社目でしょうか。その他にも、趣味というか実験というか、そういう使い方をしている会社もいくつかあります。

――では、今後「oVice」をどのように展開していこうとお考えですか?

ジョン:日本での市場シェアはかなり取れたと思っていますが、さらなるシェア拡大に向けた施策を考えています。まず1つ目は、ポストコロナを見据えた取り組みです。コロナが落ち着くと、現在テレワークしている人がオフラインに戻ってきます。オンライン・オフライン両方に人がいる状態になり、両者間のコミュニケーションに関する問題が出てくると思います。主にオフラインの人たちがそこだけで話をして、オンラインの人が蚊帳の外に置かれてしまうというような問題ですね。それを防ぐために、IoTのデバイスを通じて、オンラインとオフラインそれぞれの人がシームレスに話せるような開発を進めています。

2つ目は「oVice」のさらなる"空間化"です。リアルな空間にはそれぞれのインテリアやレイアウトがあり、例えばオフィスなら、さまざまな部署・仕事が混ざり合う場でもあります。オンラインでもそれは同じで、いろんなデータが「oVice」の空間に集まります。喋った内容、どのように移動したか、どこにアクセスしたかなどのデータなどですね。そういったデータをAPIでサードパーティの企業にも提供して、面白いプラグインを開発してもらったり、デザイナーさんたちに空間をデザインしてもらったり…というような機能をリリースしたいと考えています。

写真:oVice プレスリリースより(ミーティング風景。画面右で資料を共有しながら、各自のアバターを使って会話)

――面白いですね!「oVice」に、リアルなオフィスの機能がどんどん入ってくるような感じですね。

ジョン:実際に、「oVice」をバーチャルの本社ビルのように使っているクライアントが出てきています。「oVice」を使うことで、物理的なオフィスを縮小しようという動きも見られます。

布田:従来のやり方では、コロナ後はオフラインの人の方が有利になってしまいますよね。絶対に「現場にいる人の方が話が早い」となってしまいますから…。そこに「oVice」が入って、机の上などにあるデバイスからシームレスに話せるようになれば、テレワークでもオフィスにいるのでも、どちらも同じ状態になりますね。オフラインの良さを残しながら、本当にどこでも働けるようになるというのは、かなり未来っぽい感じでいいですよね。

ジョン:それができなければ、みんなオフラインに連れ戻されてしまいます。「どこでも働ける」状態を存続させ、進化させるためにも、その問題を解決していこうと思っています。

――「本当に、どこにいても働くことができる世界」、楽しみですね!「oVice」の進化に、今後も注目していきたいと思います。本日はありがとうございました。



◆ 『oVice
「オンラインでのコミュニケーションを最大化する」ことを目的に作られた、自由に動いて自由に話しかけられるバーチャル空間「oVice(オヴィス)」を開発・提供しています。2020年にはTechCrunch Startup Battle OnlineやLAUNCHPAD SaaSに出場。oViceはサービスリリースから半年で約1700件利用されています。



Interviewee Profile:

Ryusuke Fuda

Venture Partner & CTO, MIRAISE