MIRAISE CEO 岩田 真一 / CTO 布田 隆介

MIRAISEがグッとくるピッチとは?

2021年2月5日

MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー|MIRAISE 岩田 真一 / 布田 隆介
● MC|MIRAISE PR 蓑口 恵美

日々、多くの起業家からさまざまなプロダクトや事業の話を聞いているベンチャーキャピタル(VC)。

今回は「MIRAISEがグッと来るピッチとは?」というテーマで、MIRAISEの岩田・布田に話を聞きました。

起業家の話を聞く中で、重視しているポイントはどこなのでしょうか?ぜひ、参考にしていただけると嬉しいです。

なお、今回の記事は、ラジオでの約55分にわたる話をギュッと凝縮してお届けします。ラジオ内では、文字数の都合でご紹介しきれなかった数々の具体的な事例も出てくるので、記事を読んで「もっと深く知りたい!」と思ってくださった方は、ぜひラジオにもアクセスしてみてくださいね。

最初の10分で心を掴む

――起業家と投資家の出会いの場になるのがピッチ(プレゼン)ですが、昨年も、お二人はさまざまな起業家のピッチを聞かれたと思います。その中で、どんなピッチが印象に残っていますか?

布田:昨年は100組以上のピッチを聞かせていただきました。僕は端的に言うと、わかりやすいピッチが印象に残りますね。言いたいことが増えると、ピッチも長く複雑になってしまいがちで、製品の特徴もターゲット層も何だかよくわからないな…と感じることも実は多くあります。ですから、時間にして10分くらい、スライドなら10枚くらいで文字も少ない、シンプルなものが伝わりやすいなと思っています。その方が、ピッチ後のディスカッションもしやすいですしね。

――実際に、ピッチはどれくらいの長さで、ディスカッションはどれくらいするものなのでしょうか?

布田:資料は先にいただくので、事前にこちらもだいたい内容を把握していますが、ファウンダーの方の口から実際に説明いただくのがピッチの時間ですね。その後、質疑応答などディスカッションの時間を取ります。ピッチとディスカッション、トータルで1時間くらいですね。ピッチに30分も40分もかかってしまうと、ディスカッションの時間はどんどん短くなってしまいます。

岩田:例えばスライドを30ページ作ってもいいんですけど、ピッチは最初の10ページで終えて、その後のページはディスカッション・ペーパーにするような形の方がいいですね。質問した時にそれを見せてもらいながら解説していただく方が、こちらの理解も深まりますから。そうすると、「最初の10分で興味を持ってもらうにはどうしたらいいか?」という発想に自ずとなってくると思います。

――ピッチはもちろんのこと、ディスカッションの時間も大切ということですね。限られた時間において、お二人が心を掴まれるのはどんな瞬間なのでしょうか?

布田:今取り組んでいることのずっと先に見えている世界が面白いと、投資に繋がることがけっこうあります。最終的にたどり着きたい場所が明確で、それがワクワクするようなものだとグッときますね。投資家の前では、恥ずかしがらずに「ディズニーランド作りたいんです!」みたいな大きな夢を語ってくれるといいですね。投資家に夢を見させると言いますか…。

岩田:それは「投資家の耳目を引くために大げさなことを言いなさい」という意味ではなく「自分の持つ大きな夢を隠さないでほしい」ということですね。本当はすごい夢を持っているのに「ピッチだと何だか飛躍し過ぎかな…」と、言わずにいるのはもったいない。大きな夢を語ったうえで、そのワンステップとしてこういうことに取り組んでいる、という形になるといいですね。

ピッチは「紙芝居」。ストーリーがあると引き込まれる

――そのほかに、グッとくるポイントはありますか?

岩田:先ほどの内容とは矛盾するようですが、あまりに大きい話、それだけだと投資には進みませんね。僕らがもっとも重視しているポイントとして、一歩一歩やる姿勢と言いますか、仮説と検証のサイクルを多数かつ高速に回していけるかどうか、というのがあります。
エンジニアは、ある程度自分の中で仮説ができると自分でプロダクトを作り始めることができます。しかし、その前に本当にニーズがあるのかどうか、ちゃんと確認することが大事ですね。

布田:課題に対してどのくらい考えられているのか、ということはよく見ています。例えば、なぜそのサービス形態を選んだのか、なぜその技術を使うのかということを聞いた時に、答えがぱっと出てくると、よく考えているんだなとわかります。ピッチ資料の競合マップを見ても、どういうところをどれくらい考えたのか見えてきますね。

岩田:競合分析は、ピッチに必ず入れなきゃいけないみたいだからなんとなく入れておく、というものではありません。自分のプロダクトで課題解決に真剣に取り組んでいるのであれば、おそらく、既存のあらゆるものを試しているはずなんですよね。ですから、競合分析資料は「入れなきゃいけない」ではなく、本来自然に出てくるはずのものなのです。

――「入れなきゃいけない」と言えば、市場規模に関する資料もありますよね。

岩田:それも大事なんですが、特にシード期の場合、おそらく起業家自身もよくわかっていない面があると思います。ですから、市場規模はアペンディックス(補足資料)でもいいくらい。それよりも、「Aさん、Bさん、Cさんはこういうことで困っていました。それを聞いて試作品を作って試してもらったら、とても喜んでくれました…」というようなストーリーが見える方がグッときます。ピッチは「紙芝居」のようなもの。最初の課題提示で「なるほど」と思わせて、解決策を見せて「そういう手があるのか」と唸らせる。めくる楽しみがあるピッチ資料はいいですね。すると市場規模を知りたくなってきます。

布田:このプロダクトを使ったことでどうなるか?というのは、実はあまりピッチに入っていないことが多いのです。「コストを10%削減できた」「売上が上がった」など、紙芝居で言うところの「めでたしめでたし」がないということですね。ただプロダクトの紹介をするだけだと、「これで一体どうなるんだろう?」で終わってしまいます。

1回で決めなくていい。「次にどう繋げるか?」を考える

――投資するかどうかは、1回のピッチで判断するのでしょうか?

岩田:いいえ。1回のピッチ、1回のディスカッションで決めようと思わなくていいのです。本当に可能性があれば、次のミーティングに繋がっていきます。特にMIRAISEの場合は、最初は僕か布田さんどちらかが話を聞いて、良ければその後必ず二人で話を聞かせていただくことになっています。一発で決めようというのではなく「もう1回話を聞かせてほしい」と、次に繋げていく、と考えてもらえるといいですね。投資を受けると長いお付き合いになりますから、お互いにパートナーとしてやっていけるかどうか、やり取りを重ねながらお互いに見極めていくような感じです。

――なんだかデートというか、お見合いのようでもありますね。結婚に向けてコミュニケーションを重ねて、一緒に歩めるかどうかを確かめていくという…。

岩田:VCもそれぞれに特徴がありますから、VCについても調べてから臨むとよいですね。「相手を知る」ことは大切です。そうすれば、なぜそのVCに投資をしてほしいのかも伝えることができます。結婚とはいい例えで、そうだとすれば、相手を知ろうとするのはごく普通のことですよね。

布田:あと、最後に「投資の可能性はありそうですか?」と聞いてみるといいと思います。意外と聞かれないのですが…。聞いてくれると「ここがクリアできればいけそう」など、具体的なフィードバックをお伝えできるので。

――何回か、会話を重ねることを前提とした1回目なんですね。

岩田:どうしても、初めてのピッチだと足りない点が出てきてしまいます。ですから、布田さんが言うように、投資家に対して具体的なフィードバックを聞けるような問いかけをするのはとても大事です。ピッチは場数を踏むのが大切ですが、どこが自分に足りないのかわからないままでは、何度ピッチをしても同じです。フィードバックを聞こうという姿勢からは、本当にそれがやりたいんだという起業家の想いや、うち(MIRAISE)に出資してほしいんだという想いも伝わってきます。だからといって必ずしも出資に結びつくとは限りませんが、僕たちはディスカッションにはいくらでもお付き合いします。

――ピッチも仮説と検証を繰り返していくんですね。1回作ったものを、フィードバックを受けてどんどん改善していくと。

岩田:うちで出資させていただいた起業家で、数々のVCを回る中でもらった質問を全部Googleスプレッドシートに書き出していた方がいました。質問のカテゴリー分けもして、それに対する回答もどんどん足していって。さらに、そのシートを回ったVCと全部共有していたのです。もちろん、どのVCの質問かということは隠してあるのですが。これがもう、ひとつの立派なFAQのリストになっているんですよね。ゼロから始めて、資金調達に回っている間にしっかりとした説明資料を作り上げた。その姿勢をみて、この起業家は投資後もきっとオープンに情報共有して、一緒に考えていく人なんだろうなと思いました。そうしたことから、起業家としての資質を十分備えていると判断したことも、出資を決めた大きな要因のひとつでした。

「バリュエーションはどれくらい?」わからないことは素直に聞こう

――バリュエーションについてはいかがでしょうか?

布田:まずは、今はこの地点にいて、これからどういうマイルストーンを経て事業を成長させていくかということをしっかり見ます。例えば、ここから広告を打ち始める、ここまでに機能を全部完成させる、といったスケジュールですね。それがあると、僕らがどのタイミングで入るのかがわかりますから。
そして、各マイルストーンに対してどれくらいの額を集めて、何に使うのかも聞きます。開発費なのか、エンジニアの採用に使うのか、それともセールス部隊を作るのか…それを聞くと、ビジネスのタイミングがわかります。そのタイミングに関係するのがバリュエーションです。いくらくらいの額に対して、どれくらいの株を放出するかということですね。

岩田:バリュエーション=企業価値ですね。起業家側が提示した額を参考にしつつも、うちの条件に照らし合わせるとこれくらい、というのを提示します。皆さん、高めのバリュエーションで調達したいと基本的には思っているんですけど、それがあまりに相場からかけ離れている場合、資金調達は難航します。
資金調達をする目的は、お金を得て成長速度を上げることです。すなわち、「時間を買う」ということなんですね。ですから、適正ではない高いバリュエーションにこだわって資金調達に時間がかかる…というのは本末転倒です。時間を買えていないということですから。

布田:バリュエーションについては、最初はよくわからないでしょう。その場合は「わからない」と素直に言ってほしいと思います。わからないからと適当に答えてしまうと、その後なかなか変えにくいものなので、後々大変になってしまうことがありますから…。今、自分たちのバリュエーションがどれくらいかと聞いていただければ、僕らの基準でお答えします。

――何でもわからないことは、オープンに聞いてもらえるといいということですね。

岩田:皆さん、売上が上がっていないとダメだろうと思うかもしれませんけど、シードステージの場合はそんなことはありません。特に僕らは、プレシード期においてマネタイズは二の次と考えています。その時期に大切なのは、課題解決の手法、技術力や開発力、そして仲間が集められているかがどうか。そちらの方を重視しています。
そしてMIRAISEには、ピアラーニングの場であるオンラインコミュニティがあります。そこで僕らやメンターの方々、先輩起業家、他の投資先起業家の人たちからアドバイスをもらって、足りない部分を補っていくことができます。僕らにはこうしたサポート基盤があるので、そこでカバーできるところ(例えばマネタイズの方法など)は、あまり気にしていません。投資が決まった起業家には、足りていない部分は今後一緒にやっていきましょう、と話しています。

――ありがとうございました。「ピッチは紙芝居」「1回で終わりじゃない」など、これからピッチに臨む方、起業を考える方にとって示唆に富む話を伺うことができました。なお、MIRAISEのサポート体制についてはサイトにも掲載しておりますので、ぜひご覧になってみてくださいね!


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Interviewee Profile:

Megumi Minoguchi

PR, MIRAISE