ナオセル 岸 悟志さん / Swarm 三野 泰佑さん

投資先を次のステージへ導く『Boosterプログラム』とは?

2021年1月22日

MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● ゲストスピーカー|
 ・株式会社ナオセル 代表取締役 岸 悟志
 ・株式会社Swarm 創業者 三野 泰佑
● スピーカー|MIRAISE 布田 隆介
● MC|MIRAISE PR 蓑口 恵美

今回は、MIRAISEが行っている投資先サポートプログラム『Booster(ブースター)』について伺っていきます。

Boosterプログラムを経験された2人の起業家にもご登場いただき、起業家の孤独や、次のラウンドを成功させるための裏舞台についてお話しいただきました。

次のステージに向けた数値目標を定め、達成に向けて伴走する

――今日のテーマは、MIRAISEが行っている投資先サポートプログラム『Booster』です。今日は特別ゲストとして、先日『Booster』を修了された起業家のお二人にも参加していただきます。壊れたスマホを売買できるマーケットプレイスを運営している株式会社ナオセル代表取締役の岸悟志さん、そして、暗号通貨ウォレットを開発されている株式会社Swarm創業者の三野泰佑さんです。まず布田さんに『Booster』とはなにか、説明していただきます。

布田:『Booster』は、MIRAISEが支援先企業向けに提供しているアクセラレータープログラムのようなものです。100日間、2週間に1回のメンタリングやディスカッションを行いながら、次の資金調達の成功を目指すプログラムです。具体的には、ピッチの改善、資金調達成功に向けた数字の改善、成長を目指して取り組んでいくものです。

――『Booster』は、どのようなきっかけでスタートしたのでしょうか?

布田:MIRAISEには、起業前や起業したての起業家を対象とした『On−Deck』という起業支援プログラムがあります。『On−Deck』を続ける中で、MIRAISE代表の岩田さんと、On-Deckのようなプログラムを、すでに投資している会社に対してやってみてもいいなじゃないか、という話になったのです。僕たちは主にシードを対象にしたファンドなので、投資した後、次の資金調達が比較的近くなる場合も多くあります。シードVCVであるMIRAISEの重要なミッションは、支援先企業の次回の資金調達を成功させることなので、そのためのプログラムをやってみようということになりました。そのとき、ちょうど次の資金調達が近かった岸さんと三野さんに声をかけて、参加していただいたのが第1回目の『Booster』です。

――初めての『Booster』に参加されたのがお二人だったのですね。まずは、プログラムの100日間で、どんな成果があったかをお話しいただけますか?

岸:まずは、事業領域をブラッシュアップして、フォーカスできたことは大きかったですね。我々が作っているのは壊れたスマホなどのジャンク品を売るフリマサイトですが、リリース当初はまだユーザー同士の取引は少なく、自社出品が多い状態でした。しかし『Booster』の後半くらいからユーザー間の取引が増え始め、現在も順調に増加しています。それが、最終的な『Booster』の成果だったと思います。

布田:マーケットプレイスなどでは、次の資金調達において投資家にもっとも見られるのが、いわゆるGMV、総流通額です。どれくらいのお金がプラットフォーム上で動いているかというのが、岸さんのナオセルにとってはひとつの重要な指標でした。その数字を、100日間で伸ばしていく取り組みをしましたね。最初はTwitterで広げていくとか、どんどん知り合いに買ってもらうとか、そんな地道なところからやっていきました。

――三野さんはいかがですか?

三野:僕らの提供しているのは金融サービスで、ユーザーに金利を稼いでもらうということがゴールです。もっとも大事なKPIは、ユーザーがどれくらいの額をトータルでデポジット(預金)してくれたか、です。Boosterが始まる少し前に、自社サービス「Goyemon Wallet」を公開したのですが、最初はほぼゼロだったデポジットが、『Booster』が終わる頃には、トータルで100万円以上となりました。わかりやすくグロース(成長)できたと思いますね。

布田:Swarmのアプリ「Goyemon Wallet」は、銀行みたいにお金を預けられるんですね。すると、さまざまなブロックチェーンの仕組みに乗って、金利を稼ぐことができるのです。銀行の利息は100万円預けたとしても数円だったりしますが、「Goyemon Wallet」ならもっと高い利率で稼ぐことができます。事業的には、次のステージに進めるうえで必要な数字は、ユーザー数とトータルのデポジット額となります。最初は岩田さんと岸さんも含めて4人で、実際にデポジットして使ってみてお互いにフィードバックしました。

仲間とメンター陣の存在が起業家を支え、育てる

――MIRAISEは基本的な思想として、起業家同士が切磋琢磨してお互いに学び合うことを大切にしていますよね(ピアラーニングと呼んでいます)。『Booster』でもその考え方に基づいて、2社同時に、かつ一緒に進んでいました。その点は率直にいかがでしたか?ひとりでは得られなかったものなどがありましたらぜひ教えてください。

三野:会社を始めてから感じるのが、けっこう孤独だなということでした。起業家は基本的に周りに弱みを見せてはいけないと思うんですよね。自分が一緒に働いている人、投資家、メディア…誰に対しても。こういったファウンダー(創業者)ならではのプレッシャーとか悩みがある中で、それを横のつながりで共有できるというのは、すごくいいなと思いましたね。

岸:三野さんと同じことを僕も感じていました。他に思ったこととしては、他のファウンダーが投資家にピッチをして、フィードバックを受けているところってなかなか見られないですよね。そのときの三野さんの対応を、僕はいつも参考にしていました。フィードバックを得たらその場でスライドに書き込んでいくなど、すごいなと思っていました。僕は手が止まってしまうタイプなので…。三野さんのやり方を見て、改善スピードは断然早いんだろうなと。そのように、お互いを常に見て、うまくできているところを学び、足りないところを補完できるのはいいなと思っていました。

布田:ここまでは『Booster』の前半部分で、数字のグロースに重点的に取り組みます。そして後半は外部の投資家や、少し先を行く起業家、上場企業の代表の方など毎回異なる方にメンターとして参加していただきました。そして練習してきたピッチを聞いてもらい、フィードバックをもらうというセッションを4回ほど繰り返します。それについてはいかがでしたか?

岸:本番さながらで実践する機会をいただけたのは、本当に良かったです。実際に『Booster』後にもピッチをしていますが、気持ち的には変わらない状態で臨めています。ピッチを聞いてくださった方々はメンターでもあったのですが、普通に投資家さんに対してやるつもりでいつもプレゼンさせていただいていたので。

布田:人によって見るところが違うので、僕や岩田さんでは考えつかないような質問も出ます。マーケティング視点で聞いてくる人もいれば、事業的な面から売上をどう稼いでいくかという点を詳しく突っ込んでくる人もいる。後半のピッチ練習で、様々な視点をを持つメンターが入るというのは効果的だと思っています。三野さんはいかがでしたか?

三野:先ほど岸さんが、他の起業家のピッチを見る機会があまりないとおっしゃっていたんですけど、逆も同じで、自分のピッチを他の起業家や投資家に見てもらう機会はなかなかないんですよね。ピッチは基本的に、投資家と自分の1対1ですから。ピッチのあとに、すぐにその場でフィードバックをいただけたのは、すごくよかったですね。

布田:ピッチは起業家と投資家の判断の場なので、フィードバックをもらう時間もあまりないですよね。ピッチを元に、出資するのか、見送るのかという判断をする場なので。ピッチ資料自体や説明の仕方について「こうしたほうがいいよ」というフィードバックがもらえることはあまりないはずです。ですから、実際の資金調達に回る前にピッチを聞いてもらい、フィードバックを得られたことは、有利に働くと思います。

100日間の成長で、見える景色が変わる

――ベンチャーキャピタル(VC)が、すでに出資している支援先向けにこうしたアクセラレータープログラムをやるということはなかなかないのではと思っています。1回目を終えた『Booster』は、そろそろ第2回の参加者に声がかかる頃だと思います。そこで、三野さん、岸さんに伺いたいことがあります。例えば『Booster』参加前の自分に対して、今アドバイスするとしたらどのようなことがありますか?VCに実際にアドバイスをもらえるこの100日間を、どう使いこなせばいいかなど、聞かせていただきたいです。今後 Booster に参加する起業家の皆さんの参考になると思います。

三野:もっと自分たちの状況を、事細かに共有したほうが良かったかなと思っています。例えば、2週間に1回のミーティングの際にはKPIの数字を共有していたのですが、それがもっとも重要なKPIであるデポジット額のみだったんですね。ユーザー数などほかにもいろいろなKPIがあるので、それらもしっかり開示して共有していたら、より有意義なディスカッションができたかなと思います。

岸:僕もそれはありますね。KPIの設計段階から見ていただいて、共有する数字もしっかり決めていけばよかったかなと思いました。あと最初のうちはフォーカスできていないところがあったので、KPIを決めても、その数字をモニタリングする際に、たくさんある課題の中でどれから取り組むのかの課題設定がしっかりできていない面もありました。それを最初からできていたら、もっとこの機会を活かせたかなと思いました。

布田:お二人とも、『Booster』の100日を経たから、成長してそうなったんじゃないかなという感じがしますね。そういう感想が出るということは、考え方が変わってきたということではないかと。それはいいことですよね。

――投資先サポートプログラム『Booster』はまだ始まったばかりですが、これからどんどんアップデートされていくと思います。布田さんは、今後この『Booster』をどうしていきたいとお考えですか?

布田:今ちょうど、2期目の『Booster』が始まったところです。お二人に参加していただいた初回『Booster』を活かして、運営側もアップデートしています。2期目のピッチ練習にはお二人にも来ていただいて、受講者へのフィードバックをいただきたいと思っています。今後もMIRAISEを通して、お互い協力し合う仕組みができていけばいいなと。2期目のピッチを聞いていただく際には、お二人が次の資金調達を無事に終了させてくれているといいなと思っています。そうすると「こうやってうまくできたんですよ」と言えるので(笑)

――布田さんの言葉で、お二人、すごく笑顔になりましたね(笑)MIRAISEで切磋琢磨して目標を達成して、次のステージに進んでいく…そうした背中を見たい、伴走していきたいというのがMIRAISEのスタンスですので、『Booster』もさらに進化してほしいなと、皆さんのお話を伺っていて感じました。今日はありがとうございました!


◆壊れたスマホを売り買いできるマーケットプレイス『ナオセル
株式会社ナオセル 代表取締役 岸悟志氏
1985年生まれ。兵庫県出身。総合家電メーカーで家電修理やスマートハウスの研究開発、エネルギーソリューションの新規事業を経験。在職中に実家でiPhone修理専門店を創業。その後、WebエンジニアとしてITベンダーやスタートアップにてSaaSの開発に従事しながらサイドプロジェクトで「ナオセル」の開発を始め、2019年11月にナオセルの「ジャンクフリマ」をリリース。

◆暗号通貨ウォレット『Goyemon Wallet
株式会社Swarm 創業者 三野泰佑氏
1989年生まれ。香川県育ち、慶應義塾大学卒。学生時代にシリコンバレーでインターンを経験し起業を志す。独学でプログラミングを覚え、フリーのプログラマーとして活動した後、2013年頃にブロックチェーンを基盤とした分散型技術に出会う。その後分散型のアプリケーションなどをいくつも開発。2019年に株式会社Swarmを設立し、ブロックチェーンのアプリを簡単に使えるモバイルウォレットをリリース。


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Ryusuke Fuda

Venture Partner & CTO, MIRAISE