pickupon株式会社 代表取締役 小幡 洋一さん

pickupon - AIで電話音声データを可視化、社内コミュニケーションを改革する

2020年8月21日

MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー|pickupon株式会社 代表取締役 小幡 洋一
● MC|MIRAISE CEO 岩田 真一 / PR 蓑口 恵美

”お客さまの声”を、社内でなかなかわかってもらえない――。ビジネスマンであれば、誰もが一度は経験したいことのある悩みではないでしょうか。

AIを搭載したクラウドIP電話サービス『pickupon』は、”お客さまの声”を社内で簡単に共有できるサービスです。顧客が何に悩み、何を望んでいるのか…そうした声を共有できるテクノロジーを生み出すことで、さまざまなコミュニケーション上の課題解決、さらには社内イノベーションに挑む pickupon株式会社代表の小幡洋一さんにお話を伺いました。

ブラックボックス化する"お客さまの声"

――まず、現在展開されている事業についてお話しいただけますか?

小幡:僕たちがやっている事業は、AIを搭載したクラウドIP電話『pickupon』の提供です。『pickupon』を使うと、電話で話した内容の要点をAIが自動で入力し、社内で簡単に共有することができます。

岩田:主なユーザーはどういった方ですか?

小幡:現状では、SaaSのプロダクトを売っていてインサイドセールスチームがあるような、いわゆるスタートアップ企業を中心に導入が進んでいます。ただ、「お客さまの声の共有」という課題には汎用性があるので、スタートアップやIT系でなくても、電話営業をして商談にも行くような会社なら、どこでも便利に使っていただくことができます。

――現在のユーザー像について、もう少し詳しく教えていただけますか?

小幡:スタートアップの成長ステージでいうと「シリーズA」を過ぎたくらいの企業が多いでしょうか。会社全体では30名以上の規模になってきていて、どんどんスケールしていくフェーズですね。そのくらいの規模になってくると、リード(問い合わせ、資料請求等)もたくさん入ってくるようになり、インサイドセールスが必要になってきます。でも、インサイドセールスを置いたはいいけれど、電話で話したやりとりがブラックボックス化してしまっていて活用できていないという企業がたくさんあるのです。そうした企業を中心に使っていただいていますね。

――ところで、「インサイドセールス」とは何でしょうか?

小幡:いわゆる電話営業です。Webから問い合わせたり、資料をダウンロードしたりした方に電話をして、なぜ興味を持ってくれたのか、導入意向はどれくらいあるのかといった内容をヒアリングする…といった感じです。そのヒアリング内容を元にリードの順位付けをして、商談に入ると決めたらクロージングを担当する営業へとパスするというのが、よくある営業フローです。

――知らない分野だと、何がわからないかもわからない、調べる単語もわからなくて検索もできない、ということは多いですよね。

岩田:「シリーズA」くらいになってくると、顧客管理システム、いわゆるCRMを導入しているところが多いと思います。電話してCRMに登録して管理をしていくという流れになるのですが、その中でのユーザーのペインポイント(悩みの種)を解決しようと作ったのが『pickupon』ですよね。ユーザーの「悩みの種」とは、具体的にどんなことだったのでしょうか?

小幡:もっとも大きな問題は、電話で話した内容というのは、情報としてすごくシェアしにくいということです。会議なんかもそうだと思いますが、話した内容を共有する方法は、議事録のようにテキスト化する方法と、録音してシェアする方法、大きく分けてその2パターンしかありません。でも、テキスト化は入力コストがかかるし、主観が入る二次情報となってしまいます。一方で、録音されたデータは構造化されていないので、30分なら30分最初から最後まで聞かなくてはいけない。時間に縛られてしまうんですね。

つまり、シェアする方法はどちらも一長一短で、どうしてもお客さまとの会話は共有されにくいという状況がありました。そのことをユーザーインタビューを通じて発見し、解決を目指そうと思ったのです。

CRM入力に年間330時間・82万円のコストがかかっている

岩田:インサイドセールスの人たちは、毎日大量の営業電話をしているわけですよね。電話1件終わるごとにCRMに会社名を入れ、会話のポイントを書き込み、担当者などいろいろチェックを入れて…かなりの手間ですよね。そもそも二次情報になってしまうということ以前に、入力コストは非常に大きいのではと思います。実際に、CRMなどへの入力にどれくらいの時間を使っているのでしょうか?

小幡:実際にインタビューをした実例なのですが、従業員数300名くらいの会社のセールス部門では、1日のうち1.25時間くらいをセールスフォースへの入力に使っていました。年間で考えると、何十日にもなるんですよね。

岩田:僕は長く外資系に勤めていたので、日本で普及する前からCRMを使っていました。必ず入力するようにって言われるんですけど、つい忘れちゃうんですよね(笑)。そのための時間を、自分のスケジュールに入れていなくて。結局それは残業してやることになっちゃうんですよね、ひとりでできることだから。確かに負担を感じていたなと思います。

小幡:僕たちのリサーチでは、年間で約330時間、1日のうち17%をCRMなどへの入力に使っているという結果が出ました。時給換算すると、一人あたり年間82万円のコストをかけているという計算です。インサイドセールス10人だと、1年で820万円分を入力作業だけに使っているということですね。

岩田:入力すること自体には何の価値もないですからね。

――たまに、入力されたものもその人にしか分からないようなメモっぽくなっていることもありますよね。お客さんの思いなんかは全部端折られてしまって…。すごく簡単なメモしか残っていなくて、「これどういうこと?」と思った経験は私にもあります。

小幡:入力コストがかかると、共有される情報がどうしても少なくなって頭打ちになってきてしまうので、次の施策が打てなかったり、正しいフィードバックがされなくなってしまったりします。そして、結局ブラックボックス化してしまうという…。

岩田:『pickupon』を導入すると、そうしたコストがまるっと削減できるということですね。

小幡:そのとおりです。かつ、やりとりがテキストと音声で一次情報として扱えるデータとして記録されます。完全な状態の情報を、コストほぼゼロでシェアできるようになるのです。また、『pickupon』を使うために特別なCRMは必要ありません。「セールスフォース」や「センシーズ」などの既存のCRMやSFAに対応しており、『pickupon』を入れることで入力コストを削減し、共有する情報の質と量を上げることができます。

「テキスト化」と「録音」をブリッジし、"お客様の声"データを最適化

岩田:実際に『pickupon』でデータがどのように蓄積され、どのように使われるのかという想定と、事例があれば教えていただけますか?

小野:まずお客さまと電話で会話し、電話を切ると、自動的に音声データが録音されます。次にその音声データを解析してテキスト化し、メタ情報を付与します。具体的には、お客さまの発言の中で、困っていたり怒っていたりするセンテンスをテキスト化し、ピックアップします。そして、さらに重要箇所をサマライズした情報、つまりメタ情報を付与したテキストと音声データをまとめた「かたまり」をまず作るんですね。その後、サマライズされた重要な情報をCRMやSFAに自動的に連携します。

つまり、お客さまと電話で話して切るだけで、お客さまとどんなやりとりをしたのかというのが自動的に蓄積されていくのです。一人あたり年間82万円、業務時間のうち17%もかけてやっていた作業が、一瞬で終わる。お客さまとは直接話さない管理職の方でも、CRMやSFAにどんどん一次情報が録音も含めて残っていくので、それらを完全な状態で確認することができます。しかも、ヒアリングされたデータだけとか、お客さまが怒ってしまったコールだけとか、ソートをかけて調べることもできます。

岩田:1時間の会話を、最初から1時間かけて聞かなくても、システム上でフラグやマークがついているところだけに絞って聞けたり、テキスト化されたものを見ることができるんですよね。僕がすごくいいなと思っているのが、実際のお客さまとの声でのやり取りが聞けることです。二次情報ではない形で、かつ効率よく、直接話を聞いた人だけが感じ取れるニュアンスも含めて理解できるのはいいなと。

小幡:なぜ”お客さまの声”のブラックボックス化が起きてしまったのかというと、テキスト化して共有するのも、音声データとして残すのも、両方「イケてない」からです。僕たちがやっていることは、それぞれ一長一短ある2つの方法をブリッジさせるということ。そうすると、一次情報の知りたい部分だけが一瞬で分かる、みたいな世界が実現できるのです。僕たちはそれを「第三のメディアを作る」と言っているのですが、テキスト化だけではダメ、音声だけでも使えない…それらを組み合わせてデータ化することに意味があると思っています。

『pickupon』は、コミュニケーションを活性化させるチームワーキングツール

岩田:僕は、『pickupon』は基本的にチームワーキングツールだと思っています。最初に小幡さんにお話を伺う前は、よくあるインサイドセールスのSaaSみたいなものかなと思ったのですが、聞いているうちにそうではないな、と。これは、売上を伸ばすことを目的としたセールスツールという枠に留まらない、チームワーキングのツールだという印象を受けたんですね。実際、その点が出資させていただきたいなと思った大きな理由でもあります。

小幡:僕のバックグラウンドは営業ではないので「なぜ営業の人たちが使うツールを作っているんですか?」とよく聞かれます。僕はビジネスをしていくうえで、事業やプロダクトを良くしていくことが重要だと思っています。顧客と開発者が接点を持つことはなかなか難しいのですが、良い事業・プロダクトを作っていくためには、顧客の声というのがどう考えても大切です。

しかし、そうした”声”は顧客と実際にやり取りしている営業担当のところで止まってしまっていることが、ユーザーインタビューを通じてわかってきました。そこで、顧客との接点になる営業領域、事業にとってのインターフェースになる部分にまず『pickupon』を入れて、顧客からの反応やフィードバックをチーム内にどんどん共有していく。そうすると、経営者も顧客の声を直接聞けますし、開発チームもSlackなどを通じて顧客の思いを知ることができます。それによって、開発の優先順位が変わったり、営業チームとのコミュニケーションが非常に良くなったりするのです。

開発の人と営業の人は使っている言葉がけっこう違うと感じているのですが、そのためにうまくコミュニケーションが取れていないことって多いと思うのです。営業が「お客さんからこういう要望が上がってるんだけど」と言っても、それは二次情報であり、どういう背景でそういう声が出てきたのかよくわからないし、そもそも営業の主観が入ってねじ曲がっていることもあります。でも、『pickupon』を使えば、開発側も一次情報である顧客の生の声を聞いて、「こういう課題があるのか」「こういう機能を実装したらいいんだ」と気づき、自ら最適なアクションを起こしてくれる。そういう世界が、『pickupon』を使うことで実現できるのです。

岩田:僕も、それこそが『pickupon』の価値だと思います。僕も開発と営業の間に立つことが多かったので、すごくよくわかります。どの組織でも、営業と開発のコミュニケーションは大きな課題のひとつですよね。開発チームは、営業から上がってきたものをあまり信じていない。「それって本当にお客さまが言ってたの?」と疑っているんですよね。営業に言われて作ったけどやっぱり使わない…そんなことが何回か起きるとやる気を失うし、不信感も募ります。

営業の伝え方や、そもそものヒアリングが間違っていることもあります。例えば、営業が「3つの問題があるから、3つの機能を作ってください」と伝えた内容も、開発側が顧客の生の声を聞いてみると、実は1つの機能で解決できるということもある。顧客の切実なリクエストを聞くと、開発としてはやる気も湧きますよね。

――最後に、pickupon、そして小幡さんがこれから目指していることについてお聞かせいただけますか?

小幡:「体験が共有可能な世界」を僕たちは作ろうと思っています。お客さまとの会話を僕たちは「体験」と呼んでいて、それがデータとして扱えれば、コミュニケーションが活性化し、けっこうすべてがうまくいくようになる。先ほど「第三のメディアを作る」という話をしましたが、これはメディアの問題なのです。何をどのようにして情報を扱うか。それは、テクノロジーで解決すべき問題です。僕たちは、それを解決するための挑戦を続けていきます。


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Interviewee Profile:

Shin Iwata

Partner & CEO, MIRAISE