Manifold株式会社 CEO 森 雄大さん / CTO 小野 修平さん

Manifold - セレンディピティのアルゴリズムで「知る楽しさ」を広げていく

2020年7月3日

MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」の配信をスタートしました。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー|Manifold株式会社 CEO 森 雄大 / CTO 小野 修平
● MC|MIRAISE Venture Partner 布田 隆介 / PR 蓑口 恵美


情報があふれる今、検索エンジンやニュースアプリ、SNSタイムラインは使い込めば使い込むほど、「自分の関心の外にあるようで、実は潜在的に自分が欲しいと思っているかもしれない情報」の入手できなくなることに課題を見出した起業家がいます。

「知らないことに出会える楽しみをつくりたい」と、セレンディピティのアルゴリズムを開発するManifold株式会社の CEO 森雄大・COO 小野修平さんは、”検索しない検索エンジン”『entren』の提供をスタートしました。

人々の関心を広げ、知りたかった情報との出会いをつくるテクノロジーをどのように生み出したのかについて、お二人に伺っていきます。

“Like”によるレコメンドは、世界を狭めてしまう

――まず、現在提供されているサービス『entren』(エントレン)についてお話しいただけますか?

森:既存のニュースアプリや検索サービスは、ユーザーの閲覧履歴からレコメンドをするというものが多いと思います。僕たちは、そのレコメンドに疑問を持ちました。レコメンドによる最適化が進むと、どんどん興味の幅が狭くなっていく。本当に知りたいと思っていることに出会いにくくなるんじゃないか、という問題意識があったのです。

そこで僕たちは発想を変えて、ユーザーの”Like”ではなく”Dislike”の行動を学習しフィルタリングを行うことで、ユーザーにとっての新しい発見、セレンディピティを提供できるんじゃないかと考えました。そこで、リアルタイムで記事を”Dislike”でフィルタリングして、自分だけのタイムラインを形成できるサービス『entren』を開発しました。

――”Dislike”でフィルタリングできるというのは、あまり聞いたことがないですね。

布田:例えば、Twitterだったらフォローしている人の情報しか基本的には流れませんね。ニュースサイトなら機械学習などで、自分が「いいね」したりクリックして見たりした情報から、「この人はこういう情報が欲しいんだ」と判断して、どんどんレコメンドしていくわけです。そうすると、クリックしていないし知らないけど、実は自分にすごく合っている情報というのが提供される可能性は限りなく低くなります。『entren』はこの逆の発想で、嫌いなものだけを取り除いていくことで、自然にもっと広い範囲からレコメンドしていくというサービスですね。

森:当たり前のことですが「知らないことを知る」っていうのはけっこう難しいことで…例えば、僕は機械学習のエンジニアなので、その分野についてはよく調べたりしていますが、それが調べられるのは僕が機械学習の分野に詳しく、単語を知っているからなんですね。でも、これが同じ技術系でも例えばセキュリティなんかになると、どう調べればいいか、どういう単語を使って検索すればいいかまったくわからない。同じ技術系でもそうなら、離れたジャンルのことならもっとわからないはずです。

小野:さらに例を出すと、森さんが実は料理に興味があるかもしれないのに、既存のサービスでは、森さんが普段検索したりクリックしたりしているものから「料理」というジャンルはレコメンドされてこないわけです。それって自ずと視野が狭くなっていき、とてももったいないことだな、と感じてまして…。自分が潜在的に興味があるかもしれないものとの偶発的な出会いというのを、Webサービス上で提供できればすごく素晴らしいなと思ったのです。そういうセレンディピティな出会いがもっと日常的にある世界になればいいなと。

――知らない分野だと、何がわからないかもわからない、調べる単語もわからなくて検索もできない、ということは多いですよね。

森:既存のサービスは閲覧履歴からレコメンドしていますが、そもそも、閲覧しているからといって好きとは限らないという問題があると僕は思っています。でも、今あるサイトやサービスのほとんどは「閲覧している=好き」と判断している。今、世の中にある記事は扇動的なタイトルがつけられたものが多くあります。過激なタイトルをつけてクリックされればレコメンドされやすくなるからです。そのせいで、読みたくないけどレコメンドされる記事が増えていく…というのはあると思うんですね。そこをもうちょっとちゃんと、ユーザーの直接的な行動を捉えて適切に提示したいな、という思いがあります。

偶発的な「面白い出会い」を創出したい

――知る、調べるということに関して、勝手に関心が狭められているという状況に多くの人は気づいていないんじゃないかと思うのですが、お二人はどうして『entren』を開発しようと思ったのでしょうか?

森:僕がもともとオタクなんですよね(笑)。ムダなことをいろいろ調べるのが好きな人間なので。昔から暇さえあれば2ちゃんねるやWikipediaのリンクをひたすら読み漁ってたりしてたという。例えば、実は日本の法律では首都が定まっていないという話があったりとか…。そんな面白い情報がいっぱいあるのに、レコメンドによってそうした面白いことに出会う機会が失われていき、知らないままになってしまうのは個人的にはちょっと悲しいことだなと思うのです。

小野:そうした「面白い出会い」をいかに効率化して集められるか、というのが森さんの根幹にある発想です。自分の興味が広がっていく体験って、すごく楽しいし、面白いと思うんです。やはり「好き」からのレコメンドでは「あ、知らなかったけど、こんな情報あったんだ!」という偶発的な出会いはなかなか創出できない。今そういうサービスがないのであれば、自分たちで作ろうというところから始まりました。

――ところで、お二人はMIRAISEの『On-Deck』プログラムを利用した起業家第一号だと伺っておりますが、プログラムではどんなことをしてきたのでしょうか?

布田:もともとは、森さんが一人で僕と岩田さんの元に来て、「こういうサービスを作りたいと思っています」と話してくれたんですよね。その時はもう、パワポとかでもなくただマークダウンのまんまのテキストだけがあって(笑)。「森さんは何をしようとしているんだ?」というところから始まって、いろいろとディスカッションしていきました。

最初の段階でいきなり大きな額の出資はなかなか難しいので、まずは共同創業者を見つけてみては、とアドバイスしました。森さんのプログラミング力は素晴らしいものだけど、会社としてやっていくとなるとものづくり以外にもやることが多いですから。で、その話をして次に会った時には、もう森さんの隣に小野さんがいたんですよね。

――そうなんですね。ところで、森さんはプログラミングのコンテストでアジア大会進出のご経験があるとか。

森:はい、ACM-ICPCっていうプログラミングコンテストでアジア大会に出場しました。でも、あの大会はやればできるというものなので…。

布田:いやいや、そんなことはないですよ!(笑)

――プログラマーとして輝かしい経歴をお持ちの森さんですが、やはりビジネスをするとなると、パートナーが必要ではないかとアドバイスされたのですね。そこで、「気づいたらもう横にいた」とご紹介がありました小野さんですが…。

小野:僕がMIRAISEのお二人とお会いする以前から、森さんとは定期的にコミュニケーションを取っていました。最初にアイデアを聞いた時はずば抜けて面白いと思ったし、やろうとしていることも壮大で…。だから、森さんには技術に専念してもらって、それ以外のことは僕が全部やるという形で、二人でやったら面白いんじゃないかな、と考えました。

MIRAISEのお二方に僕が初めてお会いした時は、実はその場に行くまで何があるのか知りませんでした。森さんから「この日に来てもらえますか?」と言われて行ってみたら、岩田さんと布田さんがいたという…。「あの、今日はどういうあれなんですか?」みたいな感じで(笑)そこからご縁が始まって、『On-Deck』にも進ませていただいて。

プロダクト・ビジネス両面からのサポートが、創業期の大きな力に

布田:森さんと小野さんの二人が揃い、それでは本格的に会社を設立してサービスを作り、伸ばしていこうということになりました。『On-Deck』は100日間のプログラムで、隔週でメンタリングを行っていきます。Manifoldがこの100日を終えて、MIRAISEと他の投資家の方々から追加で出資を受けたのが、昨年末か今年の初めくらいでしたよね。

『On-Deck』期間において、サービスは開発中で、ベータ版を作るフェーズでした。そもそもこのプロダクトにどういう価値があるのか、どんなUIがいいのか、何をしていけばいいのかなど、岩田さんも含めてずいぶん議論してきました。特定の分野に詳しい人やデザイナーを呼んだこともありましたね。

小野:ベータ版がある程度形になった段階で『4c』のメンバーの方々にも使っていただいて、いろんなフィードバックをいただけたのもよかったです。先輩起業家の意見というのは、僕らにとってはとても貴重なものでした。既に起業済みで0→1プロダクト開発の難しさを実際に体感されていて、かつ技術がわかる方々からご意見をいただけたというのはすごく大きくて。その点も『On-Deck』の素晴らしいところだなと感じています。

――『4c』は、MIRAISEが出資している起業家たちのオンラインコミュニティですね。そこでベータ版を披露して、いろいろとフィードバックをいただけたと。

森:あと、僕が嬉しかったのは、『On-Deck』で2週間に1回メンタリングがあるのですが、その時にピッチ資料も見ていただけたことです。僕はエンジニアなので、人への見せ方みたいなことはあまり意識したことがなくて…。改善点をいろいろと指摘していただいて、いいピッチ資料ができたことは本当によかったと思っています。

布田:『On−Deck』は、100日後に次の資金調達のために投資家を回るということが、ほぼ決まっている状態でスタートします。ですから、隔週のメンタリングの半分はプロダクトについて話していますが、もう半分はひたすらピッチをしてもらっています。「ここがちょっとわからない」「これじゃ伝わらない」などと指摘をして、次回までに直してもらって…という繰り返しですね。

――「ピッチ資料」というのは事業プラン、プレゼンテーションのことですね。『On-Deck』では、それも一緒に作ってくれたということなんですね。

森:ピッチ資料を作っていく中で、自分たちが本当にやりたいことは何か、強みは何かということについて見つめ直すこともできました。

小野:2週間ごとのメンタリングに向けて二人で準備していくことで、メンタリング日がマイルストーンになっていました。創業の時期に自分たちが実現したいことや解決したい課題を言語化し、どう世の中に届けるのか、について納得するまで考え抜くことができたのは良かったと思っています。

布田:競合や、他のサービスとの違いを見える化するためにマップにする時、そもそもの軸を何にするかということで盛り上がりましたね。『entren』は”検索しない検索サービス”で、Googleのような検索サイト的要素もあれば、Twitter的な要素もある。どういうポジショニングのプロダクトなのか?ということを、みんなでかなり考えました。

これからも「新しい出会い」を創出し、人々の世界を広げていきたい

――最後に、これから目指していることについてお聞かせいただけますか?

森:7月にWeb版『entren』を公開したので、これからユーザー層を増やしていけたらいいなと思っています。僕自身、新しいことを知るのが好きなので、そうした新しいことに出会う楽しさを伝え、どんどん広げていきたいと考えています。

小野:森さんが開発したセレンディピティのアルゴリズムは、現在はWeb上の最新記事からの情報収集をメイン使っているのですが、それ以外にもいろいろな領域で活用できると思っています。例えば、本屋さんに行った時に、目的の本ではないけど、偶然「これは!」という本に出会うことってありますよね。このように、本やレシピ、ネット配信番組など特定領域での偶発的な出会いにも、このアルゴリズムが活かせるのではないかと構想してます。

僕らがやりたいことは、新しいこと、知りたかったことに出会い、自分の世界や選択肢が広がっていくという体験を創出することです。これからも少しずつ、人々の世界を広げるべく、まずはプロダクト開発に努めていきたいと考えています。

Manifold株式会社
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Interviewee Profile:

Ryusuke Fuda

Venture Partner & CTO, MIRAISE