FRAME00株式会社 CEO 原 麻由美さん / CTO aggreさん

FRAME00 - イノベーターが挑戦し続けられる社会へ

2020年6月2日

MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」の配信をスタートしました。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー: FRAME00株式会社 CEO 原 麻由美 / CTO aggre(アグリ)
● MC: MIRAISE Partner 岩田 真一 /PR 蓑口 恵美


みんなにとって大切なもの、でも収益化はできていない――伝統文化の維持やクリエイター活動、そしてオープンソースソフトウェア(OSS)開発など、さまざまな現場が抱えている課題です。

そうした課題の解決に向けて、ブロックチェーンを活用したクリエイター向け収益化サービス「Dev」を運営しているのがFRAME00(フレームダブルオー)株式会社です。

価値ある活動を持続させるため、新たなテクノロジーを生み出そうと挑戦を続けるCEO原麻由美さん・CTO aggreさんが目指す未来について伺っていきます。

オープン時代の課題「サステナブルな収益化」の可能性を追求

(図:FRAME00提供資料より)

――さっそくですが、FRAME00が提供しているサービスについてお話しいただけますか?

原:私たちの会社は、クリプトカレンシー、いわゆる仮想通貨に関わるテクノロジーを開発しています。クリエイターの方々のいろいろな活動…例えばソフトウェア開発や、アート作品の制作、GitHubでプロジェクトに貢献するなど、そうした活動を収益化できる仕組みづくりですね。

岩田:FRAME00のようなスタートアップは、特に日本ではあまり見ないタイプですね。エンジニアのバックグラウンドを持たない方には、なかなかイメージしづらいかもしれません。

ブロックチェーンやビットコインという言葉に対しては、どちらかというと投機、FXみたいに一攫千金できるかも?というようなイメージを持つ人が多いと思います。そういう意味での日本のユーザーは実はすごく多いのですが、ほとんどの人は儲けようとしてやっているだけで、実はよく仕組みは分かっていない(笑)。

有名になったビットコインなどのベースになっているのが、昔からあるP2P(ピア・ツー・ピア)というテクノロジーと暗号を組み合わせた「ブロックチェーン」です。このブロックチェーン自体にはものすごい可能性があって、単にビットコインのような仮想通貨を作るためだけのテクノロジーではなくて、その広い概念上でいろいろなアイデアやプロジェクトが生まれてきているところなのです。

――なるほど。仮想通貨については、報道などで資産運用や投資の話題として聞かれることが多いですが、それだけでない大きな可能性があるということなんですね。

aggre:僕らのサポートする対象の中にオープンソースソフトウェア(OSS)と言われるものがありますが、これ以外にも、オープンなもの、無料のものが今はすごく増えてきています。クリエイターにとって、活動がどんどんオープンに、無料になってくることは新しいクリエーションを生む循環にも繋がっていくのですが、オープンなものは、基本的にそのものからは収益を得られない。課題はシンプルに「収益化」なんですね。

そこで僕たちが作ったのが、オープンなものがオープンなままで持続的に収益化できる仕組みです。ブロックチェーンを使った、支援すること自体が資産運用になるというものです。一方的にお金を支払って終わりではなく、支払った分が運用されて利息分が増え、手元にまた戻ってくるという仕組みを作ったんです。

岩田:クリエイターやオープンソース開発者一人ひとりが銀行みたいなもので、その人たちに預けるようなイメージですね。

原:私たちが携わっているのはディセントラライズド・ファイナンス、またはオープン・ファイナンスと言われる分野です。ブロックチェーン上では、ユーザーが仮想通貨をスマートコントラクト(契約の締結や履行がプログラムによって自動で実行される仕組み)に預けて運用ができる。FRAME00がお金を預かるのではなく、私たちが作っている「Devプロトコル」というテクノロジーが運用するということです。

「クリエーション」を評価する仕組みをつくる

――それでは、どんな方々がそうした新しいテクノロジーを使って、収益化の機会を得られているのでしょうか?

aggre:現在は、オープンソースの開発者たちが「Devプロトコル」に自分のOSSを資産として登録してくれています。約1,600件くらいでしょうか。彼らはOSSを無料で公開しつつも、「Devプロトコル」上に「Devトークン」として収益を発生させています。

今はOSSの収益化に対応していますが、この対象はユーザーが自由に拡張していくことができます。今はOSSがメインですが、例えば無料で公開したゲームとか、YouTubeとか、ポッドキャストみたいなものも、ユーザーが収益化の対象として広げていくことができる。

原:クリエイターの方が収益化できる一方、資産運用として誰でも参加できるようにもなっています。ユーザーとしては、クリエイターと、そのクリエイターが登録した「資産」に投資する人の2種類がいるということですね。

岩田:少しブロックチェーンの話を。仮想通貨の取引などの記録を収めた「ブロック」を作るには、「マイニング(採掘)」が必要なんですね。マイニングに成功するのはとても大変で、難しい計算を解くことに加えて、ものすごく当選確率が低いくじを当てなければならないようなものなんです。マイニングの成功報酬として仮想通貨がもらえるのですが、マイニングそのものがビジネスにもなっている。マイニングをする人が世界中にいるからこそ、プラットフォーム自体も維持されていく仕組みなんですね。

マイニングにはものすごい計算力のあるPCやCPUが必要なんですけど、僕が最初に「Devプロトコル」の話を聞いたとき、その計算力の部分を、クリエイターが生み出す価値に置き換えていけるのではないかと思いました。クリエイターや開発者がつくったものの価値が、マイニングパワー、つまりこれまでのCPUなんかの強さに代わるものになっていくという。その点が何らかの形で評価・測定できれば、おそらくどんなものにも対応できるんじゃないかと思います。

aggre:僕らはその仕組みを「プルーフ・オブ・クリエーション」と呼んでいます。先ほど岩田さんが説明してくださったのは、CPUパワーを証明してマイニングをするということ、つまり「プルーフ・オブ・パワー」ですね。僕らはCPUパワーにあたる部分を創造力に置き換えていこうとしています。

――創造力…確かにプルーフをつくるのは難しい分野ですね。

aggre:創造力そのものって、これまでは価値になっていなかったですよね。創造したものを例えば本にして売るとかすれば、そこから初めて収益になったんですけど、いろいろなものがオープンになってくると「売る」ことはできません。ですから、創造力そのものを評価する仕組みが必要なんじゃないかなと考えたのが始まりですね。

伝統建築を担う企業の苦悩が、創業のきっかけに

――ちょうど「始まり」についてお話しいただいたので、お二人の起業のきっかけもぜひお聞かせいただければ。

原:私たちの会社は役員が3人なんですけど、実はファミリーでやっていまして…私とaggreが夫婦という。

aggre:いつも言い方悩むんですけどね(笑)

原:ですから、起業のきっかけ=二人の出会いのきっかけ、みたいになるのですが…。初めてaggreと出会ったのは2011年でした。当時、私はソーシャルメディアマーケティングの会社を創業していて、aggreはARのスタートアップにいました。ちょうど同じベンチャーキャピタルから出資を受けていたご縁で、紹介していただいて。お互い、広い意味でのソーシャルやオープンなものに対する関心が強くて、すごく気が合ったんです。

それからもしばらくは別々に仕事をしていましたが、2014年にFRAME00設立のきっかけとなった出来事がありました。私がしていたソーシャルマーケティングの仕事で、伝統建築の会社さんから仕事の相談を受けたのです。

――伝統建築というと、お寺などでしょうか?

原:そうです。お寺や神社の建築を手がけたり、それらの内部の装飾品や芸術品を作ったり、仏像を作ったりしている会社です。後継者難の悩みを、ソーシャルマーケティングで解決できないかというご相談でした。それでいろいろ調べていく中で、ちょっと衝撃的な事実に行き当たって…。その会社は日本の名だたるお寺や神社建築を手がけていて、国宝を修復したりもしています。でも、そんな会社の年商が、とあるソーシャルゲームの会社の月商と一緒だったんです。

――え…!12分の1っていうことですよね。

原:人気ソーシャルゲームの会社が1か月で稼ぐお金を、全国に数千人の伝統職人を抱える会社は1年かけてやっと稼ぐ。すごいインパクトでした。国宝には少ししかお金が集まらないのに、ゲームにはザクザクとお金が入ってくる。それはいいんだろうか…?と、自分の中の問題提起になって。

これは1社のマーケティング努力で解決できる問題を遥かに超えています。そもそもこうした不均衡が起きていること自体が問題だと思ったのです。そこで共同創業した会社を抜けて、マーケットの不均衡を正せるようなスタートアップを作ろうと、FRAME00を設立しました。

――そうした不均衡がもたらす問題に悩みながら、私たちの国宝を守ってくださっている方々がいらっしゃるのですね…。

原:今まで経済的に評価されていなかったものをきちんと評価されるようにしたいというアプローチは、お金にならなかったものをお金にするという矛盾でもあり、すごく難しくて。最初はずっとひとりでFRAME00をやっていたんですけど、なかなかうまくいきませんでした。でも2017年に、aggreがジョインしてくれまして。そこから本格的に、ちゃんとソリューションを作って解決していこうという方向性を定めました。2017年2月からそれを始めて、いろいろと軌道修正を繰り返して、ようやく2018年夏に「Dev」のモデルに行き着いたんです。

――伝統建築が、ブロックチェーンのような最新のテクノロジーに結びつくとは…。

aggre:これらの間には、なんだかすごく距離があるように感じるかもしれません。でも僕は、OSSと伝統建築・伝統文化のようなものが抱える課題はすごく似ていると思ったのです。伝統文化の価値は、今までの資本主義的な評価軸では評価しきれなかった。OSSは、技術的な価値は大きいのだけれど、同じように経済的な評価はなされてこなかったんですね。すごく対照的なもののようで、実は課題は同じなのかなと。

2年間くらい、この課題を解決できるソリューションをずっと模索しながら作っていました。何度もピボットしましたし、侃々諤々の議論もあって、最終的にエッセンシャルなものが残って「Devプロトコル」になったという感覚があります。

――なるほど。みんなにとって大切なものを、どうサステナブルにしていくか…携わる人をどうやって支えていくか。すごく難しいことなのかなと思いましたが、本質はシンプルなのですね。

岩田:"Technology as Enabler"(enabler=目標達成を可能にする手段、方法)という考え方が、僕はとても大切だと思っています。まず持っている技術ありきではなくて、そこから一度離れて、ある社会課題を解決するために自分に何ができるか、使えるテクノロジーは何かを考えるというアプローチが大事。FRAME00がよく挙げるキーワードに「持続可能」がありますが、SDGsへの注目などもあり、グローバルでもサステナブルかどうかを重視する流れになっている。

例えば、みんなが気に入っているお店があって、でも実は経済的にうまくいっていなくて結局閉店してしまった…なんていうこと、ありますよね。みんな残念がるんだけど、サポートする術がなくて、ただ指を咥えて見ているしかないっていう。伝統建築なんてまさにそうで、日本人はみんな残っていてほしいと思っているものですよね。でも、じゃあ誰がお金を出すのか、それに携わる人々が食べていけるように何ができるかというと、答えがなかった。FRAME00が取り組んでいるのはそこだと思います。

コロナを経て、持続可能な経済モデルを拡大していく

原:このコロナの影響で、目指す世界にすごく近づいたなと思うことがあって。今まさに、エッセンシャルワーカーの存在が注目されていますよね。

――そうですね。彼らがいないと生きていけないということに、今さらながら気づかされたと。

原:例えば、医療従事者の方々はコロナ患者のためにすごく頑張っていただいていますよね。一方、感染者を受け入れるほど病院の経営状態が悪化するというニュースを見て、それで経営を気にして感染者の受け入れ拒否をする病院が増えてしまうのは、大きな社会課題だなと。こうした医療従事者など、エッセンシャルワーカーの方々の活動も、私たちが収益化して、持続可能なものにしていきたいなと思っています。

岩田:本来は、エッセンシャルワーカーを守るのは公共サービスが担っていた部分だったと思うんですよね。でも、今はもう行政がカバーしきれなくなっている。

――今まさに社会の変化に伴って、さまざまなところで「持続可能」「収益化」のニーズが生まれてきているというお話を伺ってきました。最後に、FRAME00さんが今後目指していく未来についてお聞かせいただけますか。

aggre:まず、今年1月に「Devプロトコル」正式版をリリースしていて、クリプト系・金融系の企業さんから高い評価をいただくことができました。プロトコルはそのものだと使えないのですが、今はこのプロトコルを実装した新しいアプリケーションの公開目前まできています。海外のユーザーからも、日々熱心な質問をいただいています。

これまで僕らは、収益化の対象とする人々を「クリエイター」と呼んでいたのですが、今は、ものを作ったり、誰かの手助けをしているような人々を総称して「イノベーター」と呼んでいます。こうしたイノベーターがチャレンジを続けることができる社会にしていきたい。やりたいことをお金を理由に我慢している人をなるべく少なくしていくために、作ったものがお金になるというような、持続可能な経済モデルを「Devプロトコル」をベースに構築していくのが目標です。

――夢を追いたいけれど、まず生活していくことを優先しなければいけない…という方々には、大きな希望になるテクノロジーであり、存在ですね。本日はありがとうございました!

◆FRAME00株式会社 https://corp.frame00.com/
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Interviewee Profile:

Shin Iwata

CEO & Partner, MIRAISE