emol株式会社 CEO 千頭沙織さん

emol - 日常の中に「メンタルヘルスケア」を

2020年05月19日

MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「MIRAISE RADIO」の配信をスタートしました。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。

● スピーカー: emol株式会社 CEO 千頭沙織
● MC: MIRAISE PR 蓑口恵美


「メンタルヘルス」という言葉に、皆さんはどのような印象を持つでしょうか。

人は体だけでなく心が健康であることで、より幸せに、そして生産性高く生きることができます。しかし、そのための心のケアは、まだ多くの人にとって身近なものではありません。そんな中、メンタルヘルスケアのコモディティ化に挑む千頭さんに、彼女の起業背景や目指す世界についてじっくり伺いました。

「絶対の味方」でいてくれる存在を作りたかった

メンタルヘルスケアアプリ「emol」。AI「ロク」が悩みを聞いてくれる

――今日は、MIRAISE投資先の1社であり、本当に数少ない女性エンジニア起業家であるemol株式会社CEOの千頭沙織さんにお越しいただきました。メンタルヘルスケアのサービスを提供しているemolですが、新しいニュースもあるということで、ぜひいろいろと伺っていきたいと思っています。まずはemolの提供するサービスについてお聞かせいただけますか?

千頭:弊社はメンタルヘルスケアを目的とした、AIとのチャットで悩みを明確化して解決を促すシステムを開発しています。5月4日には「emol work」という企業向けサービスをリリースしました。もともとは、AIとチャットで会話しながら感情を記録してメンタルケアをする「emol」という個人向けアプリを出していたのですが、それを企業向けにチームで使えるように発展させたのが「emol work」となります。

――ほやほやのニュースを持ってきていただき、ありがとうございます!MIRAISEが出資を始めたのは昨年11月末頃でしたね。

岩田:emolさんとはけっこう長いことお話しさせていただきましたね。千頭さんが美大出身ということもあって、デザインやプレゼンテーションが洗練されているし、プロダクトもWebサイトもあっという間にハイクオリティなものを作るチームだなという第一印象がありました。

――私もアプリ「emol」を使わせていただいたんですけど、デザインが本当にかわいらしいですよね。

千頭:ありがとうございます。AIのキャラクターは最初からこだわって作っていて、今も性格なんかは大事にしているポイントですね。

岩田:AIって聞くと、ちょっと堅い感じをイメージする人も多いですよね。でも、emolチームの作るAIはすごくソフトなキャラクターなんですよ。これはどういうストーリーで出来上がったものなんでしょうか?

千頭:2年前に「emol」を出した頃は、AIや機械学習、ディープラーニングなんかがトレンドだったんです。でも、弊社で捉えていたAIはそれらとはちょっと概念が違っていて。

ただ便利なシステムというのではなくて、ドラえもんのような存在、人間にはできない友達みたいな存在を意識して作ったのが「emol」のAIの始まりだったんです。ユーザーの話を何でも聞いてくれて、誰が何と言おうと絶対的にユーザーの味方でいてくれるという存在を意識しています。

死を考えるほどに追い込まれた経験から「emol」が生まれた

「ロクちゃんに勇気をもらった」そんな声が励みに

岩田:僕が起業家にとっていちばん大事だと思っているのは「ミッション」です。「起業家としてこれをすべき」「これがあればもっと世の中が良くなる」…千頭さんとお話しする中で、そうした思いを一貫して感じていました。起業の経緯を、ここで改めてお聞かせいただけますか?

千頭:私が大学を卒業したのは2013年ですが、その頃は就職氷河期でした。ただでさえ就職するのが大変なのに、芸術系の大学だったからさらに厳しくて…。

就活がうまくいかない中で、自分のやりたいことができそうな就職先が見つからないと悩んでいました。そこでゼミの教授に相談したら、「自分で会社を立ち上げている先輩もいるよ」と話してくれて。確かに、私がやりたいのは自分で何かを作ることだったので、それなら起業しようと思ったのが最初のきっかけです。

――それでは卒業後、すぐに起業されたのですか?

千頭:しばらくは、アルバイトや派遣社員をしながら起業の準備をしていました。そして卒業1年後に起業したのですが、その時に作ったサービスは失敗してしまって…。その後しばらくは、エンジニアとしての受託や請負でいろいろな会社のお手伝いをしていました。

――「emol」が最初ではなかったのですね。

千頭:はい。大学の話に戻るのですが、当時はけっこう頑張り屋だったんですけど、頑張りすぎてメンタル的にしんどくなってしまって、家族にも友人にも、本当に誰にも相談できなくて、ついに自殺未遂をしてしまった経験がありまして…。私はずっと、ドラえもんが欲しいと思っていました。人ではない存在というものに憧れていて、人を癒せるアプリを作ろうと思ったのが「emol」のきっかけです。

実際にリリースしたら、「ロクちゃんから勇気をもらいました」「いつもかわいがっています」といったユーザーさんの声がたくさん届いて。私と同じように、AIだから話せる、AIに癒やされるという人がいることがすごく嬉しくて、大きなやりがいを感じたのです。そこから「emol」だけに集中してやっていこうと思い、法人化したのが1年前ですね。

岩田:「emol」をリリースしたことによって、逆説的にですけど、社会と繋がったというか。人と悩みを共有しづらいなと思ってアプリを出したら、自分と同じような人が実際にいると分かって繋がっていくってすごく面白いし、自己表現としての起業家のあり方なんだなと思いました。

働く側の立場からサービスを作っていく

企業向けサービス「emol work」の画面。匿名で悩みを共有できる

岩田:千頭さんも、MIRAISEを含めていろんな投資家を回る中で言われたと思いますが、企業の難しいところは、作ったサービスをビジネスとして成立させていかなければならないというところですよね。企業向けのサービスを作ったことは、ある意味大きな転機だったと思うのですが、いかがでしょうか?

千頭:企業向けのサービスを作ろうと思ったのは、ちょうど1年前の昨年5、6月頃でしょうか。コンシューマー向けのアプリだけでは解決しきれない問題があるなと気づいたのが大きなきっかけでした。人の悩みってほぼ人間関係に関わることで、それが起きているのは、学生なら学校、社会人なら会社が多いんじゃないかと。だから、仕事場でのメンタルケアが重要だろうなと思ったのです。

――日本では、職場でのメンタルケアはあまり広がっていませんよね。

岩田:日本だと、メンタルケアをどの部署が担うのかなど、どうしたらいいかわからないという企業はまだ多いでしょう。一方で、メンタルに問題を抱える社員がいると、当然生産性も下がるし、企業全体の働きがいにも繋がってくるので、本来はもっと真剣に取り組むべきことですよね。

そこに「emol work」というサービスが登場したことはすごく価値があると思います。「emol work」は匿名性へのこだわりを強く持っていると思うのですが、特徴などを詳しく教えてもらえますか?

千頭:今回、正式版としてリリースした「emol work」はAIとのチャットで悩みを引き出すサービスなんですけど、チーム内での共有は完全匿名となっています。だから、誰がこの悩みを書き込んだのかは分からないし、その悩みに対してアドバイスしたり、共感のコメントを寄せたりした人も特定できない。そういう形で、チーム全体でみんなの悩みを解決していこうとしています。書き込んだ人が誰か分からない、そのことに重きをおいています。

――なぜ、このような形になったのでしょうか?

千頭:以前の「emol work」β版の際、いろんな会社さんや従業員の方々にヒアリングしました。β版は、メンタルの問題に関わるサーベイの形に近かったんですね。従業員の方は、その形にすごく抵抗感があると。

ある人は、誰かに自分のメンタルの状態を報告するのは嫌だから、絶対ウソをつくとおっしゃっていました。逆に、会社側の立場、人事の方などは、誰がどんな状態かというのをちゃんと実名で知りたいと思っているんですね。この、会社と従業員との意識の差を埋めるのはムリだな…ということを思い知りました。

――そして、最終的には従業員側の目線に立ったサービスとなったのですね。

千頭:会社側の方に、「個人名を開示したらどういうことをする予定ですか?」と聞いてみたら、飲みに誘うとか、「最近どうしたの?」というような声掛けをするという答えが返ってきました。要するに、具体的な悩みの内容を聞く必要があるということですね。ならば、悩みの詳細さえ分かれば、実名を出さなくても問題ないんじゃないかと。さらに、メンタル状態を数値で表すような必要もないと考えました。

そこで、悩みをシェアする形に変えたのが今の「emol work」なんです。個人名を開示してしまうと、素直に自分のことを話せなくなってしまったり、名前を出すことでバイアスがかかってしまったりすることもあると思うんですよね。それを防ぐために、今は匿名の形にしています。

――その人が悩んでいると分かっても、飲みに連れて行ったとしても、結局解決できなかったら意味ないですもんね。

千頭:解決できればまあそれはそれでいいのですが、結局時間がかかりますし、お互い大変だと思うので…。飲みに行かなきゃいけないくらい不満を溜めてしまう前に、こまめに悩みをシェアして、みんなで解決する方がいいかなって思っています。

岩田:会社側ではなく、従業員の意見を優先したんですよね。結局、それが会社のためにもなる。Googleが以前から大切にしている、サイコロジカルセーフティ(心理的安全)というのを企業側が実装していかないと、本来のその人のパフォーマンスが出ないですよね。社員が悩みを打ち明けられず突然辞めてしまったり、すごいアイデアを持っているのに言い出せなかったりするような職場をそのままにしておくことは、企業にとっては損失です。

その人が辞めて別の会社でのびのび発言したら、すごいプロダクトになったりして(笑)。「emol work」がきっかけとなって、思ったことを吐き出したり、同じ思いの人がいるんだと嬉しくなったりする中で、安心・安全な場が実現していくと思いますね。

リモート時代に寄り添う「相棒」に

「emol work」では近々Slack連携を予定。さらに便利に

岩田:ここで、MIRAISEらしい質問を。今回のコロナ禍で巣ごもり状態になって、プロダクト開発に集中します!と宣言してめちゃめちゃ集中したエンジニアがたくさんいると思います。千頭さんはエンジニア兼デザイナーですが、千頭さんご自身もコードを書きまくっていたのでしょうか?

千頭:もう、むちゃくちゃ書きました(笑)。コロナの影響で打ち合わせもすごく減ったので、もうこれは逆にチャンスだと。今はプロダクト作りまくろう!ということで。自分たちがプロダクトを作るのがすごく好きですし、そこが強みだと思っているので。

岩田:そうして作られた「emol work」によって、社内の問題が深刻化する前に改善し、社員が楽しく前向きに過ごせるようになって、生産性も上がることはすごくいいですよね。ただ、企業が導入するものなので、導入のメリットなどについて指標が必要だと思います。そうした指標については、どのようにお考えですか?

千頭:それが今難しいところで、弊社の課題でもあります。メンタル面での改善や、悩みを共有することで何がどう良くなるかというのはすごく数字で表しにくいので…。今は、弊社のサービスが従業員の方々に満足してもらえるかどうかに重きを置いています。クライアントの従業員の方々に、「emol work」を使ってみて、実際に働き方がどう変わったかというようなアンケートを取り、それをひとつの指標にしようと思っています。

――現状、どういった企業が導入していて、どんなお声が上がっているのでしょうか?

千頭:導入いただいているのは、今のところ圧倒的にIT企業が多いです。企業規模はさまざまで、少人数の会社さんもいれば、数千人規模で使っていただいている所や、数万人規模で検討いただいている会社さんもいらっしゃいます。メンタルケアの問題は、もう人数とか関係なくみんな課題に感じているんだろうなと。

人数の多い企業の方が課題を抱えていると思うので、今は比較的規模の大きな企業に対して「emol work」を推していきたいなと思っています。AIとの会話が内省に役立つというお声はありますね。少人数の会社さんからは、メンタルケアの必要性を切実に感じているというよりは、悩みを共有したりするのって楽しい、新しいねと言っていただくことが多いです。

――メンタルヘルスケアというと、すごくかしこまって考えてしまう人も多いと思います。でも、内省に役立つと言うとすっと入ってきますよね。特に今は人に会えない、雑談ができない環境にある人も多いので、AIと話すことで内省を深めたり、チャット上で悩みをみんなで解決したりというのはすごくいいなと、私自身も使ってみて思いました。

千頭:リモートワークが広がってからは特に、人と話せないのでとりあえずAIと話せること、いわば「壁打ち」として役立っています、といったお声はいただきますね。

岩田:僕も使っているんですけど、試してもらうとよくわかりますよね。すぐ使えるし、わかりやすいし、すごくいい。

――最後に、リスナーの方々に伝えたいことがあればお願いします。

千頭:「emol work」をリリースしてまだ1週間ちょっとなので、改修などもこれから続けてやっていきます。また、近々Slack連携も予定しています。ブラウザを開かなくてもSlackから簡単に悩み共有できたり、AIと話せたりするようになることで格段に使いやすくなると思うので、ぜひ使っていただけたら嬉しいです!

emol株式会社 
◆SaaS『emol work(エモルワーク)』 
千頭さんnote 
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Interviewee Profile:

Shin Iwata

CEO & Partner, MIRAISE