<p>MIRAISE Storyでは気鋭のプログラマー起業家たちとの対談を連載していきます。</p><p>第1回目のゲストは、株式会社Increments代表取締役(※)の海野弘成さん。同社が運営する『Qiita』は、プログラミングに特化した情報共有コミュニティとして、日本中のプログラマーから高く支持されています。MIRAISEメンターでもある海野さんに、起業に至る道のりや、プログラマー起業の意義についてお話を伺いました。</p><p><em>(※ 海野さんは2019年12月27日付けでincrements社の代表取締役を退任され、現在はアドバイザーとして同社を支援されています。本インタビューは2019年9月18日に行われたものです)</em></p><h2><strong>経営者として、そして投資家としてバトンをつないでいく</strong></h2><p><strong>岩田:</strong>Incrementsの運営するQiitaはちょうど8周年を迎えたところだそうですね。おめでとうございます。</p><p><strong>海野:</strong>ありがとうございます。7年前に3人で設立したIncrementsは、今では社員約15人となりました。運営するQiitaは、訪問者数700万人を超えています。エンジニアが自分の学びやプログラミングのノウハウを共有できる場があれば、と思って開発したQiitaですが、ここまでプログラマーに広く浸透してくれて、本当にうれしく思っています。</p><p><strong>岩田:</strong>おそらく、日本のプログラマーは100%使っているんじゃないかと。デファクトスタンダードですよね、すごいことです。ところで、一昨年に株式会社エイチームの傘下となりましたが、何か変化はありましたか?</p><p><strong>海野:</strong>人の交流があったり、何かと相談に乗ってもらたりという点では心強いですね。事業により集中できる環境になりました。</p><p><strong>岩田:海野さんは、</strong>経営者として第一線で活躍する一方で、投資家としての活動もしていらっしゃいますね。MIRAISEにもメンターとしてご協力頂いていますが、エンジェル投資家となった理由を聞かせていただけますか?</p><p><strong>海野:</strong>私たちも、スタートアップ期に当時<a href="https://onlab.jp/"><u>Open Network Lab</u></a>の前田ヒロさん(現BEENEXTのManaging Partner)や、heyの佐藤裕介さんなどから支援を受けました。そこでさまざまなことを教えてもらったり、人をつないでもらったりなどのサポートが本当に役立ったんですね。こうした支援がなかったら、スタートアップを乗り切れなかったんじゃないかと思っています。ですから自分も、これから事業を立ち上げるエンジニアたちを応援していきたい。資金面ももちろんですが、サービスづくりや経営の経験も伝えていければと。支援先は、自分がその起業家や事業にいかに貢献できるかという観点で選んでいます。興味を持てるか、面白いと感じるかということも大切ですね。現在は3社に出資しています。</p><p><strong>岩田:</strong>自分がしてもらったことを次の人にも渡していこう、という気持ちはとても素晴らしいです。「pass the baton」ですね!スタートアップのエコシステムは、そうして回っていくものと思っています。以前僕のメンターが「自分が持っているものを人にすべて渡してしまうことで自分を空っぽにする。そのことで自分もまた初心に還って頑張ろうと思える」と言っていて、僕も実践するようにしています。</p><p><strong>海野:</strong>自分の経験から得た学びやノウハウを伝える側としても、大いに刺激がありますよね。スタートアップの起業家たちは、すごく楽しそうに、そしてものすごく必死になってやっている。そんな姿を見ると、自分もそうした必死さを忘れてはいけないと思いを新たにします。</p><p></p><h2><strong>中学時代に出合ったあのベストセラーが、起業への道を示した</strong></h2><p></p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2020/03/27/19/34/45/71831fc7-7f96-400f-a5c0-90e602f623e0/dsc00107-sm.jpg" link_href="" link_target=""></div><p></p><p><strong>岩田:</strong>日本では理系と文系の分断が深くて、理系はひたすらものづくり、ビジネスは文系がするんでしょ、という考え方が今でも根深いと感じます。そんな中で、どうして海野さんは起業という道を選んだのでしょうか?</p><p><strong>海野:</strong>最初のきっかけは、中学1、2年頃に読んだ『金持ち父さん 貧乏父さん』(ロバート・キヨサキ著)でした。当時、よく行っていた古本屋にたくさん並んでいたんですよね(笑)僕はごく一般的なサラリーマン家庭で育ったので、会社に入って給料もらって、という生き方が当たり前だと思っていたのですが、この本を読んで「会社を作る」っていう道があるんだと初めて知りました。大学を選ぶときは、コンピュータサイエンスか経営学かどちらかにしようと思っていました。結果として、コンピュータサイエンスを選んだわけですが。</p><p><strong>岩田:</strong>文系の学問は本などで自力で学ぶこともできますが、理系は実験設備が必要だったり、高速の計算機が必要だったりして独学は難しいですよね。そういう意味では、文系分野と理系分野とで進路を迷ったら、理系を選ぶ方が自然な気がします。その後大学に進んでからも、ずっと起業を志していたのですか?</p><p><strong>海野:</strong>すごく強い思いを持っていたわけではなかったのですが、大学時代に2つの転機がありました。ひとつは、「JTPAシリコンバレー・カンファレンス2008」というイベントで当地を訪問したことです。シリコンバレーで働いている日本人たちの話を聞いたり、スタートアップ企業をツアーで回ったりしました。Dropboxのオフィスにも行ったんですけど、本当に小さなオフィスに十数人しかいなくて、ゲーム部屋とかドラムセットとかがあって(笑)当時、Dropboxのユーザーはすでに数百万人規模でしたが、たった十数人がそんな大きなサービスを手掛けているということに衝撃を受けました。それで、ベンチャーというものにより興味を持つようになったのです。もうひとつの転機は、ビジネスコンテストへの参加でした。そこで、のちに共に起業することになる2人の仲間と出会ったのです。</p><p><strong>岩田:</strong>その話からすると、海野さんのIncrementsのメンバーが15人と聞いたら、びっくりする学生も多いかも知れませんね。日本のエンジニアを網羅するようなサービスを、こんな少人数で!と。そんなインパクトも、学生が起業を目指すきっかけになりそうですね。僕の場合は、起業の最初って子どもの頃の基地づくりに似ていると思ってました。分からないこと知らないこともたくさんあるし、失敗する可能性もあるけど、自分たちで何かを始めることに本当にワクワクするんですよね。</p><h2><strong>作る喜び」から「使ってもらう」喜びへ</strong></h2><p></p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2020/03/27/19/29/14/5f5fa4a8-b0a3-4c84-87e2-6a74bfb8706f/20190918_miraise_umino00087.jpg" link_href="" link_target=""></div><p></p><p><strong>岩田:</strong>現在では、起業ゼミがある大学も多いようですね。一つ余談というか、大学で起業ゼミを実際に展開していた知人に聞いた残念な話を聞いたことがあります。その起業ゼミは評判を集め人気になって喜んでいたときに、そのゼミを選んだ理由を学生に聞いてみたところ「起業ゼミに入ると就職に有利らしいから」と。やる気無くなると言っていました(笑)スタートアップ企業でインターンをする学生も増えているんですけど、やっぱり理由は「インターンすると大企業への就職に有利だから」。楽しそうにインターンをしているように見えるのですが、自分が実際に働くとなったら大手企業を求めてしまうようです。</p><p><strong>海野:</strong>でも、エンジニアは「新卒チケット」を使わなくても何とか仕事はやっていけますよね。食いっぱぐれることがないというセーフティラインが機能する。僕が起業に踏み切れたのも、最悪、失敗してもなんとかなるなと思っていたのが大きいです。</p><p><strong>岩田:</strong>エンジニア起業のメリットも一つですね。起業という点において、実はエンジニアは最もリスクが低い人種だと思います。腕一本で食べていけますから。ましてや今は人材不足でみんなエンジニアを欲しがっているので、たとえ起業に失敗したとしても、就職でも受託でもどうとでもやっていける。</p><p><strong>海野:</strong>あとは、起業すると無理矢理にでもビジネスやお金について学んでいくことになります。マーケティングや営業活動など、ビジネスの全領域が必然的に身についていく。当たり前なんですけど、いいコードを書いたら、いいサービスを作ったらその分もらえるお金が増えるわけじゃない。生み出した価値がどうお金になっていくのかを必死で考えて、トライアンドエラーを繰り返して感覚を掴んでいきました。プログラマーは「ものを作る」のではなく、「価値を生み出す」「課題を解決する」存在だと、マインドが変わりましたね。</p><p><strong>岩田:</strong>作る喜びから、使ってもらえる喜びへの変化ですね。起業は最高のビジネススクールと言えるのかもしれません。</p><h2><strong>起業において「ものが作れる」は最大の強み</strong></h2><p></p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2020/03/27/19/30/59/9f343d1c-a5d4-4102-b322-f18f5db2c016/dsc00074.jpg" link_href="" link_target=""></div><p></p><p><strong>岩田:</strong>海野さんが感じる、エンジニア起業家のメリットはその他にもありますか?</p><p><strong>海野:</strong>IT領域で、エンジニアリングがまったくわからずに社長をするってすごく怖いことだと思います。例えば、あるサービスを作るのにどれくらい時間がかかるのか、1か月なのか1年なのか、そういった感覚がわからないと、意思決定はとても難しくなってしまう。施策を出して、戻ってきたら何か違うってなって、また戻して…と時間もかかる。でも、エンジニア起業家にとってはそうした判断は難しくない。僕も、ちょっとした施策なら自分でコード書きますし。身についた肌感覚があるというのは大きなメリットだと思います。</p><p><strong>岩田:</strong>日本の経営で危険だなと思うのは、経営とテクノロジーを分離して考えていることだと思います。今はもう、テクノロジーは経営そのものなんです。ある社会課題を解決するためのプロダクトの作り方はたくさんあるのですが、技術的なバックグラウンドがないと、ソリューションの選択肢が限られてしまうんですよね。海野さんの言う、ちょっとしたものが作れちゃうというのは、これからの起業にとって大きな強みになると思います。人を雇ったり、外注したりする必要がないんですよね。プログラマーはコード書くことが好きですから(笑)、趣味も兼ねていろいろ作って公開してみて、ちょっと手応えがあれば起業する、そんなやり方もできますよね。</p><p><strong>海野:</strong>企画から実装まで、ひとりで完結できてしまいますからね。個人プロジェクトとしてスタートできる。僕も大学在学中にサービスを作り始めて、卒業後すぐに公開しています。反応がよかったので、半年後に法人登記をしました。ダメなら、その時点で就職でも受託でも考えればいいわけですから。</p><p><strong>岩田:</strong>ものを作れるということは、起業において非常に有利ですね。自分でどんどん試していけますから。そして、作っている間にスキルもどんどん上がっていく。起業は、エンジニアにとって良い選択肢なのではないかと思います。</p><p><strong>海野:</strong>起業はすべて自分次第ですよね。すべてが結果責任だから、シンプルでいいなと感じています。</p><p><strong>岩田:</strong>人は弱いから、すぐ人のせいにしたがる。でも起業なら、それをせずに済むんです。何か失敗しても「俺のバカ!」で終わり。人のせいにして自己嫌悪に陥る必要がない、そのことだけでもQOLが向上すると個人的には思っています。</p><h2><strong>もっともっと、社会に「変化」を起こしていきたい</strong></h2><p></p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2020/03/27/19/31/23/237653b5-a86c-48f9-ae98-32740ce7ceca/20190918_miraise_umino00114.jpg" link_href="" link_target=""></div><p></p><p><strong>岩田:</strong>エンジニア起業家としての、海野さんの今後の展望を教えていただけますか?</p><p><strong>海野:</strong>今後も、新しいサービスを作り続けていきたいと思っています。「自分がやった」世界と、「自分がやらなかった」世界との差分を大きくしていきたいという思いを、指針として常に持っています。パラレルワールド、アナザーワールドのような考え方ですね。アニメ『STEINS;GATE』の「世界線」と言ったら、わかる人もいるでしょうか(笑)例えば、僕たちがQiitaを思いついて世に出して今の世界があるわけですが、もしQiitaがこの世になかったらどうなっていたかなと。そのように、自分がやらなければ起きなかった変化を、ものづくりを通して実現していくというのがすごく楽しいので、それをやり続けたい。</p><p><strong>岩田:</strong>起業も就職も、それぞれ大変なことがあります。同じ大変なら、自分でコントロールできる方がいいと僕は思っていました。誰にでも起業を焚きつけるつもりはありませんが、起業という選択肢があることを多くの人が知ってほしいと思います。</p><p>海野さんのお話を伺って、ますますその思いを強くしました。本日はありがとうございました。</p>
<p>「MIRAISE(ミレイズ)」代表の岩田真一と気鋭のメンター・起業家たちとの対談シリーズ第2回目のゲストは、株式会社Takramディレクター/ビジネスデザイナーの佐々木康裕さんです。あらゆる領域のデザインを手がけるデザイン・イノベーション・ファームであるTakramで、佐々木さんはクリエイティブ戦略や事業コンセプト立案など、さまざまなコンサルティングプロジェクトに携わってきました。</p><p>MIRAISEメンターでもある佐々木さんに、佐々木さんの考えるデザインについて、これからのエンジニア起業家に欠かせないデザイン思考についてお話を伺いました。</p><h2><strong>商社から米国のデザインスクールへ</strong></h2><p><strong>岩田:</strong>佐々木さんとは知り合ってから長いのですが、お会いするのは久しぶりですね。ビジネスデザイナーとしてメディアなどさまざまにご活躍ですが、今日はこれまでの道のりや、MIRAISEメンターをお引き受けいただいた理由、また、エンジニア起業家に関心を持った経緯などについて、お話をきかせていただけたらと思っています。<br>佐々木さんのキャリアのスタートは、商社の伊藤忠でしたよね?</p><p><strong>佐々木:</strong>14年前の2005年、新卒で伊藤忠に入社しました。8年間在籍しましたが、最後の2年間は経産省に出向していたので実質6年間ですね。岩田さんに初めてお会いしたのは、入社2、3年目の2006年か2007年のことだと思います。まだまだ鼻たれ小僧のときですね(笑)先輩と2人でSkypeとのプロジェクトを担当することになって、当時スカイプ・ジャパンの代表だった岩田さんとはかなりの頻度でお会いしていました。</p><p><strong>岩田:</strong>その、プロジェクトマネージャーだった佐々木さんの先輩はかなり行動力がある方で、メールや電話は毎日来るし(笑)、週1、2回はミーティングしていましたね。</p><p><strong>佐々木:</strong>これまでのキャリアで数え切れないほどのプロジェクトをやってきたけれど、その中でも、岩田さんとのプロジェクトの濃度、密度は図抜けていました。だから、岩田さんとの関係というのは僕にとって特別で。留学の際は推薦状も書いていただいたほどです。<br>そして2013年に8年間勤めた伊藤忠を辞め、イリノイ工科大学のデザインスクールに留学しました。修士課程を修了して2014年に帰国、その後Takramに入り、クライアントの新規事業立ち上げをお手伝いするコンサルティングを手がけて5年ほどになります。</p><p><strong>岩田:</strong>大学での専攻は政治経済で、その後は商社ですよね。そこからなぜ、デザインを学ぼうと思ったのでしょうか?</p><p><strong>佐々木:</strong>政治学という学問は、世の中で起きていることをひとつの現象として捉えるのではなく、仕組みとして捉えます。世の中を変えようと思ったとき、ボトムアップ的に考えるのではなく、仕組みを作り変えるというアプローチをとる学問なんです。商社に入ったのも、ビジネスモデルや仕組みづくりに関わりたいと思っていたからでした。</p><p>デザインには大きく2つの意味があります。ひとつはクラフト、いわゆる絵がうまいとかきれいな物が作れるとかそういうことですが、もうひとつは計画する、構想するという意味なんですね。僕が学んだデザインスクールは、後者のデザインを探求する学校でした。ですから、大学、商社、デザインスクールと、実はやっていることはずっと変わらないんです。</p><p><strong>岩田:</strong>なるほど。グランドデザインなど、そういった意味のデザインですね。</p><p><strong>佐々木:</strong>デザイン思考、システムデザインなどとも言いますね。僕が学んだのは、新しいものを創造するためのプロセスやフレームワーク、マインドセットといったアプローチでした。政治学を学び、伊藤忠で新規事業などを手がけてきたのですが、誰もそれを科学的にやっていなくて。ゼロからイチをつくるサイエンス、それを学びたかったのです。だから、僕は自分が学んだデザインスクールを「ゼロイチ担当者養成学校」と呼んでます(笑)</p><p><strong>岩田:</strong>日本ではあまり聞かないタイプの学校ですよね。</p><p><strong>佐々木:</strong>そうですね。イリノイ工科大学のデザインスクールは、講師の7割くらいがデザインファームのファウンダーや役員です。だから極めて実利的で、論文はゼロ。単位取得の可否は、授業の最後の1コマで課されたプレゼンが刺さるかどうか、以上!という(笑)なぜなら、実務家を育てているからですね。ビジネスの場では、どれだけ説得力があるプレゼンができるかが勝負なので。</p><p>最近では国内でも、東大や京大、九大、ムサビなどでも、拡張されたデザインを体系だって教える学校は少しずつ増えているようです。それはいいことですよね。</p><h2><strong>デザイナーから見たエンジニアとは?</strong></h2><p></p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2020/03/27/19/45/39/4c7e7e76-6b47-45eb-999a-61dc911048d8/-----_02.jpg" link_href="" link_target=""></div><p></p><p><strong>岩田:</strong>留学先では、エンジニアとの関わりはあったのですか?</p><p><strong>佐々木:</strong>実は、初めてエンジニアと一緒にプロジェクトをやったのが留学先でした。まさに机を並べて。バックグラウンドが多様なチームで、どのようにそのチームをマネージし、どういう価値を作っていくかということを学びました。僕がビジネス、あとデザイナー、そしてエンジニア、このチームで授業をすることが多かったですね。構想する僕、絵が描けるデザイナー、そして実装できるエンジニアというのが絶対に必要で。この3ピースが揃わないと物事が進まないなということを、そこで体感しました。</p><p><strong>岩田:</strong>まさにミニマルユニット、起業に必要な3人ですね。そうしたスタートアップの疑似体験みたいなことは、MIRAISEでもメソッドとしてぜひ取り入れてみたいです。<br>ここまでお話を伺ってきて、デザインとは何かということが改めてよくわかりました。</p><p><strong>佐々木:</strong>思考の入り口が、どうやってこれを作ろうかっていう設計的な思想ではなくて、自分たちのサービスを通じてお客さんにどう感じてほしいかという感情を考えることなんですね。エクスペリエンス起点です。例えば、誇りを持ってほしいのか、安らいでほしいのか、鼓舞された感じになってほしいのか、便利だなって思ってほしいのか…という感情を決めて、そこから逆算で機能を考えていく。</p><p>エンジニアが頑張って何かを作っても「いや、そんなの欲しい人誰もいないよ」っていうことが、実はよくあると思うんですよね(笑)</p><p><strong>岩田:</strong>ありますね。実は自分も欲しくなかったという…ただ作るのが楽しかっただけ、みたいな(笑)感情を起点にするというアプローチは実に正しいと思います。ニーズというよりさらに本質的な印象を受けます。</p><p>エンジニアから刺激を受けるということもありますか?</p><p><strong>佐々木:</strong>デザイナーのやることというのは、すごく非効率なんですね。exploreするとよく言いますが、とにかく探索的、文系的に動きます。例えばリサーチひとつとってみても、統計学ベースではなく文化人類学的アプローチで行うので、とにかく人に会って話を聞く。それはそれでいいのですが、効率は悪い。</p><p>対してエンジニアには、「一切ムダなことはしないぞ」という感じがありますよね(笑)そして、確固とした美学を持っている。コードの書き方やモジュールの組み合わせ方などの美しさにこだわる人も多い。そうした姿勢はすごく参考になります。</p><p><strong>岩田:</strong>動作の軽さや可読性、メンテナンス性ですね。</p><p><strong>佐々木:</strong>あと、納期が迫っているとき、デザイナーはとにかく間に合わせようとちゃちゃっと作ってしまいます。しかしエンジニアは、岩田さんがおっしゃるメンテナンス性とか、後で技術的負債になるからと、とにかく時間がかかっても丁寧に作る。考え方のOSが違うんですよね。それは大きな学びでした。</p><p><strong>岩田:</strong>エンジニアは、エンジニアじゃない人の話はなかなか聞かないんですよね(笑)それこそOSが違うからと。感情がないものに対しては、ムダなことをしない、ひたすら自分の美学を追求するというのは有効ですが、人という感情がある存在に対してはそうもいかない。エンジニアも、デザイナーから学ぶことが多くありそうです。</p><h2><strong>定性✕定量が、未来をつくる</strong></h2><p></p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2020/03/27/19/45/42/0a5565f5-66a2-488c-996e-1b02aa0c6d1d/-----_03.jpg" link_href="" link_target=""></div><p></p><p><strong>佐々木:</strong>留学していた頃のルームメイトが、現在Googleでリサーチャーをしています。彼が何をしているかと言うと、毎日ティーンエイジャーとただ話しているんですよ。グラフやチャートで表せるような定量的データではなく、発言ログとか彼らの部屋の写真とか、そうした定性的なデータを集めているんです。今の10代は、機能がいいからという理由ではものを選ばない。心理的なアタッチメントがどれくらいあるかで選びます。ですからGoogleは、彼らがGoogleをどうやったら自分に関連づけてくれるかということを、心理的な側面から考えているのです。天下のGoogleが、文化人類学や社会学の修士号や博士号をもった人をたくさん採用して、そういうリサーチをひたすらやっているんですね。僕の知り合いにも、そういう仕事をしている人が多くいます。</p><p><strong>岩田:</strong>Googleがそのような社会学的な取り組みに力を入れているとは知りませんでした。今は数字にしなくても、会話内容は自然言語処理で解析できたり、部屋の写真なども画像解析が進んでいたりするから、そういった技術的な進歩も掛け合わさってくるんでしょうね。</p><p><strong>佐々木:</strong>まさにそうなんです。そういう定性的なデータが、Googleがやっていることと掛け合わさるとどんどん定量化されていく。それはすごく面白いですよね。</p><h2><strong>構想を現実化できる力が、エンジニア最大の強み</strong></h2><p></p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2020/03/27/19/45/43/ba040953-792d-47e5-8b7a-0b5cc3695cda/-----_04.jpg" link_href="" link_target=""></div><p></p><p><strong>岩田:</strong>現在、佐々木さんにはMIRAISEのメンターをお願いしています。佐々木さんが専門としているデザイン思考、顧客視点というのは、エンジニアには一様に足りないスキルなんですね。人間的な信頼はもちろんのこと、佐々木さんの力がMIRAISEにはぜひ必要だと思ったのです。</p><p><strong>佐々木:</strong>今までは、カリスマ性があって、資金調達が得意というような人しか起業できないようなイメージがありましたが、今はエンジニアでもデザイナーでも、誰でも起業できる時代になってきているなという体感があります。僕は多様性礼賛主義者で、世の中が多様であればあるほどいいと思っている。だから、ビジネスモデルを作るのに長けた人だけが起業するのではなくて、エンジニアやデザイナーもどんどん起業したらいいと前から考えていたんですね。だから岩田さんがMIRAISEを立ち上げると聞いて、これだ!と思ったんです。</p><p><strong>岩田:</strong>エンジニア起業家に賭ける価値とは、どのようなものでしょうか?</p><p><strong>佐々木:</strong>やはり、ものを作れること、実装できることというのがエンジニア最大の強みで、そうした力はずっと前から体感していました。デザイナーは構想はしますが、それを動くものにすることはできない。ですから、エンジニア起業家が増えるのはすごくいいことだと思いますね。</p><p><strong>岩田:</strong>デザイナーもエンジニアも、そうした人が経営に近いところにいないと、必要なスピード感はもはや得られないと思うんですよ。デザイナーやエンジニアが起業すれば、PDCAを自分の中でどんどん高速に回すことができる。</p><p><strong>佐々木:</strong><a href="https://www.lobsterr.co/"><u>Lobsterr</u></a>にも書いたんですけど、クリエイティブとテクノロジーの垣根がだんだんなくなってきています。例えば、まさに今日Adobeが発表したのですが、手描きのものをAIがアルゴリズムで勝手にデザインしてくれるというツールなどですね。クリエイティブ✕テクノロジーを表した「クリエイテック」という言葉も出てきています。そうしたツールをどう使いこなしていくかが、デザイナーにとって重要になってきているのです。</p><p><strong>岩田:</strong>絵を描くより、ストーリーを作るとか、ディレクションの方が大事になってきているんですね。ソフトウェアのプログラムのコードも、部分的にはAIがリアルタイムに書くような時代になっていくでしょう。プログラマーって、細かく決められた仕様通りにコードを書いているだけでは工場のラインみたいなものです。何を作るか、そのためにどのようなテクノロジーを活用するか、ということが大事と思います。AI時代にその存在意義を考えなければならないのはエンジニアも同じです。</p><p><strong>佐々木:</strong>単にビジネスだけをやっていたら、だんだん社会から必要とされなくなっていくんだろうな、と何となく思っています。仕事としてデザインに携わりつつ、MIRAISEに関わることによって、テクノロジーとの接点を得られるのは、個人的にすごくありがたいことです。エンジニア起業家を支援できるのはもちろんのこと、自分をアップデートするという観点でも、MIRAISEの一員であることはすごく幸せなことだと感じています。</p><p><strong>岩田:</strong>感情とかデザインというキーワードによって、エンジニアリングとビジネス双方がお互いに結びついて熟成していく。そんなイメージが湧いてきました。デザイン思考やエクスペリエンス起点という考え方は、これからのエンジニア起業家に欠かせないことですね。佐々木さんにはぜひこれからも、エンジニア起業家へ新しい視点を提供していただきたいと思っています。本日はありがとうございました!</p><p></p><p></p><p></p>