<div class="colorSet " style="color:rgba(0,0,0,1);"><p>MIRAISEはソフトウェアエンジニアが起業した会社へ投資する日本で唯一のベンチャーキャピタルです。普段から国内外のソフトウェアスタートアップを調査し、テック企業の方と交流し情報交換を行っています。</p><p>MIRAISEからスタートアップに関わる方へ向け今年2021年のトレンドを発表したいと思います。是非お役立てください。<br><br></p></div><h2>目次</h2><ol><li><p>Deviceless VR</p></li><li><p>De-Fi</p></li><li><p>Serverless</p></li><li><p>Contents for next smartphone</p></li><li><p>Nocode for Engineer</p></li><li><p>Virtual HQ<br><br></p></li></ol><h2>1. Deviceless VR</h2><p>昨年 Oculus Quest2 が発売され、VRヘッドセットを持つ人が増えてはいますが一般家庭に普及するのにはもう少しかかると思います。</p><p>一方VRの会社でも国内では<a href="https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000090.000017626.html"><u>クラスター社</u></a>などVRヘッドセットを使用せずにブラウザやアプリからバーチャル体験が可能になるプロダクトがユーザーを増やしています。<a href="https://youtu.be/nBBaHKQHxiU"><u>Tomorrowland</u></a> という世界規模の音楽フェスもコロナ禍でオンライン上にバーチャルステージをつくりDJを合成してリアルさながらのオンライン開催をしています。</p><p>ガートナージャパンが毎年公開しているテクノロジーの<a href="https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20200910"><u>ハイプ・サイクル</u></a>によると2020年の時点で複合現実(MR)は過度な期待のピーク期にあり、拡張現実(AR)は幻滅期に来ているとしています。幻滅期とは実用レベルでの評価が始まったということであり、今後様々な分野での適用が模索されていく中で細分化と他のテクノロジーとの組み合わせによるソリューション構築が進むと思われます。デバイスを使ったVRはエンタメを中心に夢のような世界の到来を予見させましたが、Tomorrowland の例も現実に行われているかのような熱狂やステージのセットアップを仮想的に実現するという意味において、デバイスを必要としないVRの分化の一つと考えています。</p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/01/25/14/47/32/41224a37-87d4-4e36-a24b-0b9fe29c1c56/20200910-01.png" link_href="" link_target=""></div><div class="colorSet " style="color:rgba(128,128,128,1);"><p><em>「日本における未来志向型インフラ・テクノロジーのハイプサイクル:2020年」出典:ガートナー ジャパン<br></em></p></div><p>2020年にこのような現象が起きたのは、コロナウィルスの感染拡大によるバーチャル空間へのニーズの高まりが圧力となったとも言えるでしょう。新たなコンテンツ消費体験・仮想化の観点で見たとき「VRは必ずしもデバイスを必要とするわけではない」という事例として面白く、今後 Deviceless VR を含めた xR 技術の進化に注目です。<br><br></p><h2>2. De-Fi</h2><p>De-Fiは Decentralized Finance 略で、ブロックチェーン上に構築される金融アプリケーションで主にイーサリウム上で動きます。2020年はじめにDe-Fiにロックされた6億9千万のUSドルは11月には117億3千万にまで伸びています。</p><p>代表的な「Compound」というアプリは暗号資産を貸し付けることで利子を稼げる仕組みになっています。2021年は様々なDe-Fiのアプリが引き続き出てくるでしょう。</p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/01/25/14/47/12/eed6290f-3f85-4b90-ad37-1e1b3b90ce45/5f9ac03c64ab3e1b735b51ad_mbnj9gtotjrgmouc5c15mu-4m4egavvhysgjshmvockbzcfzhh70xajnlbs2y8qeg-bun8gfiqq02ymhg1r35qu2g5yckqqz-3ni7oymdbcltrwv_z6j-gi6gzc8hohrhqjnqcqr.png" link_href="" link_target=""></div><div class="colorSet " style="color:rgba(128,128,128,1);"><p><em>「DeFi Is Growing at Warp Speed, But Regulatory Status and Compliance Requirements Remain Unclear」出典: Chainalysis<br></em></p></div><p>いっときのアービトラージを主目的とした暗号通貨の過熱感は一段落しています。その一方で、ブロックチェーン自体はますます面白くなってきています。</p><p>一つの大きな転機はDAIに代表されるような Stable Coin の登場でした。不確定要素の源泉であった法定通貨と暗号通貨の間の価格変動を排除したことにより、本来ブロックチェーンが持つ価値が鮮明になったのです。浮き彫りになるメリットの一つが、スマートコントラクトでコインを「プログラマブルにできる」ことです。Stable Coin を前提とした De-Fi アプリケーション、いわば「暗号通貨の金融商品」が今後続々と生まれてくるでしょう。</p><p>一方で、懸念されるのはリテラシ格差です。もともと平均的な日本人は資産運用に関する知識が欧米と比較して非常に低いと言われていました。それゆえ、リスク許容度を設定するだけで深い資産運用知識無しでポートフォリオを自動的にAIが組み替えてくれるサービスが生まれてユーザーを拡大しています。かつての預金一辺倒だった頃から比べれば、フィンテックの盛り上がりと共に改善してきていますが、暗号通貨でまた同じことが起きるのではないかとの懸念もあります。知識の有無によって、人々の資産額に大きな差が生まれるとしたら不公平であり De-Fi にとっても広いユーザー層を得るためには良くないことです。</p><p>今後は De-Fi アプリケーションの提供者はエバンジェリズムに力を入れたり、直感的なUI/UXなど、プロダクト側での工夫も必要になってくるでしょう。<br><br></p><h2>3. Serverless</h2><p>AWSのre:Inventの基調講演でCEOのJassy氏は2020年にAWSで開発されたアプリケーションの半数以上でサーバーレスの Lambda が利用されていると発表しました。</p><p>今までの常時起動のサーバーと違って都度実行されるアーキテクチャが2014年のリリースから6年経ちエンジニアの間で定着してきました。</p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/01/25/14/47/45/159b1c20-0477-49e5-8ce6-f933c2c492d6/awsreivnt02.jpg" link_href="" link_target=""></div><div class="colorSet " style="color:rgba(128,128,128,1);"><p><em>「AWSのCEOがre:Inventで発表した約30の新サービス一覧」出典: ZDNet Japan</em></p></div><p> 今日のSaaSの隆盛ぶりを見ると、かつて「外部サーバーに社内データを置きたくない」という企業側の抵抗が非常に強かった時代は想像するのも難しいです。それは、わずか10年ほど前の話で、当時はASP(Application Service Provider)などと呼ばれていました。その ASP 〜 SaaSへと進化し続ける中で、それを支えるクラウドコンピューティング技術も当然ながら利用方法や利用量、そしてエンジニア側の要請によってトレンドが変化します。</p><p>この変化とはざっくり言うと「エンジニアがより効率よく、より簡単に、よりメンテナンスしやすく、より他サービスとの連携がしやすく、より既存プラットフォームとの連携がしやすい」方向へ向かって行きます。サーバレス技術は広く使われるようになり、今後はサーバレスをより便利に、またはサーバレス特有の問題を解決するようなスタートアップが出てくるでしょう。</p><p>しかし大事なことはユーザーのニーズ、開発者のニーズ、他の分野からの(接続)ニーズなどによって、トレンドは常に変化するということです。たとえば、前述したクラウドコンピューティングの進化が超短期間で起きたのは技術の進歩だけでなく、企業側が「社外にデータを置いても良い」というマインドセットあるいは社内規定の変更が起きたからからでもあります。</p><p>投資やスタートアップの観点からすると、単に技術そのものだけを考えるのではなく社会的、ビジネス的なニーズの変化、人々の感情的な、あるいは制度的な許容度変化などにも留意していく必要があるでしょう。<br><br><br></p><h2>4. Contents for next smartphone</h2><p>2007年の初代 iPhone 発表から13年経ち、デバイスも次のステージへの移行がはじまっています。Samsung はすでに折りたたみのスマホの2世代目を出し初代から改善しより身近になっています。</p><p>Apple も折り畳みの特許を取得していたりと2021年は折り畳みスマホならではのアプリやゲームコンテンツが出てくることを期待しています。</p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/01/25/14/48/10/4078fb4a-114b-4e92-9bbc-42f5d7a6fcf9/screen-shot-2021-01-21-at-21.03.27.png" link_href="" link_target=""></div><div class="colorSet " style="color:rgba(128,128,128,1);"><p><em>出典: SAMSUNG Galaxy Z Fold2 5G</em></p></div><p>デバイスやプラットフォームの変更はスタートアップにとって大きなチャンス、もっと大胆に述べるならばメガベンチャーに打ち勝つ唯一のチャンスだと考えています。もちろん自分たちで新しいプラットフォームを構築するのがベストですが。</p><p>一方でアプリケーションレイヤーまたはコンテンツで勝負するのであれば、新しいデバイスやプラットフォームの特性をいち早く吟味し、ユーザーの使われ方にどのような変化があるのかを丹念に調べて想定し、仮設を立てていくこと、そしてその新機軸に沿ったプロダクトを一点張りでリリースしていく覚悟が必要です。少し前の例で言うと、PCのブラウザ向けに作ったものをスマホになんとか対応させたサービスと、これから間違いなく伸びるであろうスマホに集中して「スマホファースト」で作られたサービスとでは、後者の方がスマホユーザーの体験が圧倒的に良いのです。</p><p>過去の事例から学べるように、ゲームチェンジが起きたときに「すでにそこにいる」状態であるべきで、そのような姿勢のスタートアップに勝機があると思います。<br><br></p><p></p><h2>5. Nocode for Engineer</h2><p>ノーコード・ローコードは2020年ビジネスサイドからもエンジニアサイドからも大変良く話題に上がりました。</p><p>MIRAISE ではエンジニア向けのノーコードツール市場に興味を持っています。ソフトウェア開発はプログラミングからインフラ構築まで様々な工程がありますが、その一部をコードを書かずに再現していくプロダクトがUSを中心に増えてきています。USのFylamynt社は複雑なインフラをドラッグ&amp;ドロップで構築できるシステムを開発し Googleも出資しています。</p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/01/25/14/47/21/2971b8b6-b336-4d00-8f4c-38dc040182fd/5faec00a1d7ddd6279e49192_builder-main-img.png" link_href="" link_target=""></div><div class="colorSet " style="color:rgba(128,128,128,1);"><p><em>出典: Fylamynt</em></p></div><p>この分野はMIRAISEチームも大変恩恵を受けています。ノーコード・ローコードの登場のおかげで、日常SQLを書くことはほぼゼロになり、スクリプトを書く量も大幅に減りました。エンジニアにとっては「誰かが代わりに書いてくれている」という印象で、本来時間を割くべき機能開発により多くの時間を割り当てることができます。またエンジニアにとっては、ちょっとした変更をノンエンジニアに依頼できるようにもなります。ノーコードと言ってもノンエンジニアにとっては難しいものなので、ノンエンジニアの人はゼロから構築するよりエンジニアがノーコードで作ったものを活用する、あるいは改良するのが現時点では現実的です。ノーコードの最大の利点はエンジニアとノンエンジニアをつなぐ点にあると思っています。この考え方は非常に重要で、そのような視点に基づいたプロダクトの登場に大きな期待を持っています。<br><br></p><h2>6. Virtual HQ</h2><p>世界中で一斉に働き方の変革が始まりました。内閣府が2020年12月に行ったテレワーク導入調査では、全国では前年比2倍、東京23区内ではさらに高い前年比2.4倍の42.8%の企業がテレワークを導入。その流れは現在も加速しています。</p><p>しかし、従来のテレワークツールは雑談などのカジュアルなコミュニケーションが難しい側面があり、社員の孤独や孤立を生むことが課題になっています。今後は、バーチャルオフィスに現実の空間での会話体験を取り入れることや、ポストコロナに起こりうるオンラインとオフライン勤務のコミュニケーションの円滑化が求めれらていくでしょう。</p><p>2020年は一部の業態を除き多くの企業が社内規定改訂を含めてオフィスのバーチャル化、オンライン化の施策を大胆に推し進めることになりました。これはコロナウィルス感染拡大の防止策としての強制力によるものですが、同時に多くの気づきももたらしました。オンラインでも出来ること、オフラインでなければ難しいこと。通勤をしなくても良いメリット、家族がいる環境で仕事がしづらいなどのデメリットは分かり易い例です。</p><p>しかし約10ヶ月の運用を経て明らかになった課題は「オンラインとオフラインの中間」部分への対処だと考えています。各社が提供するバーチャルオフィスサービスやオンライン会議のサービスは機能強化が進み、機能的には申し分ないが、オンラインでも出来るがオフラインのほうが良い気がする、何故だろう、という疑問です。そこで、やっぱりオフラインだ、とばかりに元に戻す圧力があることは承知していますが、大事なのはゼロかイチで考えるのではなく、常にどんなときでもイノベーションを起こす姿勢です。</p><p>それは念入りな観察やユーザーヒアリングを通して得ることが出来ます。実はオフィス内のキッチンでの雑談で無意識に多くの情報を得ていた、あるいは同僚とのつながりや絆を感じていた、他には、出社することで会社へのロイヤリティが上がっていた、通勤時間や社外ミーティングへの移動時間が気分転換になっていた、などです。これらは単にオフラインのものをオンライン化するだけでは解決できないのです。フィジカルな部分だけではなく、メンタル、さらにはエモーショナルな部分を社員の立場で考える。</p><p>そのような進化版サービスが2021年には多く生まれてくるでしょう。<br></p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/01/25/14/48/35/20e974f4-e642-4bbc-bd14-c7faf18c120b/screen-shot-2021-01-21-at-21.12.46.png" link_href="" link_target=""></div><div class="colorSet " style="color:rgba(128,128,128,1);"><p><em>oVice を使用したMIRAISEのバーチャルオフィス<br><br></em></p></div><h2>MIRAISEの情報発信</h2><p>MIRAISEではこのようなレポート以外にも毎週最新のテック情報を発信していますのでこちらも是非御覧ください。<br></p><ul><li><p>「MIRAISE RADIO」<br>エンジニア起業家の生の声や最新テックニュースをお届けする音声コンテンツ<br><a href="https://podcasts.apple.com/jp/podcast/miraise-radio/id1547562320" target="">Apple Podcast</a> | <a href="https://podcasts.google.com/feed/aHR0cHM6Ly9hbmNob3IuZm0vcy9lYjI1NjM0L3BvZGNhc3QvcnNz" target="">Google Podcast</a> | <a href="https://open.spotify.com/show/1c5zs4Pr2V2iHHUQo7FygZ" target="">Spotify</a><br><br></p></li><li><p>「Ryusuke Fuda's Newsletter」<br>MIRAISE Venture Partner &amp; CTO布田によるニュースレター<br><a href="https://www.ryusukefuda.com/">https://www.ryusukefuda.com/</a></p><p><br></p></li></ul><h2>最後に</h2><p>お読みいただきありがとうございました。<br>このレポートを読んでMIRAISEとディスカッションしたい新規事業部門や投資部門の方、起業を考えてるエンジニアでMIRAISEと相談したい方はこちらからお問い合わせください。</p><p>問い合わせフォーム<br><a href="https://www.miraise.vc/contact">https://www.miraise.vc/contact</a></p><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/01/27/14/42/30/04dc4292-1577-4111-9d4b-0fe60d407e7d/unnamed--1-.png" link_href="" link_target=""></div><p></p><p></p>
<p></p><div class="iframe-container width-set height-set dimensions-set" data-width="100%" data-height="232px" data-src="https://open.spotify.com/embed-podcast/episode/6kYDTUrvNvywjgL4F4Lviv"><iframe class="" style="" data-embed-type="generic" data-original-link="&amp;#60;iframe src=&quot;https://open.spotify.com/embed-podcast/episode/6kYDTUrvNvywjgL4F4Lviv&quot; width=&quot;100%&quot; height=&quot;232&quot; frameborder=&quot;0&quot; allowtransparency=&quot;true&quot; allow=&quot;encrypted-media&quot;&amp;#62;&amp;#60;/iframe&amp;#62;" src="https://open.spotify.com/embed-podcast/episode/6kYDTUrvNvywjgL4F4Lviv" width="100%" height="232px" frameborder="0" allowfullscreen="true"></iframe></div><p>私たちの安心を支えてくれている「保険」。</p><p>しかし、「自分や家族の保険、もし何かあったら請求はちゃんとできますか?」…そんな問いを投げかけられた時、自信を持って「できる」と言える方はどれぐらいいるでしょうか?</p><p>保険の請求にはさまざまな手続きが必要で、実は決して簡単なことではないのです。</p><p>今回は「保険の請求もれをなくす」というミッションを掲げる株式会社IB代表取締役CEOの井藤健太さんに、レガシー業界の変革に挑むお話を伺いました。</p><p></p><h2><strong>入っている保険をカンタンに管理できるアプリ「保険簿」</strong></h2><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/02/22/12/48/34/5c1758e8-d46a-4564-b2bb-3bbd80b27b86/radio16_01.png" link_href="" link_target=""></div><p>――最初に、株式会社IBと提供している「保険簿」というサービスについて教えていただけますか?</p><p><strong>井藤:</strong>私たちIBは「保険の請求もれをなくす」というミッションを掲げて事業を展開している会社です。ここで蓑口さんに質問なのですが…もし離れて暮らしているご家族が災害に遭い、自宅が流されたうえに意識不明の重体となってしまい、家族に代わって保険の請求ができるのが自分しかいない!となった時に、ちゃんと請求できる自信はあるでしょうか?</p><p>――自分の保険ですら自信がないのに家族の請求なんて…できないです!</p><p><strong>井藤:</strong>そうなんです。この質問に対して、95%以上の人が「できない」「自信がない」と答えます。保険の請求もれとは、本来もらえるはずの保険金があるのに、請求手続きをしていないことを指します。保険会社は加入者やその家族からの請求がなければ、そもそも何があったのか知りようがありません。加入者やその家族が自ら請求しなければ、保険金を受け取ることはできないのです。こうした「保険の請求もれ」は、潜在的ながら非常に根深い問題として存在してきました。本当はもらえる保険金があったのに、病気の治療費が高くて治療を諦めてしまったり、本来負わなくてもよかった経済的負担を負ってしまったりといった悲しいことがこれまでにたくさん起きているのです。私たちは、そうした問題をなくしていきたいと考えています。</p><p>――実は私にも、請求もれの経験が何回かあって…とても共感します。</p><p><strong>井藤:</strong>この請求もれをなくすために、弊社では「保険簿」というアプリを軸に事業を展開しています。「保険簿」は、保険の書類を撮影すると自動でデータ化されて、入っている保険を簡単に管理できるというアプリです。家族との共有もできますし、「病気になった」「ものが壊れた」などの該当項目から、請求できそうな保険をレコメンドするといった機能も提供しています。こうした請求もれを防ぐ仕組みを、日本の保険加入者全員に使ってもらえることを目指して、将来的には保険加入後のあらゆることがワンストップで完結する、便利でシンプルな仕組みを作っていきたいと考えています。</p><p>――保険事業者に向けたサービスも提供しているんですよね。</p><p><strong>井藤:</strong>はい。消費者の皆さんに使ってもらうためには、あらゆる保険事業者と協力していかなければいけません。弊社は保険の販売には一切手を出さないと決めているので、「保険を売られる」と加入者側に嫌がれることもないですし、保険代理店や保険会社などのあらゆる保険事業者と協力できるという立ち位置をキープしています。保険事業者向けには「保険簿 for Business」というSaaSを提供しています。保険担当者がお客さんの保険情報を一緒に見てアドバイスできたり、チャットができたりと、いわば「かかりつけ」の保険担当者として、きめ細かく顧客のフォローができるようにするサービスです。</p><p><strong>岩田:</strong>保険会社側も、ちゃんと必要な時には保険金を請求してほしいと思っているんですよね。</p><p><strong>井藤:</strong>2000年代に、保険業界では「保険金未払い問題」というのが大きな問題になりました。これは、保険金が請求できることがわかりうる状況だったにもかかわらず、さまざまな理由で払わなかった・払えなかったという、多くの保険会社で明るみになった問題です。その後、必要な時にちゃんと請求してもらうための取り組み(請求勧奨)が進められてきました。そしてここ5年ほどで、金融庁主導でさらなる顧客本位の業務運営が叫ばれるようになってきています。こうした背景もあり、とことん消費者のためになるサービスを作っていけば、自然と保険事業者にもメリットを提供できると考えています。</p><p></p><h2><strong>保険の「請求もれ」は年間1.6兆円</strong></h2><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/02/22/12/50/07/8efe8ba6-f130-48d8-9c82-23c384e89223/radio16_02.jpg" link_href="" link_target=""></div><p>――実際に、保険って本当に難しいと感じます。誤解を生まないために細々といろんなことが書いてあるパンフレットや、「これ読んでおいてください」と渡されるCD-ROMだったりと、必要な情報は一応全部受け取るんですけど、私は結局のところ請求もれとなってしまったわけでして…。新卒の頃にレーシック手術をしたのですが、父が掛けてくれていた保険では適用だったらしいんですね。</p><p><strong>井藤:</strong>今は違うのですが、2007年以前に契約している医療保険では、レーシックは適用になるんですよね。</p><p>――私は目が弱くて他にもいろんな治療を定期的にしていたのですが、10年くらい経ってから、父から、それらも保険が適用できる治療だったと言われました。先ほど言ったレーシックは、新卒の初ボーナス全部つぎ込んで受けたのに(笑)。「もし父が掛けてくれていた保険を使えていたら、初ボーナスで一緒に何か美味しいもの食べに行けたかもしれないのにね」と、今では笑い話ですが…。</p><p><strong>岩田:</strong>貯蓄の一種みたいな考え方も、昔はありましたからね。保険に入っているというよりは、満期になったら解約して定期預金みたいに受け取るようなイメージでいると、なおさら保険の内容は忘れてしまいがちかもしれないですね。</p><p><strong>井藤:</strong>解約返戻金や満期金を目当てに保険加入している人で、保険料の払い込みが終わって口座からの引き落としもなくなり、保険証券もどこか行ってしまった…という場合、もしその人に何かあったら、家族はどうやってもその保険の存在を見つけることができません。私事ですが、昨年末に亡くなった祖母が認知症で、それに付け込まれてかなりいろいろな契約をさせられていたようなんです。まだ出てきていない保険契約や、請求もれがたくさんある予感がしていて、洗い出し頑張らないとな…と思っているところです。</p><p><strong>岩田:</strong>保険会社との契約って、1社だけではない人の方が多いですよね。「保険簿」では、それらを一元的に見られるというのがとてもいいと思っています。</p><p>――ちなみに、日本ではどれくらいの人が保険に入っているのでしょうか?</p><p><strong>井藤:</strong>世帯の割合で見ると、生命保険が80%、火災保険が90%と言われています。ですから、火災保険やクレジットカード付帯の保険も含めると、保険に入っていないという人はほぼゼロに近いんじゃないでしょうか。</p><p>――では実際に、請求もれというのはどれくらいあるのでしょうか?</p><p><strong>井藤:</strong>弊社がフェルミ推定で算出したものでは、1.6兆円という結果が出ています。保険金の支払いは年間約18兆円なので、決して少なくない数字です。実際のところ、肌感覚ではもっとあると感じています。</p><p>――「保険はお守り」という言葉もありますが、単なるお守りではなく、実際の生活で効力を発揮するもののはずです。しかし、それを使いこなせていない人は本当に多いということなんですね。</p><p></p><h2><strong>東日本大震災の現場で知った「請求もれ」が転機に</strong></h2><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/02/22/12/51/49/8cdb3f6a-379e-484f-8dd6-7daa3077e9b2/radio16_03.jpg" link_href="" link_target=""></div><p>――保険分野でのスタートアップというのはあまり聞きませんが、井藤さんはどうしてこの業界で起業しようと思ったのですか?</p><p><strong>井藤:</strong>最初のきっかけは、大学時代まで遡ります。私は大学時代に保険業界の研究をしていたのですが、そんな中で2011年に東日本大震災が起こりました。現地にボランティアに行ったことで、保険の請求もれが多く起こっている現実を知りました。卒論を書く頃にはちょうどマイナンバーの話が出てきていたこともあり、個人のアカウントにすべての保険契約が紐付いていれば、管理が一元化でき、請求をはじめとしたすべての手続きがワンストップでできるという世界を構想し、卒論としてまとめたのです。<br>卒業後は保険業界で仕事をしていましたが、結局マイナンバーの利用はなかなか進まず、保険業界のさまざまなしがらみも知りました。業界に身を置く中で見えてきた課題も、それを突破する方法も見えてきたところで、「多分『保険簿』で起業するだろうな」と思いながら1年システムエンジニアをしてITについての理解も深め、2018年10月に創業しました。</p><p>――「保険簿」を世の中に出すためにたどってきたような経歴ですね。3.11の現場もご自身の目で見られているということにも、熱い思いを感じます。</p><p><strong>岩田:</strong>井藤さんが素晴らしいのは、本当に顧客目線でやっているというだけでなく、テクノロジーをどう活用して、より便利にしていくか、より多くの隠れたニーズに応えていくかということを非常によく考えて、実行しているところです。マイナンバーが話題になり始めた当初から、保険と結びつけて考えられているのもその現れのひとつですよね。スタートアップとしてできることは何かを考え、自分が考えついたソリューションを広めるための情報発信などもしっかりしているし、プレゼンテーションもとてもわかりやすい。自分のミッションを固く信じ、そのためにできることは何でもやっていく、想いの強い起業家だと感じています。</p><p>――MIRAISEとのご縁はどのように繋がったのでしょうか?</p><p><strong>岩田:</strong>僕らはどちらかというと選んでいただいたという感じですね。井藤さんはバランスをよく考えていて、自分たちに足りないところを補える投資家、VCを探していて、技術的なサポートができるということでMIRAISEを選んでくださいました。そうした発想や行動からも、ミッションへの最短距離をしっかりと考えて、実行しているという印象を持ちました。</p><p><strong>井藤:</strong>昨年8月に資金調達を行ったのですが、そんなにすんなりいったわけではなく、苦戦もしました。しかし、MIRAISEさんに出資していただけるというベストな結果となったのは、本当によかったと思っています。今後は、MIRAISEのさまざまなサポートもどんどん活用していきたいと考えています。</p><p><strong>岩田:</strong>保険というのは、実は顧客満足度が上がるタイミングが少ない業種なのかなと思います。加入した時の「これで家族も安心だ」「これで自分に何かあっても大丈夫」などの安心感がそのひとつだと思いますが、顧客満足度が最大化するのは、やはり保険金が支払われたときだと思うんですよね。そのチャンスが失われている状態だと、保険会社は顧客満足度を上げる機会がすごく減ってしまう。そういう意味では、「保険簿」は業界全体にとっても非常に価値のあるサービスだと感じます。まさに「三方良し」ですね。</p><p><strong>井藤:</strong>現在、保険会社さんからの問い合わせも非常に多くあります。いい意味で想定外ですね。保険会社は、思った以上に請求勧奨に対して強い課題感を持っています。それは金融庁からのプレッシャーだけではなくて、保険会社で働く一人ひとりの方が、保険本来の役割をちゃんと果たしたいという想いをしっかり持っている故だと、話を聞く中で実感しています。</p><p></p><h2><strong>保険のあらゆる手続きがワンストップで完結できる世界に</strong></h2><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/02/22/12/53/27/184854a5-a8e2-43dc-b93e-fd9b0dc29021/radio16_04.jpg" link_href="" link_target=""></div><p><strong>岩田:</strong>保険会社からの視点で2つ質問があります。まず1つ目。顧客の囲い込みを狙うような動きはないのでしょうか?</p><p><strong>井藤:</strong>今は保険ショップのようにいろんなチャネルで保険に加入できるので、現実的に1社で囲い込むのは無理だという考え方が主流です。いい商品を作り、いいサービスを提供して顧客を増やそうという努力は各社もちろんしていますが、請求やアフターフォローなどの非競争領域に関しては、業界で協力していく方が効率がいいんじゃないかという発想にどんどん変わってきていると実感しています。</p><p><strong>岩田:</strong>2つ目。保険会社の、DXやインシュアテックへの関心は高まっているのでしょうか?</p><p><strong>井藤:</strong>DXに関しては、保険業界は他業界に比べて10年も20年も遅れているとよく言われています。実際にそのとおりで、率直に言うと業界全体が焦りを感じていて、DXには飛びついている感はありますね。保守的な業界という印象があると思いますが、今どんどんアクティブに変わっていこうというスタンスになってきています。</p><p>――業界も大きく変わっていくタイミングなんですね。今後、井藤さんが目指す世界とはどんなものでしょうか?</p><p><strong>井藤:</strong>一昨年の10月にサービスをリリースし、昨年は資金調達とメンバーの採用に力を入れ、無事にいい形で成果を出すことができました。基盤が整った今年は、カスタマーサクセスを徹底して、消費者の方にも、保険業界にも必ず喜んでもらえるサービスをしっかりと実現させていきたいと思っています。その先はもちろん、請求もれを防ぐためにいろんな保険会社との協力もしていきながら、保険加入後のあらゆることがワンストップで完結する世界を目指していきます。まずその前提として、保険の請求もれという潜在的な課題に気づいてもらうために、引き続き発信も強化していきたいと考えています。</p><p>――井藤さんの想いはnoteで日々発信されているので、気になる方はぜひ目を通してみてくださいね。「保険簿」が作る未来を、私たちも心待ちにしています。本日はありがとうございました!</p><p><br><br></p><p>◆<a href="https://www.hokenbo-ib.com/"><u> 株式会社IB</u></a><u><br></u>◆<a href="https://note.com/hokenbo"><u>井藤健太【保険簿のCEO】|note</u></a></p><p><br></p>
<p></p><div class="iframe-container width-set height-set dimensions-set" data-width="100%" data-height="232px" data-src="https://open.spotify.com/embed-podcast/episode/6zvJKPrUtbcQvql4pMCzam"><iframe class="" style="" data-embed-type="generic" data-original-link="&amp;#60;iframe src=&quot;https://open.spotify.com/embed-podcast/episode/6zvJKPrUtbcQvql4pMCzam&quot; width=&quot;100%&quot; height=&quot;232&quot; frameborder=&quot;0&quot; allowtransparency=&quot;true&quot; allow=&quot;encrypted-media&quot;&amp;#62;&amp;#60;/iframe&amp;#62;" src="https://open.spotify.com/embed-podcast/episode/6zvJKPrUtbcQvql4pMCzam" width="100%" height="232px" frameborder="0" allowfullscreen="true"></iframe></div><p>MIRAISEでは、課題解決に挑むエンジニア起業家の生の声をお届けするラジオ番組「<a href="https://www.youtube.com/channel/UCV4Ju4OHLYp-2we7vLxWtTg/videos"><u>MIRAISE RADIO</u></a>」を配信しています。こちらのブログでは、「読む MIRAISE RADIO」として、起業家たちのストーリーをラジオの雰囲気そのままにお伝えしていきます。</p><p>● スピーカー|MIRAISE 岩田 真一 / 布田 隆介<br>● MC|MIRAISE PR 蓑口 恵美</p><p></p><p>日々、多くの起業家からさまざまなプロダクトや事業の話を聞いているベンチャーキャピタル(VC)。</p><p>今回は「MIRAISEがグッと来るピッチとは?」というテーマで、MIRAISEの岩田・布田に話を聞きました。</p><p>起業家の話を聞く中で、重視しているポイントはどこなのでしょうか?ぜひ、参考にしていただけると嬉しいです。</p><p>なお、今回の記事は、ラジオでの約55分にわたる話をギュッと凝縮してお届けします。ラジオ内では、文字数の都合でご紹介しきれなかった数々の具体的な事例も出てくるので、記事を読んで「もっと深く知りたい!」と思ってくださった方は、ぜひ<a href="https://anchor.fm/miraise/episodes/14--MIRAISE-eomg36"><u>ラジオ</u></a>にもアクセスしてみてくださいね。</p><p></p><p></p><h2><strong>最初の10分で心を掴む</strong></h2><p>――起業家と投資家の出会いの場になるのがピッチ(プレゼン)ですが、昨年も、お二人はさまざまな起業家のピッチを聞かれたと思います。その中で、どんなピッチが印象に残っていますか?</p><p><strong>布田:</strong>昨年は100組以上のピッチを聞かせていただきました。僕は端的に言うと、わかりやすいピッチが印象に残りますね。言いたいことが増えると、ピッチも長く複雑になってしまいがちで、製品の特徴もターゲット層も何だかよくわからないな…と感じることも実は多くあります。ですから、時間にして10分くらい、スライドなら10枚くらいで文字も少ない、シンプルなものが伝わりやすいなと思っています。その方が、ピッチ後のディスカッションもしやすいですしね。</p><p>――実際に、ピッチはどれくらいの長さで、ディスカッションはどれくらいするものなのでしょうか?</p><p><strong>布田:</strong>資料は先にいただくので、事前にこちらもだいたい内容を把握していますが、ファウンダーの方の口から実際に説明いただくのがピッチの時間ですね。その後、質疑応答などディスカッションの時間を取ります。ピッチとディスカッション、トータルで1時間くらいですね。ピッチに30分も40分もかかってしまうと、ディスカッションの時間はどんどん短くなってしまいます。</p><p><strong>岩田:</strong>例えばスライドを30ページ作ってもいいんですけど、ピッチは最初の10ページで終えて、その後のページはディスカッション・ペーパーにするような形の方がいいですね。質問した時にそれを見せてもらいながら解説していただく方が、こちらの理解も深まりますから。そうすると、「最初の10分で興味を持ってもらうにはどうしたらいいか?」という発想に自ずとなってくると思います。</p><p>――ピッチはもちろんのこと、ディスカッションの時間も大切ということですね。限られた時間において、お二人が心を掴まれるのはどんな瞬間なのでしょうか?</p><p><strong>布田:</strong>今取り組んでいることのずっと先に見えている世界が面白いと、投資に繋がることがけっこうあります。最終的にたどり着きたい場所が明確で、それがワクワクするようなものだとグッときますね。投資家の前では、恥ずかしがらずに「ディズニーランド作りたいんです!」みたいな大きな夢を語ってくれるといいですね。投資家に夢を見させると言いますか…。</p><p><strong>岩田:</strong>それは「投資家の耳目を引くために大げさなことを言いなさい」という意味ではなく「自分の持つ大きな夢を隠さないでほしい」ということですね。本当はすごい夢を持っているのに「ピッチだと何だか飛躍し過ぎかな…」と、言わずにいるのはもったいない。大きな夢を語ったうえで、そのワンステップとしてこういうことに取り組んでいる、という形になるといいですね。</p><p></p><p></p><h2><strong>ピッチは「紙芝居」。ストーリーがあると引き込まれる</strong></h2><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/02/03/13/12/24/4082234a-772f-407a-ac5b-3e72626f9a05/radio14_02.jpg" link_href="" link_target=""></div><p>――そのほかに、グッとくるポイントはありますか?</p><p><strong>岩田:</strong>先ほどの内容とは矛盾するようですが、あまりに大きい話、それだけだと投資には進みませんね。僕らがもっとも重視しているポイントとして、一歩一歩やる姿勢と言いますか、仮説と検証のサイクルを多数かつ高速に回していけるかどうか、というのがあります。<br>エンジニアは、ある程度自分の中で仮説ができると自分でプロダクトを作り始めることができます。しかし、その前に本当にニーズがあるのかどうか、ちゃんと確認することが大事ですね。</p><p><strong>布田:</strong>課題に対してどのくらい考えられているのか、ということはよく見ています。例えば、なぜそのサービス形態を選んだのか、なぜその技術を使うのかということを聞いた時に、答えがぱっと出てくると、よく考えているんだなとわかります。ピッチ資料の競合マップを見ても、どういうところをどれくらい考えたのか見えてきますね。</p><p><strong>岩田:</strong>競合分析は、ピッチに必ず入れなきゃいけないみたいだからなんとなく入れておく、というものではありません。自分のプロダクトで課題解決に真剣に取り組んでいるのであれば、おそらく、既存のあらゆるものを試しているはずなんですよね。ですから、競合分析資料は「入れなきゃいけない」ではなく、本来自然に出てくるはずのものなのです。</p><p>――「入れなきゃいけない」と言えば、市場規模に関する資料もありますよね。</p><p><strong>岩田:</strong>それも大事なんですが、特にシード期の場合、おそらく起業家自身もよくわかっていない面があると思います。ですから、市場規模はアペンディックス(補足資料)でもいいくらい。それよりも、「Aさん、Bさん、Cさんはこういうことで困っていました。それを聞いて試作品を作って試してもらったら、とても喜んでくれました…」というようなストーリーが見える方がグッときます。ピッチは「紙芝居」のようなもの。最初の課題提示で「なるほど」と思わせて、解決策を見せて「そういう手があるのか」と唸らせる。めくる楽しみがあるピッチ資料はいいですね。すると市場規模を知りたくなってきます。</p><p><strong>布田:</strong>このプロダクトを使ったことでどうなるか?というのは、実はあまりピッチに入っていないことが多いのです。「コストを10%削減できた」「売上が上がった」など、紙芝居で言うところの「めでたしめでたし」がないということですね。ただプロダクトの紹介をするだけだと、「これで一体どうなるんだろう?」で終わってしまいます。</p><p></p><p></p><h2><strong>1回で決めなくていい。「次にどう繋げるか?」を考える</strong></h2><div class="img-container"><img src="https://cdn.qurate.cloud/2021/02/03/13/12/38/1540ae7b-1af7-409a-b514-451952213965/radio14_03.jpg" link_href="" link_target=""></div><p>――投資するかどうかは、1回のピッチで判断するのでしょうか?</p><p><strong>岩田:</strong>いいえ。1回のピッチ、1回のディスカッションで決めようと思わなくていいのです。本当に可能性があれば、次のミーティングに繋がっていきます。特にMIRAISEの場合は、最初は僕か布田さんどちらかが話を聞いて、良ければその後必ず二人で話を聞かせていただくことになっています。一発で決めようというのではなく「もう1回話を聞かせてほしい」と、次に繋げていく、と考えてもらえるといいですね。投資を受けると長いお付き合いになりますから、お互いにパートナーとしてやっていけるかどうか、やり取りを重ねながらお互いに見極めていくような感じです。</p><p>――なんだかデートというか、お見合いのようでもありますね。結婚に向けてコミュニケーションを重ねて、一緒に歩めるかどうかを確かめていくという…。</p><p><strong>岩田:</strong>VCもそれぞれに特徴がありますから、VCについても調べてから臨むとよいですね。「相手を知る」ことは大切です。そうすれば、なぜそのVCに投資をしてほしいのかも伝えることができます。結婚とはいい例えで、そうだとすれば、相手を知ろうとするのはごく普通のことですよね。</p><p><strong>布田:</strong>あと、最後に「投資の可能性はありそうですか?」と聞いてみるといいと思います。意外と聞かれないのですが…。聞いてくれると「ここがクリアできればいけそう」など、具体的なフィードバックをお伝えできるので。</p><p>――何回か、会話を重ねることを前提とした1回目なんですね。</p><p><strong>岩田:</strong>どうしても、初めてのピッチだと足りない点が出てきてしまいます。ですから、布田さんが言うように、投資家に対して具体的なフィードバックを聞けるような問いかけをするのはとても大事です。ピッチは場数を踏むのが大切ですが、どこが自分に足りないのかわからないままでは、何度ピッチをしても同じです。フィードバックを聞こうという姿勢からは、本当にそれがやりたいんだという起業家の想いや、うち(MIRAISE)に出資してほしいんだという想いも伝わってきます。だからといって必ずしも出資に結びつくとは限りませんが、僕たちはディスカッションにはいくらでもお付き合いします。</p><p>――ピッチも仮説と検証を繰り返していくんですね。1回作ったものを、フィードバックを受けてどんどん改善していくと。</p><p><strong>岩田:</strong>うちで出資させていただいた起業家で、数々のVCを回る中でもらった質問を全部Googleスプレッドシートに書き出していた方がいました。質問のカテゴリー分けもして、それに対する回答もどんどん足していって。さらに、そのシートを回ったVCと全部共有していたのです。もちろん、どのVCの質問かということは隠してあるのですが。これがもう、ひとつの立派なFAQのリストになっているんですよね。ゼロから始めて、資金調達に回っている間にしっかりとした説明資料を作り上げた。その姿勢をみて、この起業家は投資後もきっとオープンに情報共有して、一緒に考えていく人なんだろうなと思いました。そうしたことから、起業家としての資質を十分備えていると判断したことも、出資を決めた大きな要因のひとつでした。</p><p></p><p></p><h2><strong>「バリュエーションはどれくらい?」わからないことは素直に聞こう</strong></h2><p>――バリュエーションについてはいかがでしょうか?</p><p><strong>布田:</strong>まずは、今はこの地点にいて、これからどういうマイルストーンを経て事業を成長させていくかということをしっかり見ます。例えば、ここから広告を打ち始める、ここまでに機能を全部完成させる、といったスケジュールですね。それがあると、僕らがどのタイミングで入るのかがわかりますから。<br>そして、各マイルストーンに対してどれくらいの額を集めて、何に使うのかも聞きます。開発費なのか、エンジニアの採用に使うのか、それともセールス部隊を作るのか…それを聞くと、ビジネスのタイミングがわかります。そのタイミングに関係するのがバリュエーションです。いくらくらいの額に対して、どれくらいの株を放出するかということですね。</p><p><strong>岩田:</strong>バリュエーション=企業価値ですね。起業家側が提示した額を参考にしつつも、うちの条件に照らし合わせるとこれくらい、というのを提示します。皆さん、高めのバリュエーションで調達したいと基本的には思っているんですけど、それがあまりに相場からかけ離れている場合、資金調達は難航します。<br>資金調達をする目的は、お金を得て成長速度を上げることです。すなわち、「時間を買う」ということなんですね。ですから、適正ではない高いバリュエーションにこだわって資金調達に時間がかかる…というのは本末転倒です。時間を買えていないということですから。</p><p><strong>布田:</strong>バリュエーションについては、最初はよくわからないでしょう。その場合は「わからない」と素直に言ってほしいと思います。わからないからと適当に答えてしまうと、その後なかなか変えにくいものなので、後々大変になってしまうことがありますから…。今、自分たちのバリュエーションがどれくらいかと聞いていただければ、僕らの基準でお答えします。</p><p>――何でもわからないことは、オープンに聞いてもらえるといいということですね。</p><p><strong>岩田:</strong>皆さん、売上が上がっていないとダメだろうと思うかもしれませんけど、シードステージの場合はそんなことはありません。特に僕らは、プレシード期においてマネタイズは二の次と考えています。その時期に大切なのは、課題解決の手法、技術力や開発力、そして仲間が集められているかがどうか。そちらの方を重視しています。<br>そしてMIRAISEには、ピアラーニングの場であるオンラインコミュニティがあります。そこで僕らやメンターの方々、先輩起業家、他の投資先起業家の人たちからアドバイスをもらって、足りない部分を補っていくことができます。僕らにはこうしたサポート基盤があるので、そこでカバーできるところ(例えばマネタイズの方法など)は、あまり気にしていません。投資が決まった起業家には、足りていない部分は今後一緒にやっていきましょう、と話しています。</p><p>――ありがとうございました。「ピッチは紙芝居」「1回で終わりじゃない」など、これからピッチに臨む方、起業を考える方にとって示唆に富む話を伺うことができました。なお、<a href="https://www.miraise.vc/#support-platform" target=""><u>MIRAISEのサポート体制</u></a>についてはサイトにも掲載しておりますので、ぜひご覧になってみてくださいね!</p><p><br>◆ MIRAISE Webサイトは<a href="https://www.miraise.vc/"><u>こちら</u></a></p>